祠ョーシカ

こくまろ

祠ョーシカ



 誤解です。壊したりなんてしてません。どうか話を聞いて下さい。私もよく分かってないのです。

 確かに私は、皆さんの言うような祠の前にいました。いえ……いただけではありません。祠の扉を、勝手に開けてしまいました。厳密に言うと、祠の扉は最初から少しだけ開いていたのです。まるで開けろと誘うように……いや、言い訳です。すみません。私が開けたのです。そこに関しては申し訳ありません。しかし……皆さんは知っていたのですか……?あの中に何があるのかを……。

 祠の扉を開けるとそこには、ぴったりと納められるようにして、見た目は全く同じで一回り小さい祠があったのです。

 私は好奇心に駆られて、すみません、その小さな祠の扉も開けてしまいました。もしかして、この小さな祠の中にも、またさらに小さな祠があるのではないかと気になってしまったのです。そうして開けてみると、やはりそこにはさらに小さな祠がみっちりと嵌まっていました。

 こうなるともう、自分の手を止めることはできませんでした。新たに現れた小さな祠の扉も開けました。その中にはやはり小さな祠があります。その祠の扉を開けました。また小さな祠がありました。私は半ば夢中に、しかし一方では他人事のように扉を開ける自分の手を眺めていました。一体これはどこまで続くのだろう……


 しかし、終わりは訪れました。その祠は、もはや私の小指の先程の大きさもありませんでした。扉を開けるのも非常に難しい。私は壊さないように慎重に、本当ですよ、細心の注意をはらって爪の先を扉にかけました。そーっと、そーっと、震えを抑えながら開けました。そしてそこには、何もなかった。少なくとも、そう見えました。暗くてよく見えなかっただけかもしれない。そう思って目を凝らしました。しかしやはり何かあるようには見えない。闇だけを溜め込んでいるように、何も……。

 私はぐいと顔を近づけました。ここまで来て、何もないなんてことはないだろうと。闇の奥に何か見えやしないかと。より近く、より近くと。極小サイズの祠が眼に近づくにつれ、遠近法の効果をそのままに小さな祠が視界に大きく映ります。でもまだ奥には何も見えない。もっと近付く。祠が大きくなる。でもまだ見えない。もっと近く。祠が更に大きく。見えない。もっと近く。祠が更に……

 その時、不意にと頭を前に、その小さな小さな祠の闇に向かって引っ張られるような感覚がありました。私は前につんのめりました。ぶつかる──と思いぎゅっと目を瞑りましたが、覚悟した衝撃はいつまで経っても来ませんでした。そうして恐る恐る目を開けると……ここにいたのです。

 一体、何が起こったのでしょうか。まるで幾重にも扉を開け放った祠の奥に飲み込まれ、別の場所に連れて来られたような……すみません、一体、私は何を言ってるんでしょうか。

 しかし、いずれにせよ、その時にはもう祠はどこにもありませんでした。だから、私は祠を壊してなんかいませんし、どうなったかも分かりません。それどころか、どうやってここに来たのか、ここが何処なのかすら分からないのです。

 え?足元ですか?靴の裏?

 

 …………そんな……気付きませんでした。知らなかったんです。まさかそんな、あの小さい祠が足元にあるなんて思わないじゃないですか。すみません。わざとじゃないんです。信じてください。踏んでしまったのは謝ります。お金でしたら、なんとかご用意しますから。壊そうと思って壊したわけではないんです。どうか許していただけないでしょうか。どうしたのですか、皆さん。さっきから一体、なぜ笑っているのですか──

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祠ョーシカ こくまろ @honyakukoui

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