弟子③

 ユムが元の場所に戻って正座した。


「改めまして、ご指導、ご鞭撻のほど、よろしくお願いします」


 ものすごく礼儀正しく言われた。


 何も気づいてないようで罪悪感を覚える。


「ところで、手は大丈夫なのか?」


「え?何でですか?」


「そいつ触っただろ。かぶれなかったか?」


 俺はテケリリを指さす。


「テケリリちゃんですか?アレルギーとか今のところ出てませんけど」


「ペットみたいに言うな!」


「ほへ?何でですか、かわいくないですか、テケリリちゃん」


「ユム」


「はい?」


「視力はいくつだ?」


「1.5ですよ。それがどうかしましたか?」


「よく見えた上で、あれが可愛いといってるのか?」


 俺にはグニョグニョして目玉が大量についたグロテスクな化け物にしか見えない。


「もちろんじゃないですか。え?かわいくないですか?」


「俺には気持ち悪いだけなんだが」


「そうなんですか。まあ、感性は人それぞれですよね。犬派もいれば猫派もいるわけですから」


 そいつは犬猫と一緒にしていいやつじゃないだろ。


「邪神の手先だぞ、そいつ」


「やらされてるんだから仕方ないんだよね。テケリリちゃん?」


「テケリリ♡」


「こいつ、今ちょっと甘えた声出さなったか?」


「ん?いつもこんな声ですよ」


「テケリリ」


 俺は、この子が急に分からなくなった。


 シェイプシフターにはあんなビビってたのに。


 あれと、どっこいどっこいだろコイツ。


 俺は、テケリリの方を見る。


 ……


「テケリリ」


 ……


 気持ちわる!


           ◇


「話しが逸れた。カード交換の話に戻ろう」


「はい」


「あの、アサキさん、交換するカードを選んで頂いて、デッキの編成もアサキさんがやって頂けませんか?」


「いや、それは自分でやって欲しい」


「ダメですか……ご自分のデッキのこともあるのに、図々しかったですね。ごめんなさい」


 ユムがシュンとなる。


「いや、そうじゃなくて、交換を人任せにしたら、この先、もし悪意のある経験者がいたら、騙されて、いいカードを抜かれるかもしれない」


「私はアサキさんを全面的に信用していますよ」


 ユムは、うーん、と唸って、いったん考え込んでから続けた。


「でも、そうですね。気をつけないと。指摘して頂いてありがとうございます」


「編成も自分でやった方がいいな。アドバイスはするけど、その方が、何を組んだか覚えてられるだろ?」


「はい。でも、出来れば対戦中の指示も頂ければと……私、まだこのゲームのこと何も分からないので」


「分かった。出来る限りやってみる」


「ありがとうございます。すごく頼もしいです」


 ユムはほっと胸をなでおろした。


「けど、君がこのゲームを理解して強くなるのが一番いい」


「私が、強くなる……」


「対戦中はポンポンスキルを動かさなくちゃいけないから、結局自力でやるのが確実だ。それに、戦略も人それぞれのやり方があるから、俺も君のやり方を参考にできるかもしれない。戦略に絶対的な正解はないんだし」


「それって、私、期待されてるってこと……」


「そうなる」


 ユムは、また立ち上がり、テケリリの方に行った。


「テケリリちゃん、私、期待されてるって」


「テケリリ」


 また、ツンツンやり出す。


 そして、また、スカートが。


 俺は、ユムの『全面的に信用していますよ』の言葉を思い出し、目を反らす。


 しかし、あのツンツンは止めさせた方がいいかもしれない。


 変な癖が付き始めている。


 ユムが、再び元の位置に戻って正座した。


「やっぱり、アサキさんにお会い出来てよかったです」


「まあ、こんなところに呼び出されたのが、最悪なんだけどな」


「それは、そうですが。今は出来ることをやるしかないです!」


 ユムは両手の拳を握った。


 何だか気合いが入っている。


「それじゃあ、交換する前にある程度は、ゲームのことを教えておくよ」 


「お願いします!」


 俺は、覚えている限りのことを、話していく。


 ゲームの概要にある内容だと、シェイプシフターが人を襲うのは、朝8時から始まって、夜の8時までらしい。


 そこでその日のゲームが終わる。


 但し、対戦しなかったプレイヤーは、夜8時から強制的に対戦になるようだ。


「おい、テケリリ、今何時だ?」


「6時ダ」


 辺りは暗くなっている。


 テケリリの目の光線は、とりあえず照明代わりになった。


 敵が現れなければ、まだじっくり教えられそうだ。


 それから、ユムにデッキの組み方や戦い方をアドバイスしていく。


 俺もソウルマスターを思い出すいい機会になった。


 一通り説明を終えると、ユムの意思を尊重してカード交換をする。


 俺は闇属性魔法型、ユムは光属性攻撃型で統一した。


 『風神』を含めた、使えそうな俺のカードはユムに渡した。


「こ、ここ、こんないいカード、いいんですか?」


「ユムなら、すぐに使いこなせると思うよ」


 お世辞ではなく、本当にそう思っていた。


 俺の方は、交換して戦力アップになるようなものはなかった。


 それは、ユムも理解していることだった。


「はあ、御恩はいつかお返ししたいです」


 ユムは素直で、俺の言ったことを頑張って理解してくれようとする。


 頑張り過ぎてしまうタイプだと思ったので、最小限のことを伝えたところで寝ることにする。


 廃ビルの一階の、俺は廊下で、ユムは1室で1夜を明かした。


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廃課金ソシャゲでデスゲームが始まったんだが、ガチャも課金もなくなってて実力で生き残るしかなくなった 砂擦カナメ @sunazuri

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