第五話 初めての魔法

アルベルは家を出た後普段行きなれた村の広場へと向かった。


この村、『へブーレ』は大して広くないが少し外れたところに様々な施設があるため、狭い割には人が多く住んでいた。


そのため父親の作った武器もそこそこ売れたりするのだ。






「いってらっしゃい、といってきます・・・か。」




アルベルが小石を蹴りながら公園へと歩みを進めていた。




「あ?あれは・・・。」




アルベルの視線の先にはベンチに座り、項垂れている男がいた。


あの男は斜向かいに住んでいる肉屋の倅であるジャーロであった。




「ジャーロ兄ちゃん、こんなとこで何してるの?」




俺は無邪気な子供を演じつつ、ジャーロに声をかけた。




「あぁ・・・アル君か・・・。」




アル君、アル、アルベル、俺は村の人間達に様々な呼ばれ方をしている。




「そろそろお肉屋さんを開けなきゃいけないんじゃ無いの?僕でよければお話、聞くけど・・・。」


「いや君のような子供に相談することでは無いんだけどね・・・」




子供と言っても今年で18になる予定だったんですけどね。お前つい最近16になっただろ、年下ジャーロ。




「実はもう村を出ようかと思っててさ・・・。このままこの村で肉を捌いて一生を終えるなんて考えるとさ・・・。いや!別に肉を捌くのが嫌いな訳じゃなくて!ただ・・・自分の中の世界をこの村で終わらせるのが凄く・・・怖くなって・・・。」




なるほどな・・・確かに小学生男児と同等の年齢の子供に話す内容では無いな。


要するに無知で終わる自分が怖いってことか。


死ぬ前の俺に少しだけ似ているな。


ゲームばかりして外に出ず、外界との交流を極力してこなかった。


しかし、こいつの場合は自ら現状を打破しようともがいて悩んだ結果の相談だった訳だ・・・。




「・・・・・・待ち望んでいるだけで永遠に続くものなど、この世に存在しない。自ら考え行動しなければ、必ず後悔する終わりがやって来る。やらなければならないことに悩む必要は無いが、選択出来る事なら幾らでも悩んでいいんじゃないか?」




ジャーロはその言葉を聞き、固まってしまっていた。




しまった、遂素が出てしまった。それに俺は柄にもないことを・・・。




「そっか・・・俺は悩んでも良いのか・・・。」




どうやら俺の柄にもないセリフはジャーロの心に引っかかっていた何かを取り払うことが出来たようだ。




「ありがとうアル君。普段の君とは違う大人びた何かに救われたよ。選択出来ることには悩んでいい・・・か。俺もう少し考えてみるよ。」




そう言い残し、ジャーロは公園を後にした。


この調子なら彼は自分にとって最前の選択肢を出せるだろう。


本当に今日は柄にもないことをした。


今日はもう帰ろう。






アルベルがその場を後にし、村の出口付近へ近づくと、村の近くにある森林から爆音が轟いた。




「何の音だ!?」




アルベルが村の外へ走り出し、森林へ向かった。












へブーレ村の付近の森林、別名ダルバード樹海へ到着した。


アルベルは周囲を見回し、声がけをしつつ樹海を散策した。




「誰かいるのか!?いたら返事をしろ!!」




しかし返事は返ってこず、ただ静寂だけが広がった。


これはかなり不味いな・・・返事が返ってこねぇってことはもうそいつが死んじまってるか瀕死の重症を負ってるってことだろ・・・。この村付近で人が巻き込まれずにあんな爆音がなる事など今まで無かったし、ほぼ有り得ない・・・!巻き込まれた人を早く見つけださねぇと・・・!




「だっ・・・誰かぁ・・・」




アルベルは微かな助けを求める声を聞き逃さなかった。声の聞こえる方向へ体を方向転換させ、走り始めた。




子供の体のせいで足が遅く、全力疾走をしてもジョギング程度の速度の大人に勝てそうになかった。




「間に合ってくれよ・・・!」










そして遂にアルベルは声が聞こえた場所に辿り着いた。




「無事か!?」




アルベルは息を切らしながら大声で問いかけた。


こんなことならもう少し外に出ておけばよかったとこれほど思ったことは無かった。




「こっ・・・ここだ・・・。」




かすれ声のところには大木に押しつぶされそうになっている狩人の男がいた。




「何があった!?どうしてこうなった!?」




狩人の男は言葉を発さずに指をアルベルの背後に指した。


アルベルが振り返るとそこには巨大な獣型のモンスターがいた。




「コイツは・・・!"ベテランキラー"!!」




ベテランキラーとは繁殖力が凄まじいモンスターで、経験豊富なベテランの魔法使いや剣士が戦っても勝率が五分五分の上級モンスターである。




「くそっ!取り敢えず逃げるぞ!出れるか!?・・・・・って無理だよな・・・!」




アルベルはベテランキラーに対して向き直り、狩人を庇うように構えた。


しかし子供の肉体の彼では到底太刀打ちできない強敵であった。




何か気を引いて逃げねぇと・・・確かベテランキラーの特性は・・・。




アルベルは周囲を見回し、近くにあった爆発する性質を持つ草である起爆草をむしり取り、ベテランキラーの背後へ投げた。




起爆草は引っこ抜いてから数秒すると爆発する雑草の一種だ。


ベテランキラーは視力がほぼ発達しておらず、その代わりに耳と毛の揺れなどによる空間把握で周囲を認識しているのだ。


つまり、さっきの狩人は誤って起爆草を引っこ抜きらベテランキラーを呼び寄せてしまったに違いない。


全く・・・さっきの狩人にはしっかり礼をしてもらはねぇとな。




ベテランキラーの背後で小規模の爆発が起こった。


案の定ベテランキラーは爆音の方向へと体を向け、遠吠えした。




「さぁ逃げるぞ・・・!あまり大きな音は出すんじゃねぇ。いいな?」




狩人の男は静かに頷き、大木の隙間を縫って少しづつ体を捻り出した。




「ここの近くに俺の住んでいる村がある。急いで行け!」




狩人の男は、自分がこんな少年にですら足でまといだと分かり、素直に走り去った。




さぁて・・・こいつの対処をどうすべきか・・・。確かこいつには物理攻撃がほぼ通らないんだったよな。だったら・・・試してみるか・・・!




アルベルは懐から水晶を取り出した。


それは自分のステータスが記録された水晶だった。


すると正面にいたベテランキラーの足に起爆草が引っかかり、誘爆した。


アルベルはその爆発に巻き込まれ、水晶を手放し、吹き飛ばされてしまった。




「ぐっ!早く水晶を・・・!」




アルベルはギリギリ届きそうなところに水晶があり、そこへと手を伸ばした。




「頼む・・・!これが俺の償いなんだ・・・!これ以上自分の両親を呆れされる人生は送りたくねぇんだよ!」




水晶に手をかざすと水晶が紫色に光だし、パラメーターが記載されている映像が映し出された。


そしてパラメーターの項目にMPという項目が追加された。


今まで魔法が使えなかったのはMPの覚醒ができていなかったからなんだ・・・!


MPが前提の異世界でMP取得による魔法の覚醒なんてわざわざ記録しねぇもんな・・・!




「これが俺が蓄えた知識の魔法だ・・・!フル・ボーマ!!!」




そう唱えると巨大な火球が掌から射出された。


毛の多いベテランキラーに炎系の魔法は弱点となり、油分を多く含んだ毛に引火した。


ベテランキラーはそのまま燃え尽き、その場に倒れた。




「これが魔法か・・・すげぇ疲・・・れ・・・る・・・」




アルベルはその場に横たわり、気を失った。


これがアルベルことフジイ・カルマの記録帳の伝説の1ページとなることになるのだった

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親泣かせの異世界記録帳 木霊ミズチ @mizuchi0080

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