第四話 成長は早い

母親の本を書斎から持ち出し、それをベッドの下に隠しながら両親が居ない時間を見つけては何度も本を読み返した。


『魔道の導き』にはやはり俺の知らないことが隅から隅まで書いてあった。


分からないことが一言一句全て載っているのを見ると気持ちが良かった。




どうやらこの世界の歴史はかなり奥深く、わかっていないことだらけらしい。


まずモンスターの出処が不明らしい。


世界で初めて魔法を使い、世界を発展させ、モンスターを生み出した存在は全部で10人いるようだ。


約600年程前に存在した彼等は親しみと畏怖の思いを込めて『原初の魔術師』と呼ばれているようだ。




彼らはそれぞれ


唯一絶対の主への忠誠を司る『遵従じゅんじゅう


偽りの信仰対象を司る『虚影きょえい


この世の事象の名称を司る『黙実もくじつ


安息の時を司る『安寧あんねい


慈愛と慈悲の心を司る『敬愛けいあい


自然の摂理を司る『不殺ふさつ


純潔な身と心を司る『純身じゅんしん


他者への悪行を司る『強奪ごうだつ


真実と偽りを司る『偽行ぎこう


人の欲望を司る『飢餓きが


という名を冠した魔法使いらしい。


正確には魔術師と名乗っていたようだが。




特にその中の一人、食欲、物欲、睡眠欲等の欲と名のつく『飢餓』を冠する魔術師『グリード』が前述の全ての欲を満たすために大量の種類のモンスターを生み出したそうだ。


そしてその中でも特殊指定討伐モンスターとして登録されているモンスターは『魔獣王』と呼ばれ、この世に5体存在する。


この魔獣王ってのは600年前から存在し続けているらしい。




「このグリードってやつはこの10人の中で一番嫌われてそうだな。」




それもそうだ。そもそもこの10人がいなければモンスターが生まれることも無かったのかもしれないのだ。


その中でも世界を恐怖のどん底に落とすほどのモンスターを生み出した『グリード』という魔術師にはしっかり反省してもらいたいものだ。




魔法の観点だけ見れば、多方ゲームと変わり無かった。


魔法には基本属性が存在しているらしく全部で七属性。


炎属性、水属性、雷属性、土属性、風属性、光属性、闇属性。




この辺はファンタジー系のゲームではよくある設定だ。そんなあるあるにも関わらず俺が一番惹かれたのは、それぞれの属性をかけあわせることによって新たな属性を生み出すことが可能になるというところだ。


同じ属性を掛け合せてもスキルの所持者によって全く別の魔法になったりと可能性は無限大だそうだ。




この世界の本は読んでいて楽しい。


ゲームの攻略本を自分で読み解いているような感覚になるのが俺をワクワクさせた。


学校の教科書もこれくらい面白ければよかったのだが。


あの日以降も母に隠れては書斎に入り、ベットの下に本を隠しては読み漁った。


そんなことを繰り返し、月日は流れていった。











俺が異世界に転生してから7年の時が過ぎた。


これといって特に変化は無く、両親の「大きく、優しく、健全に育って欲しい」という願いは3分の1だけ叶い、すくすくと成長していった。


外で遊ぶことは少なく、本ばかり読んでいた俺だったが、パラメーターは順調に上がっていた。


久しく水晶に触れていなかったが水晶に手を伸ばし、自分のパラメーターを確認した。


水晶に手をかざすと映像が映し出された。




名前:カイン・S・アルベル

年齢:7歳

身長:121cm

体重:23.4kg

レベル:4

体力:47

知力:154

腕力:20

攻撃力:28

魔力:44

防御力:21

魔法耐性:38

速度:20

運:50

スキル:未定




やはり運だけはどうにもなっていなかったがそれ以外の値は順調に伸びていっていた。



「んー。やっぱしスキルはまだ決まっていないんだな・・・。」



アルベルは顎に手を当てて悩んだ。


どうすればスキルを習得できるのか、今まで大量の本を読んだがそれに関しては何一つ記されていなかった。


父親の鍛冶の現場を見たりだとか魔法詠唱の本を読んでも身につかなかったためもうお手上げ状態だった。




「ここまでくると、そもそもスキルって項目があることがおかしいのか・・・?」


「あら?アルベルも立派な数値になってきたわね。」


「お母さん。」




俺は両親に対して前世の記憶の事や俺自身の人間性のことを一切喋っていない。


両親の前でだけはいい子ぶってるのである。


変に心配はかけたくないし、俺の本質を知られてしまえば暖炉に放り込まれても文句言えねぇ。


それに言ったところで信用されるわけが無い。




「ついこの前まで赤ん坊で、ハイハイも覚えたてで、言葉を喋るようになったのだってつい最近の気がしてたのにもうこんなに大きくなって・・・。」




ハイハイも言語も既に知っていたんですけどね。


まぁただこの世界の言葉が理解できるのは唯一の救いではあった。




「僕はお母さんとお父さんの子供だよ?賢くて当然だよ!!」


「まぁこの子ったら。」




母親とアルベルは笑いあった。


アルベルは僅かに残った良心が少しだけ傷ついた気がしたけどほんとにただの気のせいだった。




「じゃあ俺外で遊んでくるよ。」




アルベルは玄関に向かって歩いて移動した。




「暗くなる前には帰ってくるのよ。・・・・・・アルベル!」




アルベルは急な呼び掛けに振り返った。




「いってらっしゃい」




アルベルはその時ふと思い出した。








まだ日本にいた頃。


そう俺が死んだ日。


コンビニへ行こうと玄関へなるべく音を立てないよう向かった時だった。




「いってらっしゃい」




背後からそう聞こえたのだった。


普段顔を合わせてもほとんど会話のない両親だが、俺が外出する時だけはいつも決まって声をかけてくれていた。


だが俺はそれに一度も反応することなく死んでしまった。






「行ってきます・・・。」


アルベルは母親のその言葉に反応し、やがて玄関から外へ出た

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