祠を壊したけど許された話
春海水亭
大丈夫大丈夫
えーっ!いやいや、そういうことは言わないほうが良いっすよ!
動画配信者が皆犯罪者か犯罪者予備軍だなんて普通に偏見っていうか、差別ですよ差別!まあ、俺がやってた配信はほぼ犯罪みたいなもんなんですけどね、あはは。
あ、そうです。そうです。今はもう週七で働く真面目な人間ですけど、数年前までは相方と迷惑系やってて、んで固定もついてたんで結構生活できてましたね。まあ、女は愛嬌なんてのは昔の言葉ですけど、男もやっぱり愛嬌ですから、こんな顔立ちでも……って否定してくださいよぉ!俺って結構顔良い方じゃないですか。
いやいや、迷惑系って言ってもほぼ犯罪であってガチの犯罪はやってないですよ。
禁足地に入ってみたり、なんかヤバい心霊スポットで飲み会してみたり、その流れで服を脱いでみるとか、あとは映像には出してないですけど立ちションとかもやってましたね、ま、それぐらいの人に迷惑をかけない可愛げのある行為だけですよ。
えっ、許可?取ってなかったですよ。あー……まあ、確かにそこらへんは犯罪かもしんないですけど、別にそれぐらいなら良いじゃないですか、それで誰かに迷惑がかかるわけじゃないじゃないですし。それに視聴者は見たがってるんですよ、インチキオカルトが蹂躙されるところか、俺みたいなのに罰が当たるところ。
やめたきっかけですか?
そうですね、まあ周年企画でちょっと派手なことやろうかな~って思って。
まあ、適当に曰くの有りそうな田舎の祠を調べて、んでその祠をぶっ壊してみることにしたんですよ、クソ田舎ならインターネットも通ってないだろうし、俺等が配信してもバレないだろって思って。
まあガチ犯罪っすけど、やっぱ人に迷惑がかかるわけでもないですし……それに、周年なんで派手なことやんなきゃ、でしょ?
一応旅行も兼ねて前泊して、実況しながら▓▓県の山奥の集落まで車を飛ばして……でまあ、色々ぶち込んだスポーツバッグといっしょに祠に向かいました。クソ田舎なので街灯無いし、真夜中だったので転げないかみたいなことばっかり考えてましたね。ええ、真夜中っすよ。真っ昼間にやったって雰囲気出ないじゃないですか。
んでまあ、ちょっと歩いたら辿り着きました。
まあ、特に変わったところは無かったですね。
石の土台があって、その上に小さい屋根のついた注連縄が巻かれた木製の家みたいなのが乗っかってて、扉がついてる。中身は見えないんですけど、御神体とか入ってるならそれぶっ壊してフィナーレでリスナーぶち上がるかなーって思いました。
まあ、よく知らない祠なんですけど……適当に盛り上げるために「最悪の怨霊が眠っている」とか「人知れず怨霊を鎮めるために生贄の儀式が行われている」とか、言いましたね。まあ、そもそも俺、そういう規模のやべー存在なら祠じゃなくてちゃんとした神社じゃないかな?とは思うんですけど、言うだけならタダなんで。
脆かったっすね。
もう解体ショーぐらいの勢いでやるつもりだったんですけど、屋根に金槌一発でもうガラガラ崩れていって……んで、カランカランって音がして……ああ、御神体が転げ落ちたんだなって、拾い上げたらビールの空き缶でした。
は?って思って、不心得な奴が祠の中にビールの缶突っ込んだのかなって。
んでまあ、石の土台の上に崩れた残骸が乗っかってるんで、その中から本物の御神体を探そうと漁ってるんですけど、コンビニの弁当容器とか、ビニール袋に入った野菜くずとか、十数年前の子供向けの玩具とか、そういうものしか見つからなくて。
えっ?じゃあ祠の中にはゴミが突っ込まれてただけなの?みたいな、驚きました。ただのゴミ箱……?いや、こんなところにゴミ箱なんてある?じゃあ、俺等みたいな奴が御神体とゴミをすり替えたとか?まあ、ワケわからないんですけど……とりあえずゴミの中に御神体っぽいものが混ざってないか探し始めました。
祠の木片、使用済みのティッシュ、鳥の骨、お菓子の袋、消費期限の切れたパック肉、頭のないフィギュア、レシート、ペットボトル、雑誌、空き箱……漁ってる内に変だと思ったんですけど、なんか多いんですよね。どう考えても小さい祠に入り切らない量のゴミがあるっぽくて。
そういうドッキリ企画だったってことにしようか……って瞬間に、パッて懐中電灯で照らされました。
優しそうな笑顔の爺さんと、やっぱ笑ってる婆さんの取り巻きが二、三人。
どう考えても管理者で、あ、やべー……バレたなって思いました。
ゴミが多いことよりもそっちのことの方が怖いんで。
「……あー、壊しちゃった?」
爺さん、祠をちらっと見てそう言って。
監視カメラとかあったのかなぁ、とっとと逃げてりゃ良かったなぁとか、どう言い訳しようかな、とかそういうこと考えてたら、爺さんが笑って言ったんすね。
「まあ、しょうがないよ、しょうがない。モノなんていつか壊れるもんだから、もう、しょうがない、大丈夫大丈夫」
おー……これ、許してもらえるっぽいなって。
ちょっと安心しましたね。
「ただ、代わりの祠は用意しないといけないからね」
あー!って舌打ちは堪えましたけど、やっぱ弁償しないといけないかなぁって。
周年でガンガンスパチャ来たのに祠代吹っ飛んで最悪だなーって思いました、まあ警察沙汰にならないなら良いんすけど。
「どっちの家が良い?」
家ですか?
聞き返しましたね、そりゃ。
「結局、御神体が祀られていて、ちゃんとお祈りされてれば祠の形なんてなんでも良いから、神様もね、広い家の方が良いでしょう?」
「あの弁償とか――」
「どっちの家が良い?」
「じゃあこいつの家で」
俺、咄嗟に相方を指さしました。
こういう話の通じなさそうな爺さんってまともに相手しちゃだめっすもん。
「じゃあ、よろしくね」
爺さん、相方の方見てニコニコ笑って言いました。
あー、怒りを隠してるとかじゃなくて本当に笑ってるんだぁって、そん時になりましたね。
「もう、こんなことしちゃだめだよ」
「はい、すみませんでした……」
二人で頭下げて、車に乗って……んで、帰りました。
まあ、住所教えたわけじゃないし、大丈夫だろって。
翌日、相方の家の郵便受けに空の弁当容器が突っ込まれてました。
いや、もう……泊まるとかもしないで深夜の高速走ったんで、誰かがついてきたらすぐわかりましたよ。俺ら二人、すぐに引っ越しの用意して、それで……やっぱ相方の新しい家にはゴミが突っ込まれてるんすよね。
どこに引っ越しても、何回引っ越しても、相方の家はゴミが詰め込まれてて。
あー……霊能者とかっすか?
なんか無理みたいなこと言われましたね、死ぬまでは無理みたいな。
こいつの居住空間そのものが駄目になってるから、もう新しい祠を作るとかそういうことしても全部無駄らしいんすよね。
まあ、ゴミ屋敷に住んでる人間は多いって言ってもゴミ屋敷ってまあ自分のやった結果なっちゃうもんじゃないですか。誰かに常にゴミを投げ入れられ続ける状態で正気で生きるのってまあ難しいっすよ。
だから、アイツ唯一の逃げ場所である自殺を選んだんすね。
……うん。
いや、御愁傷様じゃないっすよ。やだなぁ。アイツ生きてますよ。
ギリギリ、俺間に合ったんで、死なせませんでしたよ。
病室はゴミだらけで、病院の人には迷惑だなぁって思いますけど……まあ、アイツは何も思ってませんよ。意識がずっと戻ってないんすから。
だから、俺頑張ってるんじゃないっすか、アイツの入院費用稼ぐために週七で働いて。
だって、アイツが死んだら次は俺の番っぽい感じでしょ?
とりあえずアイツが生きてる限りは俺は大丈夫なんですよ。
【終わり】
祠を壊したけど許された話 春海水亭 @teasugar3g
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます