第5話 最強の力があるということ
ギルド長室内。
「ドラゴン討伐の褒賞金が先ほど決定し、ちょうど10億なのだが……」
「それを水晶を壊しただけの街の英雄に補填させると言うのですか?」
サラの言葉にギルド長アインザックはバツが悪そうに頭を掻く。
『けしかけたのはお前だろ!』と目の前の部下に怒鳴ってやりたかったが、サラは今や上級受付嬢。
さらに職員の中でも群を抜いて優秀であり、ドラゴン襲撃の時に彼女がいなければもっと大きな被害が出ていた。
その実績もあり強く注意出来ず、口も上手いので言い返されてしまう。
この一連のやり取りを、倒れたふりをしたモナはソファーに横になり聞き耳を立てている。
当初は目を瞑り息を荒げて、いかにも魔力切れで辛いです雰囲気を出していたが、すでにその演技は止めている。
そろそろ自分も反省している態度を見せたほうがいいんじゃないか。
そう思ったモナが意を決し目を開けると、女の子が顔を赤らめこちらを見ている。
「モナちゃん……」
誰だこいつ……とモナは記憶を辿る。
長い金髪に、整った顔立ち、全身黒色の服に赤い鎧を着けて……。
「あ、抱き付いてきた人?」
「レイナアルスベントと申します。男爵家令嬢ですが分け合って冒険者をしており……」
聞いてもいないのに、詳細な自己紹介を始めるレイナ。
モナは助けてもらったお礼を言おうと思ったが、自己紹介後も話が止まる気配がない。
なのでまた目をつぶり、気になっている『壊した水晶10億だった件』に耳を澄ませる。
「ギルドに10億を立て替える余裕などない!」
「立て替えるじゃなくて払うんです! それとは別に10億をモナちゃんに払う!!」
「バカ言うな! 万じゃなく億単位の話をしているんだぞ!」
サラとギルド長の話し合いは次第に怒号が飛び交い、モナはそれにビクビクし始める。
自分が壊したという事実……それがモナを苦しめた。
限界まで達したモナは土耳栓を発動。
いま起こっている現実を音と共に遮断し、今日の三時のおやつは何にしようという思考に切り替える。
「あの抱き付いた時、僭越ながらドキッとしてな……こんなことは、は、初めての気持ちだったのだ……」
この状況の中、二人の怒号を気にもせず、レイナはモナへの想いを語る。
彼女は男という存在が嫌いだった。
まだ世間も知らない貴族令嬢だったころ、彼女はその見た目とスタイルの良さから、多くの貴族から求婚を申し込まれた。
そこまでは良かったのだが、その好意が自分の心に向けられたものではなく、体に向けられたものだと気付いた。
パーティーに参加しても、二人きりであっても、男たちの目線はレイナの胸ばかりに向けられていた。
『だからどうした? それを利用するのが貴族というものだ』
父に相談するとそう言われた。
元々父から愛情を感じていなかったレイナは、この一言で自分は道具なんだと思った。
嫌気が差した彼女は15歳になった時、家を飛び出し王都で冒険者になった。
そこから僅か2年でBランク冒険者まで駆け上がる。
なんの訓練もしていなかった貴族の令嬢。
多少剣の才能はあったものの、それだけではこの速度で駆け上がれない。
彼女の強さは本人すらまだ自覚していないスキルにあった。
無自覚視線把握・誘導
他人が見ている箇所を正確に把握でき、特定の動きで視線を誘導することも可能なスキル。
胸ばかり見られていたと把握できたのもこのスキルがあってこそであり、彼女はそれを『男は全員ゲス』と思い込んでしまった。
「私のスキルは剣が燃え、踊るような動きの舞踊剣と言われていて、いつかあなたに見てほしいな……なんて……」
よっていま、土耳栓をしているモナに聞かせているこれは、正確にはスキルではなく剣に火の魔法をまとわせて踊る特技のようなものである。
しかしスキルとの相性が抜群のため、数多くのモンスターを倒し、エロい視線を向けてくる男どもをなぎ倒してきた。
「お、おかしいということはわかっている! お、女同士だしな。で、でも、その……好きでいても良いだろうか……」
突然の告白、もしモナがこの言葉を聞いていたら、彼女と二度と関わらなかったことだろう。
けど今モナは外部の音を遮断中であり、頭に浮かんだスイーツロールに思いを馳せている。
だからこのタイミングで、口元をにやけさせてしまった。
それを『好きでいていい』と捉えたレイナ。
彼女の恋はここから始まったのだ。
「もういい。とりあえず俺はもう一度王宮に行き、宮廷魔導士長に報告してくる」
部屋から全員を追い出したギルド長はため息をつく。
優秀なサラ受付嬢が、宮廷魔導士たちから借りている測定器が安いものだと思うはずがない。
つまり価値があるとわかっていて、壊れるとわかっていてあの伝説の少女に壊させたのだ。
「モナ・リグレットか……」
突如頭角を現した、という言い回しでは足りないほどの活躍をした、まだ若干15歳の少女。
その所持スキル『絶対領域』
すでに国王や高位貴族の耳にも入っており、誰しもが少女を求めている。
このスキルは一言で言えば『絶対防御・無敵』だ。
例えば俺がこの少女と組めば、二人だけで国を亡ぼすことも可能。
馬鹿げた考えに、ギルド長は首を横に振る。
でも必ずいるはずだ。
そのような考えをしている者が……。
だからサラが何をしようとしているかもわかる。
「この王都から追い出すつもりだろ? あいつが平穏に暮らせるように。でもな、そんな単純じゃねぇんだよ。世の中はな……」
中二病ぼっち少女は今日も右眼が疼いている~絶対領域で全ての攻撃を防ぐ魔法使いは魔王を倒す旅に出る~ めい茶 @mei-tea
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