いっかくじゅうのためいき
大隅 スミヲ
第1話
屋敷を取り囲むように大勢の男たちが群がってきていた。
その数は十や二十ではなく、もっと多くの男たちであった。
背の低い男もいれば、背の高い男もいる。痩せた男もいれば、腹を突き出すようにして歩く太った男もいる。年齢もばらばらで、若い男もいれば、年老いた男もいる。
男たちは屋敷を囲むように植えられた木々の間から顔を覗かせ、屋敷の中の様子をひと目見ようと頑張っているのだ。
部屋の周りは
わたくしは、その御簾で囲まれた部屋の中にいて、御簾越しに外の様子を眺めている。
男たちの目的。それはわたくしだった。わたくしの姿をひと目見ようと集まってきているのだ。
わたくしには美貌がある。そして、可愛い。自分で言うのもおかしな話だが、それは事実なので仕方のないことだ。
かぐや。それがわたくしの名前だった。いまから数年前に、わたくしはひょんなことから、この世界へと転生してしまったのだ。
目が覚めた時、わたくしは竹の中にいた。狭くて、暗くて、怖かった。わけもわからず泣き叫んでいたら、竹が光だして、それを見つけた
え? かぐや姫?
かぐや姫の物語を知らないのかって?
ちょっと馬鹿にしないでくださる。こんなわたくしでも、転生前は会社でバリバリ働いていたんだから。課長っていう地位にもいたのよ。そう、中間管理職。年下の上司からは「そんなんだから、いつまで経っても課長なんだよ」とかグチグチと嫌味を言われ、ちょっと女性の部下に気を使って話しかけてみたら、やれセクハラだ、やれパワハラだの言われていたわ。でも、そんなわたくしでも頑張って生きていたのよ。
享年、四十歳。電車の中でハンカチで汗を拭いていたら痴漢と間違われて、身の潔白を示そうとしたら、ホームから突き落とされて、ちょうどそこへ入ってきた特急列車に撥ねられちゃったってわけ。
ちょっと、そこは笑うところじゃなくて、泣くところだから。
で、気がついたら竹の中。四十歳まで童貞を守り通せば、転生できるって噂も嘘じゃなかったってわけよ。
まるで玉のような子なんて言われたわたくしは、ぐんぐん成長していって、その美貌に磨きをかけていったわ。いまじゃ、屋敷を取り囲むように大勢の男たちがわたくしの姿をひと目見ようとやって来るようになったってわけ。もうね、貴族やら、大富豪やらと次から次へと、わたくしのことをひと目見ようとやって来るのよ。
この屋敷も、とある貴族がくれたものなのよ。でもね、最近になって、この屋敷をくれた貴族が言い寄ってくるわけ。わたくしと結婚したいとか何とか言っちゃって。
最初は上手く言いくるめて、話を逸らしたりしていたんだけれども、ちょっとしつこくてね。もう、面倒くさいったらありゃしないわよ。
それで、わたくしも考えたの。ここはかぐや姫の物語のように無理難題を出してやろうと。
「一角獣のため息を持ってきてくださるかしら」
わたしがそう言うと、その貴族は困った顔をしていたわ。確か、大納言とかいう位に就いている貴族様だったはずよ。でも、彼は一角獣がなんだかわからないのよ。だって、そんなものいないもの。彼が一角獣のため息を探しに出て
でもね、わたくしは期待しているのよ。彼がいつか、一角獣のため息を見つけて持って帰ってきてくれることを。
おしまい
いっかくじゅうのためいき 大隅 スミヲ @smee
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