吉備国殺人事件

大崎真一郎

第1話 吉備バス

吉備バスとは、その名の通り吉備国ー岡山県、広島県東部でバスを運行している会社だ。

基本的に岡山駅と観光地や中都市を結ぶ高速バスが多く、岡山ー尾道、岡山ー閑谷学校、岡山ー真庭(蒜山高原)がその代表的な例だ。

その中でも特に力を入れているのが、岡山ー尾道の「尾道エクスプレス」である。

尾道は新幹線駅の新尾道駅が中心部から離れており、さらに「こだま」しか停車しない。

在来線は岡山から1〜2時間かかる上に、岡山駅周辺の混雑が激しい。

そんな中、新幹線より安く、着席保証の「尾道エクスプレス」は人気を博しているのだ。

しかし、近年は乗車率が低下している。その理由は競合するバス会社の存在だ。

1つは岡山急行自動車。通称「岡急」の特徴は、その快適さにある。岡山ー尾道を結ぶ「しまなみ」は「尾道エクスプレス」より料金は高いものの、独立3列シートと、抜群の快適性を誇っている。他にも岡山ー姫路、岡山ー福山など様々なバスを走らせている。

もう1つは福山バス。

これは福山ー尾道を結んでおり、「のぞみ」で福山まで行ってから福山バスに乗り換えるというルートを使う人が増えている。

それが吉備バスをめぐる状況である。

そんな中、10月2日に尾道、10月6日に備前、閑谷学校で吉備バスの運転士、黒岩と山崎が殺害される。

被害者の荷物が盗まれていないことから明確な殺意を持った犯行と断定した広島県警と岡山県警は合同捜査を行うこととし、広島県警のベテラン高月と岡山県警の若手刑事三宅が捜査を始めた。

まず2人は吉備バスの社長に会うべく、岡山市にある吉備バスの本社へと向かった。

しばらく応接室で待たされた後、社長と会った。吉備バスの社長は吉塚孝太郎、54歳である。1代で吉備バスをここまで成長させた、有能な経営者と言われている彼も今回の事件を受けて相当疲れているようだった。

まず三宅が自己紹介をした後、

「今回の事件で殺害された黒岩さんと山崎さんはどのような方でしたか。」

「黒岩くんは運転士の中でもベテランでね。最近は新入社員の教育もやっていた。山崎くんは若手で、実力も充分あって将来に期待していたよ。本当に惜しい人たちを亡くしたものだ。」

と、吉塚が言う。

「私は広島県警の高月といいます。

殺害された2人は、恨みを買うような人物でしたか?」

吉塚が、

「そのような事は無いと思う。2人とも立派な人物で、社員からの人望も厚かったんだ。」

「特に山﨑さんは若気の至りで、と言うことはないですか?」

「そんなことをする人物では無い、と言うことは必ず保証するよ。」

そうなると、無差別犯か、吉備バスという会社に絡めた殺人という事になるだろう。だが、手口的に無差別犯ではなさそうだ、と三宅は思った。

2人は捜査本部に戻って、吉塚社長との会話を報告した。他の刑事たちも吉備バスに関連した殺人事件だろう、と判断し、吉備バスについて調べる事にした。

その結果、吉備バスは何年売り上げが低下しており、岡山急行バス、福山バスといった競合他社が原因であることも分かってきた。

「この競合している会社を調べよう。私が福山バスを調べるから、三宅くんが岡山急行バスを調べてくれ。」と、高月が言い、次の捜査会議は2社の話を聞くところからスタートする事にした。

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吉備国殺人事件 大崎真一郎 @sinitirou

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