第51話

 湖畔には子どもたちの歓声が溢れている。かき氷機のハンドルをひたすら回していたダニイルは、ひと息ついて腕まくりをした。

「これは結構な重労働だな。セルゲイ、代わってくれよ」

 器に盛られたかき氷に練乳をかけて、果物を飾り付けていたセルゲイは笑顔で肩を竦める。

「なにを言うんだ、ダニイルさん。近衛隊長ともあろう方が、かき氷を作るくらいで弱音を吐いてどうするんだい」

「弱音は吐いてないだろ。料理長は人使いが上手だな……っと。次の客だ」

 氷を削る爽快な音が青空に響き渡る。

 セルゲイとダニイルのかき氷屋は村人たちに好評を博していた。

 イチゴシロップから始まったかき氷はセルゲイと結羽の考案により、練乳をかけて果物と小豆餡を添えるという新作を生み出した。そのかき氷は『白くま』と命名されている。

 白くまを始めとした色とりどりのシロップが並べられるかき氷屋を、村の子どもたちはとても楽しみにしている。主に氷を削っているのは、お手伝いに駆り出されたダニイル近衛隊長だ。

「しろくま、まま、たべるの」

 エミルは小さな手を結羽と繫ぎながら、かき氷屋へやってきた。

 アイスリンクで滑っていたのだが、喉が渇いてしまったらしい。

 小さな皇子は言葉を喋れるようになり、ユリアンと同じように白い耳を残して、人の顔と身体に成長していた。みんなに愛されて、毎日とても元気に遊び回っている。

 天使の笑顔をむけられたダニイルは瞬きもせずエミルに見入り、セルゲイは頬を緩ませる。

「かき氷、ひとつください」

「くだちゃい」

「はい、ただいま、お妃さま、皇子さま。ダニイルさん、早く作って!」

 セルゲイに指示されて、ダニイルは人使いが荒いとぼやきながらもハンドルを回す。煌めく氷が、しゃりしゃりと器に積み重ねられていく。

 村の子どもたちと遊んでいたユリアンがやってきて、エミルの手を握った。しっかりしたお兄さんのユリアンは、小さなエミルの面倒をよく見てくれている。

「エミル、ぼくと一緒にかき氷を食べよう。パパとママが滑るところを見ながらね」

「あい」

 白くまのかき氷を手にしたユリアンとエミルは仲良く並んで湖畔に腰を下ろす。スプーンで上手に氷を掬い、口に入れたエミルの頬には氷の粒が光っていた。

 流麗なスケーティングで氷上を滑っていたレオニートは、すいとインエッジをかけて止まる。

「おいで、結羽。ユリアンとエミルに見せてあげよう。私たちのアイスダンスを」

 エミルを挟んで手を繫ぎながら滑ることも多いのだが、レオニートはこうしてふたりだけのアイスダンスに誘ってくれる。

「はい。レオニート」

 差し伸べられた手のひらに、結羽は自らの手を重ね合わせた。

 温かな体温が触れ合う。

 そのぬくもりには、幸せという名がつけられている。

 煌めく氷上に軌跡を描きながら、レオニートと結羽は華麗なアイスダンスを舞った。 

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白熊皇帝と伝説の妃 沖田弥子 @okitayako

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