亡国の王女と勇者の模造品
馬面八米
第1話 逃避行
延々と続いた魔族と人間の戦争。
ある日を境に均衡が崩れ、瞬く間に俺たち人間側は死地をさ迷うことになった。
人類の要と称された勇者。
それの
息を殺し、逃げては走り、聖剣を模したそれを振るう日々。
人間側にもはや国は無く。
行く先々には魔族が築いた居が無数に点在するのみ。
助けも何も期待できない状況。
まるで生きた心地がしない中。
俺は亡国の王女を抱きかかえ、魔族も寄り付かないという
聖地リ・エルノ。
神々が集いし巨塔。
万天に坐する二成が出てくるお伽噺。
藁をも縋る想いだ。
到底そこへ辿り着けるとは思い得ない。
だがしかし。
進まざるを得ない。
生き残るためにも―――、
―――「甘いものが食べたいッ」
日の明かりすら届かぬ森の最深部。
地団太を踏み、俺を睨みつけてくる水色髪の少女が一人。
薪をくべる手を止め、周囲に気を配りながら、俺は静かにするようにと指摘する。
「生意気ッ、いくらでも替えの利く模造品のくせにッ!!」
国王の
周囲から甘えに甘やかされた結果がこれ。
我慢のガの字も知らない幼い美しい我儘な王女様は、ポカポカと俺の後頭部を叩いてくる。
痛くはないが鬱陶しい。
俺は軽くため息を吐きながらも、焚火の炎を切らさぬよう再び薪をくべる。
「大帝国アーステルメ唯一の王女で在り、勇者様の妻候補筆頭である私の発言を無視するなんて無礼ッ、無礼無礼無礼無礼ッ!!」
「今はお隠れになっている身、…お静かに」
「お黙りなさいッ、この薄汚い模造品めッ!!」
―――パチンッ。
どこへ行っても魔族がうろつく世の中。
ようやく一息つける場所が、知性の欠片も無い
そんなところで呑気にできる訳はなく。
俺は寝る間も惜しんで護衛としての任務を馬鹿正直に全うしている。
だというに、このお姫様ときたら。
…度し難い。
「亡国の王女に最早、価値なんてものは無い」
頬をぶたれてすすり泣き始めた王女様。
俺は地面に顔を伏せるそれを冷めた目で視降ろし、言葉を紡ぐ。
「人間の根絶を願う魔族にとって、俺もお前も等しく虫けらだ、今後はそれを肝に銘じておけ、…死にたくないのならな」
「…うぅ……っひ、ひっく、…無礼、無礼無礼…うぅ」
「……」
地に這い、すすり泣きながらも尚、その精神は気高く在ろうとする。
未だ幼いからこそ、亡国の王女としての理解がない。
俺は爆弾を抱えて逃げる今後に頭を悩ませながらも、腰に差した一振りの剣を引き抜いた。
「っひ」
「リーニア王女……リーニア、魔物は明かりに臆す、焚火の明かりを絶やさぬように」
剣を引き抜いた俺に怯えた様子のリーニア。
まるで化け物を見るかのような視線を背後に、俺は集まり始めた魔を払うため、
数時間後。
魔物の血と肉と臓物が散乱する中。
眠気と疲労で気を失ったリーニアを優しく抱き、追っ手の魔族が来る前に俺は先を急いだ。
亡国の王女と勇者の模造品 馬面八米 @funineco
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