第2話 ゴブリン死す

 「ハア……ハア……」



 逃げきれたようだ。


 必死だったから気づかなかったが、いつの間にか一人で走っていた。


 ゴブリンが振り下ろしたこん棒は、床の表面を砕いてたし、あのフィジカルでは、逃げきるのは厳しいかと思っていたが、嬉しい誤算だな。



 まあ脚も短かったし、あれで早いとかはさすがいないか。



 だが、あんなに危ない存在がいると分かったんだ、早く脱出しないと。


 走っていても、他に見当たらなかったし、モンスターは、あれ一体だけだろう。



 反対方向なら安全___________



 「ゲギャ??」



 はい、フラグ立てましたー!


 やっぱゴブリンが一匹しかいないなんてあるわ

け無いよな!ゴブリンだからな!



 不幸中の幸いとでも言うべきか、今回も単体行動のゴブリンらしく、逃げられそうではあるが。


 「グギャッギャギャア!」


 「げっ」



 と思っていたのだが、逃げようとした先にも、ゴブリンが。


 しかも、気のせいと思いたいが、動作が‘仲間を呼ぶ’みたいなダンスに見えるし。


 あれ、これ、かなりピンチなんじゃ?



 具体的には、朝、学校の下駄箱から、なぜか遅い時間に来た陽キャたちの賑やかな声が聞こえてくるときくらい。


 

 「ゲギャアア!!」


 「ふっ」


 ゴブリンがこん棒を振りかぶってきたのを避ける。



 「っっぶねッ」



 そんなゴブリンに合わせるように二匹目が襲いかかってきた。


 「連携するのもラノベ通りかよッ」


 すんでのところで躱すことができたものの、次来たときも、世蹴れる保証どこにもはない。



 状況はかなり絶望的だ。


 「ギャイ!!」


 「がッ?!」



 まずい、不覚をとられた。

 背中に、不意に死角からやってきた三匹目のゴブリンのこん棒攻撃を受けてしまう。

 

 前に倒れてしまう。

 立ち上がろうにも、なぜだか力が入らない。


 しかし、当然ゴブリンたちがこの隙を見逃すはずもなく、一斉にかかってくる。



 これは……、今度こそ俺、死ぬんじゃね?



 ああ、童貞くらい、捨てときたかったなぁ。



 

 今まさに殺されかけているというのに、その状況の深刻さに反比例するように、俺の意識はクリアになっていく。


 この状況を、受け入れている。

 今まさに、死のうとしているという、この現状を、だ。



 …そうか。俺は生きていることに未練がなかったんだな。



 どうせ死ぬなら、こんなファンタジーな存在に殺されるのも悪くないな。


 そんなことさえ思っている。


 

 ……本当に?

 気分を楽にするために思っているだけじゃなくて?




 いや、違うだろう!




 いくら夢見ていたファンタジーな存在とはいえ、ゴブリンだぞ?




 この、醜く、浅ましく、まさにごみのような

生き物だぞ?



 良いわけがないッ!



 

 ふと、視界の端に液晶のようなものが見える。

 そうだ、モンスターがいるんだ。ステータスウィンドウもあるに決まっている!



 これしかない。


 俺は、生きるんだ。

 生きて、戻って、


 「ギャッ!」



ーグチャッ



 「ああぁぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!」



 足が潰される。


 何でだ?


 だめだ、俺は生きてかえるんだ。



 そうなるはずなんだ……。

 


 ステータスだッ!



 今、押した!確かに、さっき、触った!


 そのはずなのに!



ーボキャッ



 「ぐ、い゛、ぇぁあ゛あ゛!!!」



 ゴブリンが俺の脚を踏みつけ、鈍い音がなる。


 こんなはずじゃないんだ、違うんだ!

 俺は、こんな所で終って良い人間じゃないっ!



 終わって良いはずがないんだ!



 「俺は、生き_____」  




 ーベチャっ


 こん棒が近付いてきて、顔が_______





































ー『おめでとう!あなたは選ばれました!』


































 _____は?


 真っ赤になって、見えなくなったはずの視界が開け、見えるようになる。



 背中の、痺れるような痛みも、脚の、おかしくなるような痛みも、全部消えた。



 あの地獄のような苦しみが、終わった。





 『あなたは覚醒者になりました!同時に負傷・病気のリセット及び欠損部位の再生が行われました!』



 覚醒者?リセット?再生?



 いきなりの、ことに、思考が鈍る。



 リセット?は……俺の傷が治ったのは、これのおかげということか?


 ありえない。そんなことあるわけがない。


 いや、そもそも、モンスターだっていたんだ。

 何があってもおかしくはない。




 病気、欠損部分はなかったのでよくわからんが……。


 覚醒者?選ばれたとは?



 「っ」



 俺の傷が回復したことに衝撃を受けて固まっていた様子のゴブリンが、再び襲いかかってくる。



 だが……なんだ?

 なぜだかギリギリ見えていただけだったこん棒も、今はゆっくりに見える。


 体も軽い、余裕をもって攻撃を躱せた。



 これが、覚醒者とやらのおかげなのか?



 そう思い、隙を晒したゴブリンを殴ってみる。



 「ギ、ア、ァ……」



 すると、首が折れたのかゴブリンの頭部がダランとさせる。

 頭も少し陥没している。



 「ギャギャッ?!」


 「ギャッ?!」



 仲間が一匹やられて、ゴブリンが動揺する。



 俺はそれを見逃さず、片方にミドルキックをいれる。身長差でゴブリンの頭にけりが入り、それが飛んでく。


 首から上を失ったゴブリンの体が倒れる。


 

 最後の一匹は、頭を思いっきり握ってみる。

 

 さすがに弾け飛んだりはしなかったが、それでも頭蓋は大きくへこみ、目が飛び出てくる。


 

 なんだよ、きれ?

 




 あれだけ、俺を苦しめた三匹のゴブリンは、

他でもない俺の手によって死んだのだ。

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地球にダンジョンが現れた 消灯 @mamedennkyu

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