地球にダンジョンが現れた

消灯

一章

第1話 我輩は陰キャである。

 俺の名前は氷室零(ひむろ れい)、陰キャだ。

学校の帰り道でも、もちろん万一にも陽キャと鉢合わせしないようと、遠回りして帰っている。


 別に逃げたわけではない。俺は逃げない。

 戦略的撤退だ。だからセーフ。

 

 にしても、陽キャってなんで会ったら誰彼構わず話しかけてくるんだろうな?


 学校でも、目があったらランダムで声をかけてくる悪質なトラップみたいになってるし。



 まあ、それもこの間話しかけられたときに失言で空気を凍らせて以来、大分減ってきたのだが。




 「~~♪」




 自然と鼻唄が出てくる。

 やっぱり、ここの通りはいいな。人が全くといっていいほどいない。


 暗くてじめじめしているのも、またいい。

 まさに俺のためにあるみたいな道だ。


 まあたまに女の悲鳴とゲスい笑い声が聞こえることもあるが、それはご愛嬌だろう。




 ーゴゴゴゴゴ



 なんだ?

 急にやけに騒がしいな。


 ここまで聞こえるとは恐れ入ったが、どうせ

また陽キャがなにかやらかしたのだろう。



 「まあ、俺には関係な____________は?」



 気づくと、目の前に崖が立ちふさがっていた。



 「おまえどこの崖だよ?」



 せっかくなので、いつか言ってみたかったランキングがあればおそらく上位に入賞するであろう言葉、‘おまえどこ~~だよ?’という台詞を、ジェスチャー付きで言ってみる。



 すると、叩いた拍子に、崖がこちらに崩れ込んできて__________




俺の意識はそこで途切れた。







$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$






 「ハッ!」



 目を覚ますと、見覚えのない場所にいた。

 回りは岩でか囲まれている。


 あれ?

 俺こんなとこで寝てたっけ?


 「いや」


 違う、たしか、家に帰る途中で……あ、崖だ!


 思い出した!



 そうか、ここはさっきの崖の中か。

 にしても、よく生きてたな。



 ………まあ、分かりにくい現実逃避はここまでにして、俺はどうして生きているんだろう?


 普通、あれだけの質量の岩が流れ込んできたら、人なんて簡単に死ぬはずだ。さわった感じ、偽物だってこともなさそうだった。

 俺が今、こうして生きているのはおかしい。



 「ま、いっか。ラッキー」



 まあ、別に死にたかった訳でも無いので、生きてるなら、それはそれでいいか。


 そう納得する。


 


 さて、そしたら、まずはここから出ないとな。

 

 とりあえず、探索してみるか。



 薄暗いので慎重に進む。まずは光源をさがそう。


 

 しかし、見当たらない。

 うっすらとはいえ、周りが見えるので、光源はどこかにあるはずなのだが……。


 そういえば、影もない。

 光源があるなら、これはおかしい。


 「もしかして、実は俺は既に死んでて、これは死後の世界的なものなんじゃないか?」


 

 一瞬、そんな突飛なことが頭をよぎる。


 普通だったらありえないが、崖のことといい、光源のことといい、今は異常なことがいくつも起こっている。


 もしかしたらモンスターなんかも出てくるかもしれないな。


 極限まで追い詰められた俺の才能が覚醒して、世界最強に…。


 

 そんなささやかな期待(妄想)を胸に、俺は洞窟の角を曲がる。



 「_____ゲギャ??」



 「……え。」



 モンスターだ。



 「……………え?」



 モンスターが、いた。



 背の低いヒト型で、醜悪な顔に、汚らわしい鳴き声。

 よく、ラノベとかに出てくるゴブリンを、よりグロテスクにしたような、生理的嫌悪感を抱く姿。



 「ギャギャァアア!!」



 まさか本当に出てくるとは思わず困惑する俺に、そのゴブリンはこん棒を振り上げ、襲いかかってくる。



 「っ!」



 見た目に反し、力強く振られたそのこん棒を、ギリギリで避ける。



 どうやらこん棒はかなり重いようで、逆に振り回されるように体勢を崩すゴブリン。


 

 俺は混乱しながらも、さっきの妄想を現実にするチャンスだと思い、ゴブリンに殴りかかる。



 「隙ありいいいい!!」


 

ーボコッ



 「ギャッ?!」



 ふ、決まったな。

 おまえの勝敗は、油断したことだ!



 「……ぐぎゃああああ!!!」



 あ、あれ?

 もしや、あんまきいてない?


 ゴブリンは怒ったようだ。

 ぐちゃぐちゃで汚い顔をさらにぐにゃッと歪め、怒りの表情(?)で再び襲いかかってきた。


 

 あー、これ武器が必要なパターンか。


 ならば、




 「逃げろぉぉおおおおおっ!!!」



 逃げるが勝ちじゃい!!



 俺は全力で走りだした。

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