第62話
マスクで顔を隠しているけど、真っ白いスプリングコートに、カールをしっかりきめた亜莉珠ちゃんは、ここは任せて、と係の人たちに合図する。
つかつかと音をさせてあたしの前に立つと、腕を組んでぎろりとこちらを見下ろした。
「何様のつもり? 立場をはき違えるのもここまでくるとすがすがしいわね」
怒った顔も華やかな彼女にとりすがるように、言う。
「亜莉珠さんなら、純に会えますよね。ライブの前に」
一瞬戸惑ったように、え? ときき返されるけど、少し考えてから、答えが返ってくる。
「まぁ、そりゃね。今日は観客として来ているとは言え、ちょっと頼めば、できなくないと思うけど。楽屋にも招待されてるし」
コートの毛皮に包まれたしなやかなその腕にほとんどもたれんばかりに、あたしは彼女に言った。
「伝えてほしいことがあるんです。急いで――」
早口で、機械室できいた陰謀の内容を伝える。
「なんですって」
亜莉珠ちゃんは驚いていたようだったけど、納得してくれたようだった。
「わかったわ。ほら、もう行って。これ以上あなたがここにいたら、混乱を招くだけだから」
「どうか、お願いします……!」
それだけ言うと、あたしはくるりと背を向けて、その場をあとにした。
アイドルと紡ぐ恋愛小説 ほか @kaho884
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