第61話

 今日は、ライブ当日。

 大きなビルのエントランスには、たくさんの人々が列を作っている。

 いつものように図書館に行ってくる。お母さんにそう言って出てきたあたしは、その列に並んでいた。

 会場時間の五時になると、列が動き出す。

 エントランスをくぐり、スーツを着た係の人に、チケットを拝見いたします、と言われると、すかさずあたしは言った。

「あの。あたし、先日取材に来させてもらった、野原花乃です。純にどうしても伝えたいことがあるんです」

 係の人はちょっと戸惑ったように、眉根を寄せた。

「ライブ中に、会場の電気をとめて、フライング中の彼を落下させる計画が――」

事前に用意して、何度も頭の中で反芻してきた言葉で訴えるけど、

「お客様。次の方がお待ちですので――」

 まともにとりあってもらえない。

 それでも訴えようとすると、何人か別の係の人がでてきて、説得するように言う。

「そんなことはありません。我々は、出演者のみなさんの安全には配慮をしています」

「だから、それを壊そうとしている人がいるんです」

 ついに、係の一人の人が迷惑そうに眉をしかめた。

「困りますよ、きみ。みなさんを不安にさせるようなことを言われては」

 そう言われて、一瞬口をつぐむ。

 その直後、きき覚えのあるかわいらしい声が響いた。

「どうしたの?」

 係の人たちが、あたしが。全員が、少し離れたところに立つ、すらりとしたその姿に注目する。思わず声をあげたのはあたしだった。

「亜莉珠さん――」

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