第11話: 「春風に乗せて、未来への誓い」
桜のつぼみが膨らみ始めた3月初旬。桜花学園の卒業式が終わり、春休みを迎えようとしていた。
千紗は図書館で、一年前に遥斗と出会った本棚の前に立っていた。「風立ちぬ」を手に取り、懐かしさと共に胸が熱くなる。
「やっぱりここにいたんだね」
背後から聞こえた声に、千紗はハッとして振り返った。そこには遥斗が立っていた。
「鷹宮くん……」
二人の視線が絡み合う。この一年間の出来事が、走馬灯のように千紗の脳裏をよぎった。文学コンテストでの入選。遥斗の数学オリンピック準優勝。そして、クリスマスイブの寮パーティーで、二人がほんの少しだけ手を繋いだこと。
「春原さん、ちょっと屋上に行かない?」
遥斗の声には、いつもと違う緊張感が漂っていた。千紗は小さく頷いた。
屋上に出ると、春の柔らかな風が二人を包み込んだ。遥斗は深呼吸をして、千紗の方を向いた。
「春原さん、僕は……君のことが好きだ」
突然の告白に、千紗は息を呑んだ。心臓が激しく鼓動する。
「でも、僕たちはまだ夢の途中だ。君は作家になりたいし、僕は数学者を目指している。だから……」
遥斗の言葉が途切れる。千紗は、彼の葛藤を感じ取った。
「鷹宮くん、私も……あなたのことが好き」
千紗の声は震えていたが、瞳は強い意志を宿していた。
「でも、私もまだ夢の途中。だからこそ、お互いを高め合える関係でいたい」
遥斗の目が大きく見開かれた。
「春原さん……」
「私たちの関係は、きっと普通の恋愛とは違うと思う。でも、それでいいの。互いの夢を応援しながら、一緒に成長していける。そんな特別な関係」
千紗の言葉に、遥斗の表情が柔らかくなった。
「そうだね。僕もそう思う」
二人は互いに微笑みかけた。その瞬間、桜の花びらが風に乗って舞い上がった。
「ねえ、鷹宮くん。私たちの物語、これからどうなるのかな」
「さあ。でも、きっと素敵な物語になるはずだよ」
遥斗は優しく千紗の手を取った。二人の指が絡み合う。
「二年生になっても、一緒に頑張ろうね」
「うん、約束だ」
二人は再び空を見上げた。そこには、未来への希望と期待が広がっていた。
その夜、千紗は日記にこう綴った。
『今日、私と鷹宮くんの新しい物語が始まった。恋人同士ではない。でも、ただの友達でもない。互いの夢を応援し合い、高め合える特別な存在。これから先、どんな困難が待っているかわからない。でも、鷹宮くんと一緒なら、きっと乗り越えられる。私たちの物語は、まだ序章に過ぎない。これからが本当の始まり。春の風に乗せて、私たちの想いは大きく羽ばたいていく』
窓の外では、満開間近の桜の枝が、春風に揺られていた。それは、千紗と遥斗の新たな旅立ちを祝福しているかのようだった。
(了)
【学園恋愛小説】星降る図書館でいつか君と 藍埜佑(あいのたすく) @shirosagi_kurousagi
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