第10話: 「星空のプレゼント、ふたりのクリスマス」
クリスマスイブの夜、桜花学園の寮は静けさに包まれていた。大半の生徒が帰省する中、千紗と遥斗は図書室で顔を合わせた。
「春原さん、こんな所にいたんだ」
遥斗の声に、千紗はハッとして顔を上げた。
「あ、鷹宮くん。パーティーは楽しかった?」
「うん。でも、ちょっと疲れちゃって」
二人は互いに微笑み合った。男子寮と女子寮の合同パーティーは予想以上に賑やかで、二人とも少し息抜きが必要だった。
「ねえ、屋上に行ってみない? 星、きれいかもしれないよ」
千紗の提案に、遥斗は少し驚いた表情を見せたが、すぐに頷いた。
「そうだね。行ってみよう」
二人は静かに階段を上り、屋上のドアを開けた。冷たい夜気が頬を撫でる。
「わあ……」
千紗の声が小さく漏れた。澄み切った夜空に、無数の星が瞬いていた。
「きれい……」
遥斗も思わず呟いた。二人は並んで空を見上げている。
「ねえ、鷹宮くん。あれ、冬の大三角形だよ」
千紗が空を指さした。遥斗は彼女の指さす方向を見つめた。
「本当だ。僕、星座はあまり詳しくないんだ」
「私ね、子供の頃、よく父と星を見てたの。懐かしいな……」
千紗の声には、少し寂しさが混じっていた。遥斗はそっと彼女の横顔を見た。
「春原さんは、家族と過ごせなくて寂しくない?」
「うん、少しは。でも……」
千紗は遥斗の方を向いた。月明かりに照らされた彼女の瞳が、星のように輝いていた。
「鷹宮くんがいてくれるから、寂しくないよ」
その言葉に、遥斗は思わず顔を赤らめた。
「そ、そうか。僕も、春原さんがいてくれて嬉しいよ」
二人は再び空を見上げた。冷たい夜風が吹き抜ける。
「寒くない?」
遥斗が心配そうに尋ねた。千紗は首を振ったが、少し身を震わせた。
「大丈夫。でも、少し寒いかな」
遥斗は迷った後、おずおずと千紗に近づいた。
「あの、よかったら……」
そう言って、彼は自分のマフラーの端を千紗に差し出した。千紗は一瞬驚いたが、すぐに優しく微笑んだ。
「ありがとう」
二人は一つのマフラーを共有し、肩を寄せ合って立っていた。心地よい温もりが伝わってくる。
星空を見上げていた二人は、自然とお互いの方に顔を向けました。月明かりに照らされた遥斗と千紗の瞳が、静かに見つめ合います。二人の間に流れる空気が、少しずつ変化していきました。
遥斗が千紗の頬に優しく手を添えると、千紗は目を閉じました。二人の顔が、ゆっくりと近づいていきます。そして、やわらかい唇と唇がそっと触れた瞬間、二人の心臓が大きく高鳴りました。
その瞬間、流れ星が夜空を横切りました。
二人は驚いて顔を離し、空を見上げます。そして、互いに顔を見合わせて、幸せそうに微笑み合いました。
「ねえ、鷹宮くん。私たち、来年はどんな一年になるのかな」
「さあ。でも、きっといい年になるよ。春原さんと一緒なら」
遥斗の言葉に、千紗は頬を赤らめた。
「うん。私もそう思う」
二人は静かに寄り添い、冬の星空を見上げ続けた。遠くの街から、かすかに鐘の音が聞こえてきた。
その夜、千紗は日記にこう綴った。
『今日は特別な夜だった。鷹宮くんと見た星空は、今までで一番きれいだったかもしれない。寒かったけど、心はとても温かかった。来年も、鷹宮くんと一緒に星を見られますように』
窓の外では、小さな雪が静かに舞い始めていた。それは、二人の純粋な想いを祝福しているかのようだった。
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