第9話: 「冬の寮に灯る、温かな想い」
木枯らしが吹き荒れる12月、桜花学園の寮は冬の装いに包まれていた。窓ガラスに霜の花が咲き、生徒たちは厚手のセーターを身にまとっている。
千紗は図書館で勉強していた。文学コンテストの最終審査まであと1ヶ月。彼女は必死に原稿の推敲を重ねている。
「春原さん、こんな所にいたんだ」
突然聞こえた声に、千紗は顔を上げた。そこには遥斗が立っていた。彼の頬は寒さで少し赤くなっていた。
「鷹宮くん……」
千紗の心臓が小さく跳ねる。文化祭以来、二人の関係は微妙に変化していた。より親密になった一方で、どこか言葉にできない緊張感も生まれていた。
「数学オリンピックの勉強?」
「うん。春原さんは文学コンテスト?」
二人は向かい合って座った。机の上には、千紗の原稿と遥斗の問題集が並ぶ。
「少し休憩しない? お茶でも飲みに行こう」
遥斗の提案に、千紗は少し驚いた。普段なら黙々と勉強を続ける彼が、珍しく休憩を持ちかけてきたのだ。
「ええ、そうね」
二人は寮の食堂に向かった。窓の外では、小雪が舞い始めていた。
温かい紅茶を前に、二人は静かに向かい合った。沈黙が流れる。しかし、それは居心地の悪いものではなく、むしろ心地よいものだった。
「春原さん、原稿の調子はどう?」
「うーん、なかなか納得できなくて……。鷹宮くんはオリンピックの準備は?」
「まあまあかな。でも、まだ足りない気がする」
二人は互いの悩みを共有し合った。そんな中、千紗はふと思い出した。
「そういえば、鷹宮くん。私、クリスマスイブに寮に残るの。いろいろ事情があって」
「へえ、そうなんだ。実は僕も残るんだ。やっぱ、実家が遠いからね」
その言葉に、千紗の胸が高鳴った。クリスマスイブを二人で過ごせるかも……。その想像だけで、彼女の頬が熱くなる。
「じゃあ、その日、一緒に……」
千紗の言葉が途切れた瞬間、食堂のドアが勢いよく開いた。
「千紗ちゃーん! 鷹宮くーん!」
美咲が大きな声で二人に駆け寄ってきた。
「あら、二人っきり? 邪魔しちゃった?」
からかうような美咲の声に、千紗と遥斗は顔を赤らめた。
「べ、別に! ただ休憩してただけよ」
「そ、そうだよ。勉強の合間にね」
二人の慌てた様子に、美咲はにやりと笑った。
「そっかぁ。でもね、私が聞いた話だと、クリスマスイブに寮に残る人、結構いるみたいよ? パーティーしようって話まであるんだって」
その言葉に、千紗と遥斗は複雑な表情を浮かべた。二人きりで過ごせると思った期待が、少し萎んでしまう。
その夜、千紗は寮の窓辺に立って、降り積もる雪を見つめていた。遥斗との関係、そして自分の気持ち。それらが、この雪のように静かに、しかし確実に積もっていくのを感じる。
『鷹宮くんと二人きりで過ごせると思った時、こんなにも嬉しかった。この気持ち、もう隠せない。でも、まだ伝える勇気がない。クリスマスイブ、どうなるのかな……』
千紗は深いため息をつきながら、日記にそう綴った。窓の外では、雪が静かに舞い続けていた。その雪と共に、彼女の想いも静かに、しかし確実に積もっていくのだった。
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