episode22 運命

「悠介さん、朝食できてるわよ」


「今いくよ」


母さんの両親はかなり裕福な方だ。

それに頼らなかった母さんは母さんらしい。

堅苦しい生活から逃げ出した、

と言っても過言じゃない。


「はぁ…」


学校をさぼってしまった。


あの川沿いのベンチに座りたかった。

そんな衝動に駆られたのだ。


電車を乗り継いで

この街に戻ってきた。


なにも変わっていない。


「優香!」


「お兄ちゃん!」


優花は簡単な単語なら

喋れるようになっていた。

ママ、お兄ちゃん、ごはん。

など、精神的なストレスが

少しは完治していたのだ。


「優香、喋れるようになっていたのか!」


「あら!悠介!なんでここにいるの!」


母さんがごはんを作りながら

驚いた表情でこっちを見る。


「たまには帰ってこようと思って」


ごはんを食べて、制服のまま

川沿いのベンチに座っていた。

凛太郎がもし来たら、そんなことを

考えていた。


会えなくなって3年。


もう気持ちは変わっているだろうか。


「あれ…」


涙がぽつぽつとこぼれ落ちていた。

会いたい。触れたい。

凛太郎の笑顔が見たい。


「ゆーすけ!」


聞き覚えのある声。

後ろを振り返るのが怖かった。

だけど、衝動的に振り返っていた。


凛太郎がこっちに向かって

走ってくる。


どしゃっ!


「凛太郎!」


坂道で凛太郎が、転んだ。


「かっこ悪い登場しちゃったぜ、へへへ」


「なんでここに」


運命と言っても過言じゃない。

偶然なのか、凛太郎がここにきた。


ベンチに座って沈黙が続いた。


「悠介、突然いなくなるからびっくりしたよ」


「ごめん」


謝る他なかった。

何も言えなかった。


でも身体は理性なんて

保つはずもなく

凛太郎を抱きしめていた。


「…好きだよ、あの時からかわってない」


「うん、わかってる。

俺も変わってない」


運命だ。


凛太郎と顔が近い。

すると

凛太郎からのいきなりのキスで

俺は戸惑った。


「俺の勝ちだなっ!」


あの変わらない笑顔に

何度癒されたことか。


鍵をかけていた心が開いたような気がした。


「もう離れない」


抱きしめ合いながら

そう呟いた。


「約束だかんな!」


俺らはもう、離れられない

運命なんだ。


悠介が、凛太郎が

「大好きだ」


2人のベンチに座りながら手を握りしめて。


1年後〜


「おむらすー!」


優香が段々と言葉を話せるように

なってきた。


「オムライスー!」

凛太郎が笑う。


「はいはい、ちゃんとまってろよ」


悠介は休みの日、実家に帰ってきて

優香と凛太郎と日曜を過ごしていた。


またこんな幸せな日々が

おくれるなんて。


「ゆーすけ!」

「ん?」


凛太郎が悠介にキスをする。


「お、おまえ、優香がみてるだろ!」

「えーだってえー」


優香が笑う。

「ちゅー!」


自然と笑いがこみあげてくる。

幸せだ。


凛太郎がいるだけで

こんなに、幸せだなんて。


凛太郎も想っていた。


悠介といるとこんに幸せだなんて。


優香が紙に書く。

(らぶらぶ)


「優香、それはしー!だぞ!」


兎に角、笑いがたえない日々に

2人は幸せを感じていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

2人のベンチ こうの なぎさ @n______47c

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画