episode21 偶然


高校にも慣れて、物理の資料のために

本屋に寄った。


凛太郎に黙って転校して

もう高校2年生になっていた。


凛太郎はどう思っただろう。


気持ちを伝えたまま

凛太郎の元を去った。

なんて身勝手なんだろう。


でも凛太郎には普通の恋愛をして

欲しかった。

俺の事なんか忘れて欲しかった。


「はあ…」


今すぐにでも凛太郎に

会いたかった。

会って抱きしめてあの時の

気持ちは変わらないって

伝えたかった。


でも、凛太郎には

普通に彼女ができて

男の俺なんか忘れて欲しい

気持ちもあった。


それでも、俺の気持ちは

凛太郎を好きなまま。


忘れられるはずなんかないんだ。


「りーんたろ!ここじゃ見つからねえよ!」


聞き覚えのある声がする。

胸がドクンとなった。


奥の棚に隠れた。

そっと覗いてみると

そこには凛太郎と隼人がいた。


なんでここに、と思ったが

あんな去り方をしたのだ

今更姿を見せる勇気なんか

無かった。

そっと、本屋を出る。


凛太郎は少し背が伸びたのか

何気なく中学の頃とは違った。

でも、あの頃のまま。

笑顔は変わってなかった。


慌てて本屋を出ると

走って祖母の家に帰った。


「悠介さん、汗だくじゃないの

すぐお風呂にはいりなさい」


「はい…」


凛太郎の笑顔が見れた。


それだけで幸せだった。

何年ぶりだろう。


こんなにも幸せな気持ちになるのは。


凛太郎。

好きだ。


部屋で宿題をやりつつ

そんな思いばかりが募っていく。


勝手にいなくなってごめん。

いますぐにでも謝りたかった。


転校した日から、凛太郎から

連絡はない。

やっぱり勝手にいなくなった俺を

嫌いになったのだろうか。


「凛太郎…」


シャープペンの針が折れた。


きっと彼女でも作って

高校生活を謳歌しているのか。

それともまだ俺の事を

好きでいてくれているのか。


分からなかった。


お守りを握りしめる。


これだけが唯一の救いだった。


「凛太郎、ごめん…」


ふと、出た言葉。


ちゃんと顔を見て謝りたい。

凛太郎の笑顔をみたい。


そんな気持ちばかりが

頭の中をぐるぐると回っていた。

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