エピソードIII 新たな出会い

あの後、ジョセフは教官についた。新品のユニフォームが羨ましいほどにきちっと決まっている。

ボタンや帽子の金色も色あせていない。まだ太陽の輝きを返すだけの光沢が健在である。

夏の制服のベージュの帆布がひらひらと秋風に吹かれている。

すっかり秋だ。

宿舎から会議室へと向かい、篠崎、マクレーン、ジョセフ、と一緒に準備をした。重量物はアームドスーツで輸送。

それは自分が当番になった。

「オーライ!オーライ!…オッケー!!そこにおいて!!」

ゆっくりオプションのクレーンで、地上五階にいるレイデンの手に乗せていた五枚の看板を下ろす。

カラカラカラ…

クレーンの巻き取る音が機体を伝わって聞こえてくる。戦闘ではないから、コックピットはオープンにしているものの、結構響く。

何か問題があるのだろう?

カラカラカラ…ガキン!!

あっ、

「ダイジョブか?!スタックか?!」

たまに内部チェーンが絡まり、スタックするのだ。にしても、今か。あと少しというところで。

「スタックした!!ちょっと巻き直す!!」

一回巻き戻して、もう一度下ろす。

カラカラカラ…パキン…!

ん?何だろうか?

まさか…

ガシャーン!!

「痛い!!」

冷汗流しながら下をのぞくと、篠崎の姿が見えない。

落ちた看板は無事だったが、クレーンのチェーンがサビていたようだ。だからさっき切れたのか。

…いやいやいや!!考える前に篠崎を何とかしないと!!

急いで緊急ラダーを広げて二階まで降りて、そのまま受け身を使って二階から飛び降りると、看板に下敷きになってる篠崎が…

いない!!…まずいまずいまずい!!

「やってくれたな。」

「あああああ!!!!」

後ろから不意に聞こえた声に驚いた。思わず飛びのいてしまった。

看板が二階から落ちた割には無事に見える篠崎だが、大丈夫なのか?

「危なかったよ、何とか飛びのいた。」

「じゃあ、大丈夫…なんだね?」

「ああ。まあ、反射的に痛いといったがな。あと、少し驚かしたくなったんだ。」

よかった…

自分の胸をなでおろし、流れ出ていた冷汗がだんだん引いていくことを感じた。

「それじゃあ、残りも頼むね。下で受け取るから、看板が二十枚まとめて入ってるA-13の箱を下に落としてくれ。」

そんなの、五枚で死にかけた看板だぞ?十個なんて落としたら…

看板も粉々になるどころか、遺骨も残らない。粉砕されるぞ。

「ダイジョブなのか?生身じゃやばいぞ。」

「誰が生身でやるんよ?アームドスーツだよ、アームドスーツ。」

流石にか。

篠崎と別れて、また準備を着々と進めた。

にしてもマクレーンさん、力持ちだなぁ。あの看板を二つ一気に肩に担いで運ぶなんて。

金属製で普通に重量のあるあの看板をよく軽々しく…

窓からマクレーンを見ていると、下から篠崎の声が聞こえた。

「しゃぁ!!来い!!」

元気百倍といったところだ。

待て、元気百倍?どこかで聞いたような…

まあいい。

倉庫のすぐ右にある箱を取り、下へ送った。A-13だ。

「じゃあ行くよ!!ほい!!」

誤解の吹き抜けから特大の箱が落ちていくのはなかなかの迫力だ。

ガシィッ!!

上手くとったみたいだ。

「ありがと!!じゃあ一階に降りてきて、手伝ってくれ!!」

「はいよ!!」

無線を使わずに五階と一階で会話が通じるのがすごい。

レイデンをコックピットを占めて、下に誰もいないことを確認して、飛び降りた。

そのまま着地して、機体をデッキに戻すと、コックピットから出たところに篠崎が待っていた。

「よし、じゃあ会議室の準備をしようか。」

二人で、デッキから降りて、会議室に向かった。

机の配置を変えようと、机に手を伸ばすと、篠崎が待ったをかけた

「これなんだろう?」

篠崎が見たのは、何かのスイッチだ。

この会議室、普段は立ち入ることはない。だからセッティングなんて全くわからない。

だが、いつもこの会議室は、机が毎回使うときに場所が違うのに、全部きれいに並んでいたことをお覚えている。並べた人がすごかったのだろう。

自分ならああはできない。

「なんだこれ?」

よくわからないが、今の机の配置と同じ記号の書かれたスイッチと、ほかの配置の書かれたスイッチが何個かあった。

なんだこれ?

「押してみるか。」

「爆発しないよな?」

「してたまるか。」

適当にスイッチを押すとガラッと音がすると同時に、机がスイッチの記号通りにきれいに自動配置された。

こりゃすごい。人がやってないからあんだけきれいだったのか。

「おお!!こいつはいいな!!」

「そうだね!!よし、じゃあこれを押せば…」

篠崎は面接のときの配置が書いてあるスイッチを押した。すると…

ガラッ…

ぴったり、面接の席の通りになった。

「こりゃあ、便利だな。」

「ああ、宿舎にもおんなじ奴が欲しいなぁ。これがあれば簡単に模様替えができるのになぁ。」

「諦めたほうがいいぞ篠崎、教官が黙って…いや、待てよ、教官がいないし、メンツも少ないってことは?」

なんで気が付かなかったのだろう。これは、早く気づいていればよかった。

「寮を自由に改造し放題だ!」

「やったね!!」

よし、今までおけなかったゲーム機に、巨大テレビも配置しよう。そしてそして…

「…待てよ、新しいメンツが変わりに来る。ってことは?」

あっ、

「使えないな。まあ、またいつかだな。」

「だな。忘れてた。」

忘れていたが、寮には別のメンツが来る。こりゃあ、模様替えはできないな。

さて、意気消沈したところで、書類と履歴書一式を机の下のボックスに整理して、あとは、それぞれの机で面接するだけだ。

まあ、どんな個性派が来るかは知らんけどもね。

「アルミア、今ちょうどパソコンの準備と、デジタルデータの収集、アナウンスが終わったぞ。もうそろそろ開けるか?」

会議室の外から見ると、人が何人も見える。少し今朝は肌寒い。早く入れてあげるとしよう。

「準備に入ってほしい、マクレーンさん。予定よりも早いが、整ったらジョセフに入れさせてくれ。誘導も彼に任せよう。」

「いきなり重役だな。ま、大丈夫か。」

その時、通知音と同時に手元にある携帯に連絡が届いた。ジョセフからだ。

“もう入れる?”

ナイスタイミングだ。

“任せた。いつでもいいよ。”

窓の外をふと見ると、合図を送るジョセフの姿が、くっきりと背景の中に見えた。

窓を開けて、合図をすると、ジョセフは、振り返り、門を開けた。

そして、待っていた人が門をくぐり抜け、ジョセフの誘導に従って、こちらに来ている。

「さて、やりますか。」

「ですね。」

今回気になっている自分の担当は、キング家の末裔、ラデュー・キング、人体実験を受けたフォルガン・クルー、近接射撃特性に優れる、虹宮莉莉愛

そして、隊長候補のラ・クィンに氷永冷人。それぞれ出身大学を首席で卒業している。

それも、ラ・クィンはあのエースも通った名門校、セントラル・センチュリオン企業立操縦技課アカデミーの首席だ。腕に間違いはない。

ただ、一方の氷永冷人も、また、ペイルニア・プライベート・ユニバーシティ操縦課の首席。

さて、話してみた感じで隊長は決めるとしよう。

ただ、かれらはシュミレートでの腕前に関しては申し分ないが、最近はどこの大学も実戦が甘い。採用されたら、彼、彼女らのような物は、私と篠崎で、扱くとしよう。

さて、さっそく1人目だ。長めの黒髪に、少しアホ毛が目立つ。まあ、身なりはいいとして、なかなか色白だな。

特におびえている様子は見えない。この雰囲気と空気の流れは、メンタルが強い証だ。

履歴は問題なさそうだ。どうやら地元の有名大学、エレスト大学卒業か。悪くはない。

「こんにちは。それじゃあ、そこにおかけになって。」

彼はゆっくりと席に着いた。

「それじゃあ、始めますか。いや、にしてもすっかり秋になりましたよね。」

彼は少しニコッと笑って答えた。

「そうですね。秋めく窓辺を見ると、少し心が和らぎます。」

「ですよね。じゃあ、自己紹介をさせてください。

自分はここの部隊の部隊長、アルミア・タニティード・エースです。まあ、いわゆるデカブツなのでよろしく頼みますね。」

相手の顔にもう一度笑顔が見えた。ちなみにだが、自分は少しばかり大柄だ。身長が二メータと十四センチある。

大学のころ、教官の乗っていたテラーバイトに乗れずに、困惑したこともある。

「それじゃあ、名前を聞いていいですか?」

「あっ、はい。僕は霧海凶月です。」

目をしっかりと合わせて話す。目の奥を見るが、少し曇りがかっているように見える。

「なら、霧海さん、小学校時代は何をしていましたか?」

「僕は小学時代の頃は特に変わったことはしていませんでしたが、強いて言うなら、いろいろと昆虫とか集めていたので、観察することが得意なんです。」

なるほど。観察力においては自信あり、か。悪くはない。機動隊には必ず必要だ。

「中学時代は?部活とか…」

「特にやってなかったですね。まあ、でも植物の観察とかをずっとやってました。」

少しアウトドアが少ない気がするが、まあいい。ジムで鍛え直せば使えるようにはなるだろう。

「なるほど。了解しました。それじゃあ、次に、機動隊に入所したいという志についてなのですが、どうしてここに来たのですか?」

「やっぱり自分、子供のころによくいじめを受けていたもので、なかなかに苦しかったんです。でも、そんな人に救いの手を伸ばせればいいなと思って、志望しました。」

定番の文句…だが、薄く、いや、濃く彩られてる。彼は決意があるだろう。

その後、数分の面接と、事務の説明を終えると、彼は、荷物をまとめて、少々解放されたような、緊張したような素振りを見せて去っていった。

二人、三人とこなしていき、気づけば昼時を回っていた。特にパッとする人材は最初の彼以外はなかった。

つかの間の休憩を経て、面接を続けた。

そして、昼明け一番、注目の人材が飛び込んできた。

ラデュー・キング。キング家の末裔と聞く。果たしていかに…

「どうも。どうぞおかけになって。」

少し緊張とこわばりが見える。服で隠しきれていない心の内が手に取るようにわかる。

心が弱いのだろうか。だが、少々プライドを感じる。強心臓な感じも、なくはない。

「いや、キング家の末裔と聞きまして、ちょっとこんなすごい人に会って良いのだろうかなって、思うことがあるんですよ。」

「…すみません、その名前、言うのやめてもらえます?」

驚嘆と、心の底にぐっと刺さるような憎しみ、そして怒りまでも感じる。何があった。

しかし、深堀するのはよくない。そっとしておこう。

「分かりました。それでは、お名前をうかがってもよろしいですか?」

すると、少しうつむきながら、こちらを向いて、続けた。

「…ラデューです。」

キング家で何かあったのか。いや、そうに違いない。この若さでこの重荷を背負うことなどありえん。目に見て取れる。

一応、今はそのまま続けよう。

「そうですか。ラデューさん。それでは中学時代は…」

そうして続けたのだが、特に手ごたえはない。何も、答えてくれなかった。

「では、もうこれで終わりましたよ。それでは、またいつか。」

そして彼の書類を机の隅でまとめ、次の人のものを用意した。その時、まだラデューはそこに居た。

「ん?どうした?何か気に入らないことでも?」

「…いや、何でもないです。」

少し、しょげたような、緊張から解放されたのか、よくわからない。でも、瞳の裏を知ることがまだ私にはできない。

「そうでしたか。まあ、人生何事も、がむしゃらにでもいいから進むべきだと思いますよ。いつかまたとない出会いがあるのかもしれませんし。」

なぜこのことを言ったのかは、よく自分でもわからない。でも、少し彼は嬉しそうな空気を流して、席から立って、帰っていった。

自分は何かが他の人と違う。何だろうか。こう、相手の空気というか、感情が、流れ込んでくる。

他の人にはよくわからないやつと思われていて、そう言われている人も、僕からしたらその人のことは手に取るようにわかる。

そして、その人は、鮮やかな世界だったり、モノトーンで彩られていたりと、なにか、一人一人に色がある。それがわかる。

でもなぜかは分からない。

「篠崎、そっちはいい感じの人材が来そうか?」

「ああ、そこそこいいのがきそう。柳田慎吾ってやつ、結構いいんじゃないかな。過去こそ少し問題ありだけど、それ以外に関していうなら、成果は出そう。」

「ほう?」

聞いた話によれば、彼はあのセントラル・センチュリオン大卒、優秀な生徒らしい。

「もしかしたら、彼、“あの組織”の方かもしれない。」

ああ、機動隊員でも知っている。“あの組織”、確かにあそこから逃げ出してくる機動隊員は少なくなかった。ヴァレト副隊長もその一人だったような。

ノーバディー・アンノウン。所長が少なくとも人の心のかけらもない殺人鬼で有名だ。今こちらでも捜索こそしているが、そう簡単にはいかない。

組織の連中は誰も、所長の場所を知ることはないし、目撃情報すらない。見た人は消されてるのもあり、情報の収集が簡単ではない。

篠崎は特大のあくびをかましたのち、「続けようや。」と次の人の書類を手に、定位置に戻った。

自分も元の席に戻り、面接をする準備をした。

さて、次は、ああ、氷永か。ペイルニア大学の首席か。

にしてもメンツが豪華だ。主席に御三家だらけとは。

と思っている間に、本人登場だ。

「こんにちは。それじゃあ、おかけになってもらって。」

彼は、のっそりと座った。

「それじゃあ、お名前をお願いできますか?」

「…氷永冷人です。」

うぅん…心が読めない。何を考えているんだ?顔にも一切の変化なし。なんだろうか、暖簾を腕押ししているような。

こう、手ごたえがない。

「分かりました。それじゃあ、なにか、最近は待っていることとかは…」

その後、また話すのだが、なぜだか何もわからない。笑うところも笑わない。操縦の圧倒的うまさから、少し期待なのだが…

これじゃあ、近代の戦闘のメインである、コンビネーションができない、いや、無理だろう。

自発性に欠ける。まあ、乞うご期待かな。

「ありがとうございました。それでは、結果は後程。」

そのセリフと同時に、彼は立ち上がり、帰っていった。

さてと、気持ちを切り替えて、どんどん行こう。次の人は…あっ、来た。

ラ・クィン。期待の白星っていうところかな。さて、一体どうなのだろうか。操縦は間違いない。問題は…

「こんにちは、それじゃあ、おかけになって。」

「あっ、はい。」

緊張が少しも見られない。何なら、なんだこれは、少し決意と、復讐心を感じる。

「それじゃあ、お名前を。」

「私はラ・クィンと呼ばれる。よろしく頼もう。」

妙な貫禄がある。いつも通りの質問する。

彼女の質問の答えの一つ一つには決意があった。

私は気になった。なぜそこまでの決意があるのかと。私は、「そこまでの決意、何かあったのですか?」と少し首をかしげながら問った。

彼女は、少しうつむいたが、案外早く答えてくれた。

「にわかには信じがたいと思うが、私は前世、別の世界の人だ。今でも鮮明な記憶がある。」

「ほう?興味深い。もっと聞かせてほしい。」

私は、彼女の意外な答えにくぎ付けとなった。というのも、彼女の心には一切の曇りも、嘘も、妄想も感じられない。

彼女の淡々と広げられるその答えに自分は信じる気になった。

…これがまやかしでなければいいのだが…

「わかった。私は他の世界で、ドラゴンに乗っていた。しかし、ある戦いがあって、仲間も、自分の肉体も失った。そして、気づけば、

もうここの世の中の誰かになってたのだよ。そして私は決めた。もうこれ以上、会ってきた仲間を失わないと。」

他人が効けば、この話は、ただの作り話かもしれない。だが、どうにも自分には、そうには聞こえない。

彼女の一言一言にこもったその時の思いや運命、それが鮮明に五臓六腑を駆けまわり、心の臓に刺さった。

「…そうでしたか。」

「信じてはもらえないだろう…だが、そうなのだ。」

自分は猫背になった背を起こし、彼女の瞳をしっかり見た。

「信じます。自分にも、同じことがあったから、その時の感情は、痛いほどわかるのです。あなたの一言ずつ、すべてにその感情を感じました。」

そして気づけば、彼女が机上に置いた手に手を当てていた。

暖かく、力強い手だった。

「でも、それで決意を決めたなら、自分たちはそれに従わなければならない、いや、逆らってはならない。だから…」

自分は言葉に詰まった。表しがたい、だが、伝えたいという気持ちが、自分の中を満たした。

「…信じてくれて、ありがたい。」

「すみません、こう熱くなっちゃって、もう大丈夫ですよ。それではお気をつけて。」

そう言うと、彼女は席を立ち、ゆっくりと扉を開けて、去っていった。

ドラゴン・ライダーか。面白い。今度、ワームホールについて関わる機会があれば、探してみよう。多元宇宙のどこかにあるはずだ。

昔は嘘みたいなことでも、今では現実として認知される。多元宇宙定理がしっかりとしてきたからだ。

その後、面接の机に縛り付けられること二時間、最後の人が入ってきた。

黒い服に、緑色と黒色の瞳、耳にはイヤリングか?いや違うな。通信機か。だいぶ分かりづらいが、そうだな。

「それじゃあおかけになってくださいな。」

キレがある動きで席に座ると、背を伸ばして、キリッと座った。

「それじゃあ自己紹介をお願いします。」

「俺はフォルガン・クルーだ。よろしく頼む。」

この人もまた妙に貫禄がある。

「ところで、履歴書に人体実験歴があるのですが、これ、本当ですか?」

疑うつもりはさらさらない。だが、気になる。

「はい。俺が小さいころにうちの両親が交通事故で死亡、研究所に引き取られ、DNAを改造させられた。」

プロジェクト・パーフェクト…か。人体実験により新しい人類を作り出そうという。大体見当はついていたが、まさか本当とは。

だが、あの実験は失敗したはず。なぜここに被検体が?

「具体的にはどのようなことを…」

つい気になって踏み込んでしまった。失礼なことをしたかもしれないと、少し言ったすぐ後に後悔した。

「これは失礼しました。答えてもらわなくとも…」

すぐに謝ったが、彼は会話を割って、和ませた。

「いえいえ。大丈夫です。具体的には、自分の体には四種類の遺伝子が混在している。鉄砲魚の遺伝子、コウモリの遺伝子、カメレオンの遺伝子、

そして人の遺伝子。それぞれには特徴があり、人の遺伝子が自分の体を主に作っており、鉄砲魚は自分の左目を主に形成している。動体視力は人間の五倍。

コウモリの遺伝子は、超音波での会話が可能。無論、人には聞こえない。そして、カメレオンの遺伝子は、皮膚の表面を形成。透明化できる。」

「なるほど…隠密行動にも、射撃戦においても秀でていると。」

「そういうことだ。」

興味深い。失敗に終わった理由は恐らく彼が逃げ出したことだろう。そして、それ以外では、顕著ともいえる遺伝子の変異のせいで体が壊れたか。

彼はきっと、優秀な助手になりそうだ。

その後も、質問を繰り返し、面接と連絡をすると、彼はすたすたと帰っていった。

時間はすでに七時になっていた。

マクレーンは、「どうだった?」と一言私に、背伸びしながら言った。

「もちろん、いろいろとい人はいましたよ。」と篠崎。

自分は、五分五分といったところだろう。

椅子から立つと、外はもう暗くなっていた。冬空の満天の星が私たちを照らした。

外のベランダに出て、煙草を一本取りだした。いい加減止めたいところだが、まだいい。しばらくしたら止めるとしよう。

煙草を銜えて、ライターで火をつけた。一筋の煙が伸びて、空に消えていった。一日一本で十分な一服だ。

しばらく外の柵によりかかりながら煙草を吸っていると、マクレーンが来て「一本くれないか?」といってきた。

彼に箱を渡し、銜えた煙草に火をつけてやった。

「一人、ドラゴンライダーだったという人が面接に来たんだ。彼女の言っているような多元宇宙はあるのだろうか?」

マクレーンは驚かず、冷静に告げた。

「あるさ。今見つかっている宇宙のうち、第八十三番目の宇宙がドラゴンがいたと報告されている。そこじゃないか?」

「ほう?」

外にある灰皿にたばこをこすりつけ、火を消した。

「前世の記憶のある人は多い。多元宇宙を発見してから増えた。彼女もその一人だろう。」

確かにそうかもしれない。そのようなことは聞いたことがあった。もし彼女がその一人であれば…いや、そうに違いない。

あれだけ鮮明に覚えているのだ。間違っているはずがない。それに嘘の心の色が本人に見えなかった。

「お前の、心を見る力は、まだ渋ってないな。」と一言言われ、マクレーンも火を消して外へ出ていった。

私も追うようにして、外に出た。

もう採用にするメンツは決まった。

あの時の戦いのような、酷いことにはさせないさ。隊長としての自覚はないが、それでも決意はあった。

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鋼の鳥が世界へ飛ぶとき 灰狼 @Hairow-001

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