祖父母の遠足

リラックス夢土

第1話 祖父母の遠足

 僕のおばあちゃんとおじいちゃんは田舎に住んでいる。

 小学校が夏休みになり僕はおばあちゃんとおじいちゃんの家に遊びに来た。

 おばあちゃんが畑で採れたスイカをおやつ代わりに出してくれる。


「ヤスは学校が楽しいかい?」


「うん。勉強は好きじゃないけど学校のイベントは好きだよ」


 甘いスイカを食べながら僕は答えた。


「学校ではどんなことをするんだい?」


「う~ん、秋には遠足があるよ。山に登るんだ。今から楽しみだよ」


「そうかいそうかい、遠足があるのかい。楽しみで何よりだねえ。今はそんなに遠足も昔のように危険なことはないじゃろうし」


 僕はおばあちゃんの言葉が気になった。


 遠足って危険なものだっけ?

 確かに山には野生の動物とかもいるかもだけど…


「おばあちゃんの子供の頃の遠足って危険なことがあったの?」


「ん~、危険と言うかこの辺の田舎では昔は不思議なことが起こることが多くてね」


「不思議なことってどんなこと?」


 僕は興味を引かれておばあちゃんに尋ねる。


「私が小学生の頃に行った遠足ではな。学校を出発して横に二列になって列を組んで山道を歩いていたんじゃが、私が自分の横にいる友達と話している時にふと前を見たら自分の前を歩いていた同級生たちの姿が無かったんじゃ」


「え? 前を歩いていた同級生とはぐれたの?」


「それだけじゃない。自分の後ろにいたはずの同級生の姿も消えていたんじゃ」


「後ろの人も!?」


 そんなことが起こるんだろうか。


「声を出してみんなを呼んでも誰からも返事がなくて、「こりゃ、いかん」と思って隣りにいた同級生と二人で自力で山の麓まで戻ったのじゃ」


「それでみんなはどうなったの?」


「しばらくそこで待っていたら竹藪の中をかき分けるように同級生が下山してきた。さらに一人、また一人と自力でみんなが下山して最終的には全員が無事下山できたんじゃ」


「まさか遠足に行ったみんながバラバラに迷ったってこと?」


「みんなに話を聞いたらみんなも私と同じように突然前後の人間がいなくなり慌てて自力で下山したそうじゃ」


 遠足に行ったみんなが遭難したのか?

 しかも普通に歩いていて突然前後の人が消えるなんてあるのかな?


「おばあちゃんたちの子供の頃ってそんなことがよくあったの?」


 僕は少し怖くなり小さな声でおばあちゃんに尋ねると縁側でお茶を飲んでいたおじいちゃんの笑い声が聞こえた。


「ハハハ、この辺の山では昔から『山にいる何か』に化かされることが多かったんじゃよ、ヤス。わしの子供の遠足の時も山に登って帰って来たら一人だけ同級生がいなくなっていたからみんなで捜索したんじゃ」


「ええ!? おじいちゃんの同級生も遠足でいなくなったの?」


「じゃが、ちゃんと見つかったぞ。ただ、なぜか山の中で真っ裸で寝ていたそうだ。本人もなぜ裸で寝ていたのか記憶にないそうじゃが」


「じゃあ、その人も『山にいる何か』に化かされたのかな? 『山にいる何か』って何?」


「そうじゃな。きっと化かされたんじゃろ。『山にいる何か』が何なのかは誰も知らん。キツネなのかタヌキなのか化け猫なのかそれとも神様なのか。どれにしてもいたずら好きに間違いはないな、ハハハ」


 おじいちゃんはそう言ってまた笑う。


 僕は心の中で祈った。


 僕が遠足に行く山にはその『山にいる何か』がいませんように。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

祖父母の遠足 リラックス夢土 @wakitatomohiro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ