第10話

 ギルド長の後に続きカウンター脇の部屋に入る。中には直径1メートル程の大きな水晶が丈夫そうな木枠で支えられていた。


「お、なんかこう言う古臭い地球儀、昔の映画で見た事あるな」

「売ったら数百万はしますよ」

「売るな!

 これはただの水晶じゃない。竜脈と言う魔力が集中的に流れている鉱脈の付近に精製された水晶だ。魔力に反応してその量によって輝くんだ。

 見ろ」


 ギルド長が水晶に手を置くと僅かに光った。次いでラターシャが触るとかなり光り、ベイクドもちょちょは目を細めた。


「スゲーな!」


 ベイクドもちょちょは退けよとラターシャを押し退けて水晶をベタンと叩く。しかし、一切光らなかった。


「はぁ?何で光らねーんだ?電池切れか?」

「魔力が無いんじゃ無いですか?」


 チームリーダーが手を置くとギルド長より光った。


「トイレ電気位には光ってんな」

「ボスは一切光ってませんでしたが」

「うるせぇ!何で光らなかったんだよ!」


 ベイクドもちょちょはギルド長を見る。


「偶に居るらしい。魔力を一切持たない者が。

 アンタもその類なんだろう」

「いーや、俺も魔法使いになる!」

「あんたはどう考えても重騎士か重戦士だろ。

 何処の世界にそんな重そうな甲冑と重そうな変な樽背負って元気そうな奴がいる」


 ギルド長は呆れ返って告げ、それからハッとした顔をした。


「アンタ、全員冒険者にならないか?」

「はぁ?なんで?」

「冒険者になれば、今後来るであろう国からの調査団からある程度は庇える。

 そもそもここの領主は領民や、我々冒険者から嫌われていてね」


 ギルド長が部屋の扉を閉める。内密な、大きな声で話せない内容と暗に示す。


「でも、あの城はどう説明する」

「突然やって来たお前達の未知の兵器を勝手な作動させた。

 お前達はその兵器を取り返そうとしたが時既に遅く……ってシナリオは?」

「兵士達の詰め所を襲って燃やした件は?」

「それはお前達がなんか良い案を考えろよ」


 ギルド長が半睨みしてくる。


「なら、こうしよう。

 冒険者ギルドは突如あらわれたオレ達の城を発見した。お前達は俺たちと平和的に交流し、爆弾を見せていたがそれを領主が俺の配下を含めて拉致った。

 で、それを解放しに来た俺達の配下と領主の兵士と戦闘になった。んで、城主が俺達を殺そうとして奪った兵器を爆発させ、自滅した」


 どーよ?とベイクドもちょちょはニヤリと笑う。


「ああ、それで良いだろう。

 嘘は真実と言う種を仕込む事で真実味が増す」


 ギルド長は頷き、ラターシャを見る。ラターシャは頷いてすぐに部屋を出て行った。後日、このカバーストーリーが冒険者ギルドからの発表と言う事で街中に流れ、町民はそれを信じた。

 現に冒険者達に死者は出ていないし、兵士達が何故ああも殺気だっていたのかも理解した。城が1時間と経たずに全焼する程の兵器を奪われたとあっては仕方ない、と。

 また、翌日以降、ベイクドもちょちょは各家庭に一ダースのビールやウィスキー、菓子などを騒がしくしたお詫びとして配ったのだ。


「つーわけで、俺達は全員冒険者に登録する。

 身分を手に入れる訳だな。あと、他のところに行く際に冒険者の証があると出入りが楽らしい。

 EU諸国のパスポートありゃヨーロッパの殆どが行き放題って奴だな」

「取り敢えず、この場にいる全員はギルドに登録してから帰りなさい。事後、警備班達を順次登録に来る様に伝えなさい」


 チームリーダーの指示に全員が了解と頷く。彼らの為に専用の動線が作られて事務的かつ迅速に登録が進んで行く。ここに名前を書け、此処にクラス(全員レンジャーで統制しろ)等と色々と張り紙と共にベイクドもちょちょの直轄チームの兵士達が指示をしながら兵士達を追い立てていた。

 まるで牧羊犬と羊だと誰かが呟く。登録を終えた兵士達は部屋から特別に持ち出した水晶に触ってかれ出ていけと告げられ、皆分からないままにそれを触って出て行く。

 完全に流れ作業で出口に第一陣のトラックにチームリーダーが乗って警備隊長達と交代する為に帰って行く。

 そんな感じでこの冒険者登録は迅速かつスムーズに終了した。

 そして、全員が終わり残すはベイクドもちょちょだかになる。


「名前はベイクドもちょちょ、クラスは魔法使いっと」

「ボス、アンタ魔力の反応無いって話じゃ無いですか」


 平然と嘘を書き始めたベイクドもちょちょに警備隊長が呆れた顔で告げる。城警備の為に結局最後まで残り、支援を司る各部署も全員終わったので最後の最後で彼が来たのだ。


「うるせぇ!!

 今は魔法が使えねぇかもそれねぇけど俺の火炎放射器は何時か魔法の炎を吹き出すんだよ!」

「ボス!!

 ヒドラジンの混合物やアルミニウムの化学反応を火の魔術と言うのを止めろ!

 それは魔法でも魔術でも何でもなく純粋な科学だよ!!」

「今は科学かもしらねぇが、その内魔法になるだ!!」

「ならねぇんですよ!恥ずかしいんでやめて下さい!」


 警備隊長の言葉にベイクドもちょちょは五月蝿いと提出してしまった。

 こうして、異世界に後に世界の勢力図を変えるだけの戦力を持つダンジョンブレイカーと呼ばれる一団が誕生したのだった。

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ヒドラジンの混合物やアルミニウムの化学反応を火の魔術と言うのを止めろ。 はち @i341sa98

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