第9話

 ベイクドもちょちょ達は領主の城を焼失させた後、冒険者ギルドに居た。因みに領主の直轄であった衛兵達の詰所は全て焼き払われ、抵抗した者は皆撃ち殺されて道に見せ様に放り出されていたら。降伏した者は武器装具を全て詰所に放り込まれて後は好きにしろとほっぽり出された。

 襲撃隊の半数は城の前で一晩明かせと指示を出されて帰路に着いた。街では自失呆然として居る元兵士達やベイクドもちょちょの行為に恐怖した市民、そして、冒険者ギルドに詰め掛けてベイクドもちょちょ達に制圧される冒険者に3分割された。


「よぉ、お前等。数時間振り」


 ベイクドもちょちょはテーブルに足を乗せ、椅子に腰掛けながら、正面で押さえ込まれている男に告げた。40代前後の筋肉質な男で顔には切られた跡がある。

 彼こそがこの街の冒険者ギルドの支部長その人だ。


「まーお前とは会ってねーけど?」


 ベイクドもちょちょはヘルメットをテーブルに置き、木の小さな樽で作られたジャッキを手繰り寄せて匂いを嗅ぐ。


「冷えてないビールだ。

 おつまみはソーセージ?ベーコン?まぁ、美味い、か。うん」


 ベイクドもちょちょは其々を一口づつ食べてビールで流し込む。


「さて、お前とは初めましてだから名乗っておこう。

 俺は見た目通り紳士だからな。この格好だと淑女か?」


 傍に控えているチームリーダーに問いかけると、チームリーダーは鼻で笑う。


「ボスが紳士、まぁ、淑女でも良いですが、それに見えるなら私はマリアで彼奴はキリストですよ。

 ふざけてないでさっさと話を進めて下さいよ」

「やだやだ、警備隊長ならもっと乗ってくれるんだがな。

 まぁ、良い。俺はベイクドもちょちょ。俺の部下を不当に拘束し有ろうかとか拷問までしやがったクソ共は皆殺しにした。

 お前等の約束である日没までに部下を城に戻すってもの無事守られた訳だ。

 故にこの街を城主の城みたいにしなくて済んだ。良かったな?」


 ベイクドもちょちょは高笑いをしながらギルド長の顔を覗き込む。


「こ、この拘束を離せ!」

「おーそうかい。

 良いぞギルド長。離してやれ」


 ベイクドもちょちょの合図に拘束していた兵士が拘束を解く。

 ギルド長は舌打ちをしながら肩を回しながらベイクドもちょちょを睨み付ける。


「お前等なんて事してくれたんだ!と、本来なら怒鳴るんだろうな」

「知らね」

「そうか。

 だが、我々とお前達と結んだ約束はお互いに何等不履行はなかった。

 しかし、領主を殺したな?国に追われるぞ」

「それはこの国の法律だろうが。俺達はアメリカ合衆国民だぞ、元だけど」


 ゲームの設定では部隊はアメリカだが政府は最早機能していないので元なのだ。


「その言い分が国に通じると思うか?」

「知らねぇけど、今日の襲撃班は全力じゃ無いぞ。まだ半分位の力も出してねぇし、そもそも、こんな甘々じゃねぇ。最初から皆殺しだ。

 分かるか?まぁ、分かんねぇなら明日の朝あの代官屋敷に行け。あれをこの街で再現出来るって事だ。

 俺は別にお前等と喧嘩したい訳じゃねぇ。でも、殴られてニコニコ手を振って許すなんて玉無し野郎みてぇな事はしねぇ。

 殴られたら殺す。舐められたら、そいつ等を2度と舐めれないようにする。見せしめもだな。

 で、お前等はどうする?」

「我々は荒くれ共を纏めているが別に誰これ構わず喧嘩をする分けじゃ無い。むしろ、そう言うことをさせないための我々だ」


 ベイクドもちょちょはギルド長の言葉に満足したように頷いた。


「そりゃ良い。

 おい、こんなロバのションベンみたいな汁じゃなくてちゃんとした酒持って来いよ。

 ベンジャミン!」


 ベイクドもちょちょの言葉に併設されたバーで酒を品定めしていた兵士を呼び付ける。兵士ははいボスと返事をすると瓶を一つ引っ掴みベイクドもちょちょとギルド長の机にグラス二個と共に置く。

 ベイクドもちょちょはそのグラスに半分づつ酒を注ぎ、一つをギルド長の前に置いた。


「友好の証だ」

「あ、ああ」


 2人は乾杯をすると一気に煽る。ベイクドもちょちょは何事もないかのようにグラスをテーブルに叩きつけるように置き、ギルド長はむせつつも何とか飲み切ると同じ様にグラスをテーブルに置く。


「宿を貸してくれ親友。

 俺の部下達が寝る為の。勿論タダとは言わない。ここの通貨は分からんから酒でも食べ物でどっちでも良いぞ」

「あ、ああ、分かった。そのぐらいなら。

 その、アンタ達が使ってる武器は?」


 ギルド長の言葉にベイクドもちょちょは笑う。


「酒と食い物どちらかを選べ」

「さ、酒だ。ラターシャがあんた等の酒は美味いと言っていた」

「ああ、あの女か。

 彼奴、こっそりビール一缶盗んで行きやがったぞ。冷やして飲めって言っとけ。

 無線で明日朝ウィスキーをダースで持ってこいと」


 ベイクドもちょちょは俺は賢い奴が好きだ、と笑みを浮かべ部下達を案内しくれと席を立つ。


「俺は此処に居る。

 各チームは交代で不寝番を立てろ。明日の朝9時に全チームギルドの前に集合」

「分かりました」

「騒ぎを起こすなよ。起こす際は向かうから先に手を出させろ。

 じゃ、解散」


 ベイクドもちょちょはそれだけ告げると彼の直属チーム以外はギルドから引き上げた。ギルド長の指示で信頼できる冒険者とギルド職員が其々のチームに宿泊施設を案内しに向かう。


「お前等も良いぞ」

「わかりました」


 チームリーダーが3人ほどを残して後は良いぞと指示を出す。


「お前も良いぞ」

「いえ、ボスから目を離すと何をするかわからないので」


 チームリーダーの言葉にベイクドもちょちょは眉を顰め、残った兵士達を見る。


「俺を何だと思ってんだコイツは?」

「幼稚園児の方がマジでマシ」

「悪魔の方がまだ対話できる」


 兵士達が口々に率直な意見を述べて行くと、ベイクドもちょちょがグラスを投げ付けた。


「とっとと寝ろ!」

「おお怖い怖い」

「おやすみボス」


 兵士達は笑いながらギルドの奥の方にあったベンチで寝転がった。


「当初はお前が俺の見張りか?」


 ベイクドもちょちょはうんざりした様にチームリーダーを見る。チームリーダーはハイと頷き、グラスを持って来るとウィスキーを注いだ。


「お前も飲めよ」


 ベイクドもちょちょはギルド長の前にツーフィンガーで注ぐ。


「氷欲しいな」

「お前、魔法で氷出さないの?」


 ベイクドもちょちょがギルド長に告げる。

 ギルド長はそんな図々しい2人に呆れ返ってから首を振る。


「俺は剣士上がりだ。精々足下を照らすくらいの光やマッチがわりの火しか出せないよ」

「ンだよ、使えねぇな。

 誰か居ねーの?」


 ベイクドもちょちょはギルドの奥に向かって叫ぶ。


「氷の魔法使える奴いねぇのか!」


 暫くするとガタガタと奥から誰か走ってくる。ラターシャであった。


「お、ラターシャじゃねぇか。

 お前氷の魔法使えるのか?」

「は、はい。正確には氷結魔術ですが」

「何でも良い。

 グラスに氷作れよ」

「は、はい!」


 ラターシャは頷くと三つのグラスに大きめの氷を作って入れる。


「いーねー

 魔法は誰でも覚えれるの?」

「適性があればな」


 ベイクドもちょちょはツマミ持って来てとラターシャに告げながら、冷えたウィンナーを齧る。


「その適性はどうやって判断する?」


 コップに水張って葉っぱ浮かべるか?と笑い、チームリーダーはそのネタは伝わらないかと、と告げた。


「いや、適性判断は水晶を使う。ギルドにもあるが、使ってみるか?」

「お、今わかんの?

 やりたい!」


 ベイクドもちょちょは持ってこいと告げるが、ギルド長が苦笑する。


「貴重な物だし、アレを運ぶにはかなり苦労するから俺達が行った方が早い。

 ついて来い」


 ギルド長が立ち上がり、ベイクドもちょちょはグラスとナイフにベーコンやウィンナーを全て刺して片手に持ってその後に続く。

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