10
その年。
聖は病気になった。(国中を覆っている祟りと噂される疫病も、まだまだおさまっていなかった。天子様はきっと頑張っているのだと思うけど、戦もなくらなず、不作も飢饉も、大きな災害も続いていた)
ごほごほと咳ばっかりがでて、手足もしびれてしまって、彫刻もあまり上手く彫れなくなってしまったけど、その間は、お弟子の白鹿の姫が聖のぶんまでがんばって彫刻を彫ってくれた。(白鹿の姫は聖の故郷の彫刻の工房のみんなによく彫刻がへただとからかわれていた。ずいぶんとかわいがられていたのだ。師匠もそんな彫刻がへたな白鹿の姫のことを大切にしてくれていた)
聖は自分は結局、自分の彫刻の中に神様を見つけることはできなかった。少なくとも自分の彫った彫刻には、(一番最初に彫った不格好だったけど亡くなったお母さんの彫刻には、なにかを感じることができなんだけどな)最初からどこにも神様なんていなかったのかもしれないと、布団の中でずっと横になっている聖は退屈しながら思った。(なんにもすることがなかった)
神様は見つめられなかったけど、聖の中には白鹿の姫がいてくれた。
笑っている、泣いている、怒っている、喜んでいる、いろんな白鹿の姫が。
たくさん、たくさんいてくれた。(背の大きさだって、髪の長さだって、声だって、少しだけ違っていた)
聖はそんないろんな白鹿の姫を思い出しながら、いつの間にか深い眠りについていた。
ある日、目を覚ました聖がふと見ると枕の横に一つの不格好な彫刻がお手紙と一緒に置いてあった。
その彫刻は女性の彫刻で、どうやらそれは聖の彫刻のようだった。
お手紙を読んでみると、そのお手紙は白鹿の姫からのお手紙で『おししょうさま。はやくげんきになってください』と拙いひらがなの文字で書かれていた。
その白鹿の姫の気持ちの思ったお手紙を読んで、聖は嬉しくなってぽろぽろと涙を流した。
それから聖は白鹿の姫の彫った自分自身の不格好な彫刻を手に取った。
そのとき、ふとその手に取った不格好な彫刻を見て、聖は驚いて、そして、……、とってもどきどきした。
聖の目にはその彫刻が淡く光っているように見えたのだった。
今よりも少しだけ若い自分。白鹿の姫と出会ったころの聖が優しい顔をしてなにかを抱きしめようとしている、不格好だけど、動きがあり、表情があり、なかなかとても見事な彫刻だと聖は思った。
聖の彫刻を持つ手は小さく震えている。
不格好な彫刻は、たしかに光って見える。その淡い光の中に、聖はずっと探していた神様の姿をようやく見つけることができた。
……、みつけた。あなたはずっとここに隠れていたのですね。
と泣きながら聖は思った。
聖は不格好な彫刻をぎゅっと抱きしめた。
それから数日後に、病が悪化してしまって、聖はとても若くて短い生涯をその自分の生まれた家で終えた。(その間、聖はずっと白鹿の姫の彫ってくれた自分自身の彫刻をずっと目に見えるところに置いていた)
その亡くなった聖の顔はとても、とても満足そうで穏やかだった。
……、愛してる。
聖 ひじり 終わり
聖 ひじり 雨世界 @amesekai
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