第二話 登校

「昨日はなんで通話の承諾をしてしまったんだろう...」

 僕は寝ぼけた頭でそんな事を考えている。

 そもそも僕は人と話す事が苦手である。

 いや、苦手を通り越してコンビニの店員に「ありがとう」の一言すら話せないほどだ。


 なぜ僕が話せなくなったかというと数年前、クラスメイトから軽いいじめを受けた事である。

 もちろん物語に出てくるような悪辣で暴力的なものではなく、少しの期間無視されていた程度だ。

 その"程度"が僕にとっては苦痛だった。


 ただ、約束してしまった手前反故にする訳にはいかない。

 僕は人と話す練習をする為にも徹夜して大学に行く事に決めた。


 早朝、黒い世界が青に変わっていく瞬間に憂鬱を覚えつつも支度を始める。

 入学当初は浮かれて金にしていた髪の毛も、今ではすっかりプリンになってしまっている。


 当然、学内に友人など1人も居るわけがないのでグループワークが死ぬほど苦痛だ。

 目的に沿って会話する分には問題ないのだが、ブレイクタイムとかいう時間は許せない。

 雑談というものが未だに分からず、皆して正常にこなせている姿が不思議で仕方ない。


 そんなこんなで大学へ向かう。

 僕の家は大学まで徒歩15分程度なので登校自体はかなり楽だ。

 なのになかなか登校できていないのは遠距離通学の人たちに少し申し訳なさを覚える。


 そうこうしてる間に大学に着いた。

 相変わらずだだっ広い空間に人が無数に跋扈している。

 螺旋状の階段を登り、その先で講義が始まる。


 この講義は少人数制でグループワークなので会話の練習にはもってこいだ。

 今日の議題は「心」はどこにあるのか?

であり、ディスカッションが始まる。

 「脳」、「魂」、「心臓」など色々な答えがなされる。

 僕は内心「そんなものはない」と考えてはいたが、皆に迎合して「脳」と答えた。


 それからディスカッションも白熱していったが、僕は一言も喋らずに蚊帳の外だった。

 あぁ、結局僕はだめなんだ...

 そう思っていたらチャイムが鳴り、講義が終わった。


 明日はあかりさんとの通話の日だ。

 こんな調子で嫌われてしまわないか心配だが、考えないようにして家で仮眠を取る事にした。

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薊と君 お茶漬け @ocyaduke

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