薊と君

お茶漬け

第一話 立冬の一幕

「ピピピピピッ」

 けたたましくアラームの音が鳴る。

 急いで携帯を確認すると時計は18時を回っている。

 僕は今日の講義が終わってしまった事を理解して大きなため息を出し、珈琲を飲む。


 大学1年生の11月だというのに僕はまだ数えるほどしか学校に行けていない。

 なぜこんなに登校回数が少ないかというと、単純に不眠症だからだ。


 もちろん不眠症もやむを得ない事情なのかもしれないが、分かりやすく大きな病気がある訳でもない僕は、他者からは怠惰の結果だと見られるのが一般的であろう。


 今日も学生という職責を全うできないまま、PCを開き日課のFPSを始める。


『Zamiくん今日はログイン早いね〜笑』


ゲーム内でチャットの通知が鳴る。


『あかりさんこそ今日大学じゃありませんでした?』


『私は今日講義途中でサボっちゃった笑、きみもどうせ寝てたんでしょ笑』


 図星を突かれ、負い目からか少しチャットの手を止める。

 あかりさんとは数年前、FPSゲーム『Clash』で出会った俗にいうネッ友だ。

 当時高校生だった僕は学校に行かずひたすらにプレイしていた結果、世界ランク30位台まで登りつめていた。

 そんな中出会ったのがあかりさんで、当時世界1位として活躍していて、同じ日本人同士として仲間に誘ってくれたのが関係の始まりだ。


 最近は当時の熱も冷め、お互いにランク3桁付近で他愛ない会話をしながらゆるくプレイしている。


『そういえばZamiくんと付き合い長いけど通話したことないよね〜』


『僕は聞き専ですからね』


『よかったら今度おはなししよーよ!』


『!?』


 思わず驚いてしまった。彼女から通話を誘われることはもちろん、そもそも声を出している所を数回程度しか知らないからだ。

 確か、明るく透き通った声だった記憶がある。


『いやだったら全然だいじょぶだよ!』


『あかりさんがいいならぜひ』


『やった!!明後日の金曜日にしよ〜!!今日はあんまり長いこと話せないし〜』



 思わず快諾してしまった。

 正直、嬉しさよりも緊張が強い。もし喋った結果嫌われてしまったらどうしようなどと無意味な思考が頭を巡る。

 その後、彼女がパーティを抜けてからもそんな事を考えながら朝型までゲームを続けていた。

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