人の時間の重さを感じる旅

これは第1〜2章を読んだ感想と推測です。後の章とは違ってくるかもしれません。

物語は、奴隷商人の助手クレメンテから始まり、彼が逃がした奴隷ジル、帝国兵に襲われたナギルとサレハが、誤解から混乱した状況へ巻き込まれていきます。

途中で大聖堂が放火される場面を見て、「いくら奴隷商人に豊富な人脈と資金があっても、こんな暴挙が許されるのか?」と、とても疑問に思いました。ですが前後をつなげてみると、奴隷商人は利用されただけの駒で、ナギルとサレハを狙う陰謀や政治的な思惑こそが、事態を混乱させた原因だと分かります。

もう一つリアルだと思ったのは、個人の無力さです。偶然同行することになった二組の逃亡者は、大きな政治の力の前ではとても弱い。暗殺者を一度追い払うことはできても、彼らの旅は悲嘆の中でもがく運命にあるように見えます。

それでも生きるためには困難を越えなければならない……短いようで長い時間。文字で「人の時間の流れ」を描くのは、本当に難しいことだといつも思います。

第1章と第2章のおもしろさは、物語の時間差が20年ほどあるところです。ナギルの父の世代の話が描かれています。

物語に出てくる帝国は、根元から腐っているように感じました。無能な皇太子と、妹と帝国の未来のために皇太子暗殺を決意する若者ラクピ……後半のファンタジー的な場面がなかったら、ラクピへの評価は「馬鹿」の一言だけになっていたかもしれません。

予言が関わる場面はいつも重いです。運命に従うのか、逆らうのか。どちらにしても、時間に押し流される人々は、いつも「しかたなさ」や後悔、切なさを抱えているのでしょう。

この物語の旅がどこへ向かうのか、とても気になります。

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