砂漠の上の街と、ラクダという珍奇な生物と、ラクダの沈む砂海


 我輩は見聞を広げる手始めに、まず一番近い港町へと足を伸ばした。そこで何か面白い異国の話でも聞けないものかと酒場で酔っ払いの船人たちの話に聞き耳を立てていた。一人の船人が砂漠の上の街について話していたので、砂の上にどうやって街を作るだろうかと気になった我輩は、船人に一杯奢ることで詳しく話を聞くことが出来た。


 砂漠とは砂が海原の如く広がっている土地で、延々と砂浜が続いているようなモノだそうな。我輩もそこまでは聞き知ってはいたが、船人が言うことには、砂漠を掘ればどこでも何かしら海の生き物の死骸や殻が見つかるらしい。「砂漠が延々と続く砂浜だと言うのは例え話ではなく実際にそうだったのだ。」「元々は海だったところが乾いてできたのが砂漠なのだから海の生き物のあれこれが見つかるのは至極当然のことなのだ。」と、船人は真っ赤になった顔で力説した。そうやって見つかった鯨や鮫の骨やら、亀の甲羅なんかを集めて砂漠の街は造られるのだとか。なんとも胡散臭い話ではあるが、海の生き物の死骸であるなら砂で出来た海にも上手く浮かぶことができるのかもしれない、と我輩は船人に所感を述べた。船人はがははと笑ってさらに語った。


 「砂漠の中には特に柔らかくなっている部分があって、そこでは人間が歩こうとしても底なし沼のように沈んでしまう。そんな場所でもしっかりと立って歩ける”ラクダ”と言う生き物が砂漠のある国にいる。」「ラクダは人よりも背が高く、暑さに強い。温厚で人の言うことをよく聞く。そして大きなヒヅメを持っていて、そのおかげで足が砂に飲み込まれるのを防いでいる。」船人はグラグラと上半身を揺らしながらそのラクダの絵を、酒の雫で机に描いてくれた。横長の毛糸玉に奇妙に細い足が伸び、その足先には不恰好な靴のようなヒヅメがついていた。「このヒヅメは・・・もっと大きい!実物を見たらこんなもんじゃあない!しかしこのラクダでも歩けない砂海というものもある。」と船人は続けた。「もっともっと柔らかい砂があるのだ。きっと海だったことを忘れられない砂が集まった場所なのだ。」そういった場所は砂海と呼ばれ、ラクダであっても沈んでしまうほど危険な場所だという。埋めてしまわないのかと船人に聞くと、ラクダはそういう柔らかい砂を舐めて生きているらしい。人間が水や酒を飲まなくてはいけないように、ラクダは砂海を飲まなくてはいけないのだろう。


 そうして色々な砂漠の話を聞いて、我輩は俄然興味が湧いてきていた。そこで船人に礼を言って、すぐに港へ行って砂漠行きの次の船に乗れるように手配をした。数日後には荷を積んだ商船が砂漠の国へ向けて出航するということだったので、我輩も準備をすることにした。

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蛮世見聞録 沖 洋人 @oki-hirot

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