山に埋めた親友がデッカくなって帰ってきた。
泡森なつ
山に埋めた親友がデッカくなって帰ってきた。
湿っぽい土の匂いが鼻腔を満たす。滝のような汗が顎先からぽつぽつと滴る。もう、冬が近いというのに。
掘った穴に土を放り、地面を慣らして、草葉を被せた。由希が少し離れた場所から見て「よし」と言ったところで、俺もこのくらいで良いだろうと作業をひと段落させる。
穴を掘るだけの行為がここまでの重労働だとは思いもしなかった。
そして、友人を殺して埋めることにこれだけ罪悪感と実感が伴わないのも、意外なことだった。
「これで、大丈夫なんだよな」
「うん。この山は普段誰も来ないし、これだけ深く埋めたらバレないよ」
由希が俺の手を取り、帰路へと導く。深夜二時。辺りは一切の人通りがなく、街灯の下に居るのはシャベルを持った土まみれの二人の男女だけだ。
「もしもの話だけど」
立ち止まって、俺は口を開いた。
「もし警察とかにバレても、俺がやったってちゃんと言ってくれよ」
彼女のことだ。ひょっとするととんでもない嘘をついて俺の保身を徹底するのでは、というわずかばかりの心配があった。何があっても罰せられるのは俺だけにしなければ。俺がやってしまったことなんだから。
「大丈夫だよ。
その言葉をどこまで信じていいのかと戸惑う。いや、何より彼女にそこまで背負わせて、俺自身は未だ実感すら伴っていないことが情けなかった。
「ほら、私空手黒帯だし、バットとかコンクリとか割れるし、大体の大人にはステゴロで勝てるから、大丈夫だよ」
思ったより物理寄りの大丈夫だった。
彼女の思い切った宣言に思わず笑みがこぼれてしまう。そう言えば、こいつは昔からフィジカルモンスターだったな。どこまでが本当なのかは別として、一緒に死体を埋めたのが由希で良かったと心から思った。
ちかちかと明滅する電灯の下、互いの目を見た。相手の考えていることが、手に取るように分かる気がする。
心の中には共犯者がいることへの安心感と共に、こんな状況で幼馴染に対し恋心に似た思いを抱いてしまっていることへの背徳感もあった。
きっと、既にどうかしていたのかもしれない。この罪に対して何かを誓い合うように、俺たちは静かに唇を重ねた。
時は昨日の夕方に遡る。
旧校舎の階段下で、頭から血を流して倒れているのは、親友の勇人だった。
俺は友達を階段から突き落としてしまい、殺した。
事情は単純、色恋沙汰だ。警察に捕まった時は、ついカッとなって……とでも言うことになるんだろうか。
殺すつもりがなかったと言えば嘘になる。邪魔だ、死んでほしいと一瞬でも思ったことはあるかと言われれば頷かざるを得ない。
最初にその現場を目撃したのは幼馴染の由希だった。爽やかな黒のショートヘアを携えた彼女は、慌てふためく俺と階段下の死体を交互に見るなり若干の動揺を見せて、そして数秒した後に口を開いた。
「私、軽トラ運転できる」
「……は」
突然の自己PRに唖然としたが、俺は遅れてその言葉の意味を理解する。
「良い隠し場所も知ってる」
「おい、何馬鹿なこと言ってんだよ。まさか、駄目だろそれは……」
こくり、と彼女の小動物めいた小さな顔が頷いた。
「埋めに行こう、死体」
覚悟の色さえ窺えないほどの、黒くまっすぐな瞳に見つめられた。
何故そこまでするのか、何故そんなことをするのか、これからどうなってしまうのか。俺はただ困惑するしかなかった。
しかし、ひょっとするとこれが吊り橋効果というやつなのかもしれない。幼馴染という共犯者の存在にこれまでにないほどの安堵を覚えてしまったこの時の俺は、彼女の提案に乗る以外、何も考えられなかった。
翌日
「よっ、尊!」
「ウワーーーーーーーーー!!??」
殺して埋めたはずの勇人が生きていた。
校舎裏の血痕は昨日のうちに綺麗に洗い流したものの、他に痕跡が残っていないか心配だった俺は、念のため殺人現場に戻り様子を確認するところだった。犯人は現場に戻るというのはまさにこのことだ。
しかし、死体まで現場に戻るなんて聞いたことがない。
旧校舎を揺らすほどの大声を上げて、俺は腰を抜かしてしまった。
「お、おおお、お前どうして、なんで生きてるんだ!」
しかも心なしか少しデカくなっている。並んで立てば、少し見上げるほどに背丈が伸びていた。なんだよ埋めたら大きくなって帰ってくるって。どうぶつの森じゃねーんだぞ。
「はぁ? なんのことだよ。出会いがしらに失礼だぞ~」
へらへらとしたにやけ顔、軽薄な口調、こっちの気も知らないような態度。
間違いない。あの勇人だ。少しデカいこと以外は間違いなく、親友の勇人だった。
「き、昨日、お前……どうやって」
「ええ? 昨日? 部活終わりでヘトヘトだったから、帰って死んだように眠ってたぜ!」
死んだんだよお前は。
「風呂入ってねえから、ちょっと匂うかもな」
それは腐臭だ馬鹿。
待ってくれ。昨日の今日だぞ? あのイエス・キリストでさえ復活には三日かかったんだぞ?
何が起こっているんだ。本当に生き返ったっていうのか。
目の前の状況を受け入れられず、俺はまたも困惑するばかりだった。ズキズキと頭が痛む。
「てか、顔面真っ青だぞ。死体みたいだな~」
「お前が言うな!」
しかし、腹の底に沈めて気づかないようにしていた罪悪感が、こいつの顔を見たことで次第に怒りへと変化した。なんで死んでないんだよ。何がしたいんだこいつは。何故諦めないんだ。気持ち悪い。
また俺にやり直せというのか。
「ひでえこと言うな~。熱でもあんのかぁ?」
「や、やめろ、近づくな!」
突如、勇人が俺の額に手を当てようとしたその瞬間。嫌悪と恐怖がないまぜになったこの心は、もはや正常な判断ができなくなっていた。
気がつくと、俺はまたも彼を突き飛ばしていた。
どちゃっ。重々しい、水気の混じった落下音が淡く響いた。
恐る恐る階下を見やると、そこには広がっていたのは昨日と同じ光景。
勇人が死んだ。俺に突き飛ばされ、頭から落ちて死んだ。二度も、だ。
またやってしまった。だが、不思議と迷いはない。俺はどうすればいいのか、次に取るべき行動を明確に理解していた。
震える手でスマホを取り出し、LINEを開く。画面には共犯者の名前があった。
「勇人が生き返った」
夜の九時。山中の空き地に座り込んで、俺は由希に改めて説明した。
目の前には勇人の死体。傍らには大きなシャベルが二つあり、これから行われることを如実に説明していた。
「ど、どういうこと……勇人くんは死んだはずだよね?」
「でも、現にここにいる。だから今日は場所を変えて、別のところに埋めるんだ」
同じところに何度も赴いて穴を掘っていれば、人に見つかるリスクも高まる。同じ山の中でも、より人気のないところを選んでこの死体を埋めることにした。
「手伝ってくれ」
「……うん」
由希はためらいがちに頷いた。
二日連続で大穴を掘る羽目になるとは思わず、俺の全身は悲鳴をあげる一歩手前に迫っていた。手のひらの皮が剥けて焼けるように痛む。踏ん張る度に足首と腰が疲労を訴える。また、そんなことに気が向いてしまう程度には自分がこの状況に慣れてしまっているという事実に気付き、小さく絶望した。
穴を掘り、勇人を投げ入れる。埋め直し、地面を慣らして、申し訳程度に草葉を被せた。
今度は俺が「よし」と呟いた。
頼むから、もう死んだままで居てくれ。亡き友人に非情な思いを浮かべながら山を後にする。
由希は始終、俺のことを心配そうな目で見ていた。
翌日、放課後。
「あれ、尊じゃねえか」
「…………」
勇人が生き返った。また少し体が大きくなっている。元は同じくらいの背丈なのに、今では頭半分ほどの差をつけられていた。
なんで会う度にデカくなってるんだよ。ジャック・ハンマーかお前は。
確かに俺は勇人を殺して、山に埋めたはずだ。穴の深さは相当なもので、たとえ後から目が覚めたところで、這い出てくることはまず不可能だろう。
じゃあ、目の前のこいつは一体なんなんだ。
何度殺しても平然とした顔で、変わらず俺に接してくる、この訳の分からない生き物は何者なんだ。
「そういやお前、湯川さん見なかったか?」
湯川……幼馴染、由希の苗字だ。何故ここであいつの名前が?
「実は、このあとここに来るようにって呼んでるんだよ。まあ、理由は分かるだろ。男子だったら皆一度はあの子に告りたくなるってもんだしさ」
「は……」
俺は驚愕した。
「お前、本気で言ってんのかよ」
「な、なんだよ。俺がノーチャンだって言いたいのか? やってみないと分かんないだろー!」
違う。あり得ない。俺の知る限り、お前は由希のことを好きじゃないはずだ。
だって、お前が本当に好意を抱いているのは女子の由希ではなく――
この俺に対してだったはずだろ。
あの日、お前から告白され、返答を迫られた俺は、つい弾みでお前を突き放してしまった。
俺は幼馴染の由希が好きだ。お前の告白は受け取れない。だが、それを正直に伝えるのが怖かった。お前の恋心を認めるのと同じくらい、拒むことで大切な友情を壊してしまうのが怖かった。お前を拒否しながらも、お前を受け入れたかった。でも、俺はどうすることもできなかった。
階段の近くだったのが運の尽きだ。足を踏み外して階段から転落した先で、お前は頭を強く打ち付けて死んだ。初め、お前はそうやって死んだんだよ、勇人。
「それによぉ、お前もちゃんと応援してくれよな。だってお前」
その時。ぞく、と心の底で毛虫のような憎しみが
「俺に借りがあるだろ」
「ねえ、これって……」
「勇人だ」
星空の下。いつもの山。近くの岩に腰掛けながら俺は答える。正しくは勇人だったものというべきか。目の前に転がる五つの黒ビニール袋は冬の空気で冷やされており、いつもの山へ運ぶ際もなかなかに気持ちが悪かった。
勇人はきっと俺を恨んでいるだろう。好意を最悪な形で返されて、何度も殺されて。
あいつは由希に告白をすると言っていたが、それはつまり、俺がその後彼女と恋人関係になったことへの当てつけだったんだ。
勿論、それを咎める資格は俺にはない。だけどここまで来た以上、お前の息の根を止めなければ、俺は安心して生きることができない。
だから確実な方法を取った。
人の体をバラバラにするのは、人を埋める穴を掘るよりも遥かに重労働だった。骨はノコギリなどでは滅多に切れないので、代わりにハンマーを何度も振り下ろした。恐怖と憎しみで頭がおかしくなっていたとは言え、時々正気に戻っては何度も胃の中の物を戻す羽目になった。
時刻は深夜の四時。後はこの袋を埋めるだけ。学校を早退してまで取り掛かった甲斐があって、なんとか日の登らないうちに作業が終えられそうだ。
そう、最早これは作業に過ぎない。勇人を確実に葬るための工程なんだ。
「由希、手伝ってくれ」
山中のいくつかの場所に穴を掘り、そこに黒ビニールごと放り投げる。分解までどれだけ時間がかかるのか。匂いでバレたりしないだろうか。そんなことを心配しながら、穴を埋めた。
山を下りる途中、由希がおずおずとしながら口を切った。
「あれって、本当に勇人くんなの……?」
「……何言ってんだよ」
俺だってそう思いたくない。だけど、現に奴は俺の前に何度も現れた。こちらの気も知らないで、いつものような素振りで、俺の精神を逆撫でした。だから、勇人は死んだんだ。
とっくに自分がおかしくなっていることには気付いていた。それでも俺を守ってくれると、由希に言ってほしかった。しかし、今の彼女からは、とてもそんな言葉は聞けそうにない。
翌日。
俺は学校にも行かず、一日中自室にこもり、ただ日が過ぎるのを待っていた。
怖かった。学校へ行けば、勇人がまた俺の目の前に現れるのではないかと思うと、部屋を出ることが出来なかった。
連日挙動不審になる息子を心配して、両親も詳しい理由は聞かずに俺の登校拒否を受け入れてくれた。学校には体調不良と伝えている。
思えば、最初に勇人を殺した日の夜もそうだった。
殺してしまったはずの友人が、何食わぬ顔で目の前に現れたら? 俺はそんな心配を胸に、短い夜を過ごしていた。そして次の日、その考えが現実になっていた。
その次の夜も、また勇人が蘇ってしまったらどうしようかと、明日に怯えながら布団に潜った。寝不足だったが今度は少しも眠れなかった。重労働による全身の痛みが、勇人からの恨みとして刻まれているような気がした。そんな心配はまたもや現実のものになった。
今日も、一睡もしていない。目の端がチカチカと明滅する感覚は、あの日の夜の街灯を思い起こさせる。
いっそこれが悪い夢なら良いのに、と何度も願った。だが眠ることができないので、夢から覚めることもまたできなかった。
コンコン、と部屋のノックが鳴った。
「尊、友達がお見舞い来てるわよ。顔くらい見せてあげなさい」
友達。その言葉に身体が小さく震える。俺は恐る恐る「誰?」と尋ねた。
「由希ちゃんよ。ほら、幼馴染の。お母さん買い物に出かけてくるから、さっさと出てあげなさいな」
ああ、と胸をなでおろす。布団から足を出して、冬の冷えた空気を味わった。冷たい廊下を素足で踏みしめながら、ゆっくりと玄関に向かう。遠くで母の声が聞こえた。
玄関扉の前についた時、俺はいつもの癖で、覗き窓から見える景色を確認した。宅配業者などとやり取りをする前に、先に相手の顔を窺うのが習慣となっていたためだ。
そして、俺は覗き窓の先に奴を見た。
扉の向こうで、学生カバンを両手に持って佇む、勇人の姿を。
その顔は軽薄そうな笑みが張り付いており、見るほどに悪寒が走った。間違いなく親友の勇人だ。
何故? 母さんは嘘をついたのか? それとも、由希もどこかに居るのか?
様々な考えが脳裏を巡ったが、自分を納得させられる答えは見つからなかった。
「尊く~ん。風邪なんだってね? 体調のほうはどう?」
扉越しに気配を察したのか、奴は心にもないことを言う。俺がこうなっているのは、お前のせいだというのに。
焦りと共にやってきたのは、こいつを黙らせなければという使命感だった。どうしてやろうかと逡巡するうちに、俺の視界は玄関の片隅にある、いつからか使わなくなった木製バットを捉えていた。
「入れよ」
がちゃり、と玄関が開けられた時、勇人の視界に俺の姿は無かった。
「お邪魔しま~す。尊くん、どこにいるの?」
ソックスを履いた足が廊下を踏む。ぎぃ、とわずかに軋む音を聞くことで、奴の位置を計った。
そして十歩目の音が聞こえた瞬間、俺は潜んでいた廊下横のトイレから勢いよく飛び出し、手に持つバットを勇人の後頭部に目がけて振りかぶった。
しかし――
ばきっ、と乾いた音が鳴る。振り下ろしたはずが、これといった手ごたえはない。気がつくと手に持っていたバットはいつの間にか柄から先を失っており、失った部分は床に転がっていた。
「な、え、どういう――」
「イヤーッ!」
声と共に顔をあげると、女子のような小さな足裏が、俺の眼前に迫っていた。
目が覚めると、いつもの山の中にいた。
「気が付いた?」
「……なんでお前に背負われてるんだ、由希」
「だって、なかなか起きないから」
もはや、彼女が平然と男の俺を負ぶっている事実は突っ込みようがなかった。彼女の最初の宣言があながち嘘ではないのだと、ようやく信じる気になれそうだ。
「……てか、それより勇人は――」
「あれは私だよ。尊くん、見間違えたみたいだね」
なんだって? そんなことある訳がないだろ、と俺は一蹴する。勇人と由希をどう見比べたら間違えることがあるんだ。
「頭でもおかしくなっていない限り、んなことあり得ないだろ」
「……そうだね」
少し歩くと、由希はようやく俺を背中から降ろして、「ここだよ」と告げた。
山の中はどこも同じような景色だが、それでも俺には分かる。この場所は、最初に勇人を埋めたところだ。
恐ろしくて、あれから一度もここには来なかった。新たに勇人の死体を埋めに行く時も、この場所は無意識に避けて他の場所を選んでいたことを思い出す。
「何するんだよ、こんなとこで」
聞かなくても答えは薄々分かっていた。由希は黙ってシャベルを地面に突き刺す。
数分かけて、かつて掘った穴を掘り返した。土の色がわずかに違うのは腐敗のためか、あるいは俺たちが掘ったせいで別の土が入り混じっているのか。その差異に従って掘り進めると、すぐに目的のものは露わになる。
「うっ……」
あれから三日だ。肉体は十分に腐敗が進んでおらず、表面の組織がいくらか禿げたようになって、辛うじてそれが誰なのか認識ができる程度だった。
だが、それでもはっきりと分かる。この死体は勇人だ。間違いない。
「尊くんは、ずっと勇人くんの幻覚を見てたんだよ」
それは人を殺して埋めたという恐怖と罪悪感のあまり、勇人でない者を勇人だと認識していたんだと、由希は説明した。
初め、人を殺した実感が伴わず心が麻痺していたものと思っていたが、そうではなかった。
俺は正しく狂っていたんだ。故に幻覚を見てしまっていた。
だが、それならあの時俺が殺したのは――
「同じクラスの男子二人。どっちも勇人くんより少し背が高かったね」
ああ、と腑に落ちる。
それと同時に深い絶望もやってきて、膝から崩れ落ちた。そうだ、俺は三人も殺したんだ。うち二人は全く無関係で……。
俺はとんでもないことを、とんでもない形で重ねてしまった。
「知らなかった。勇人にそっくりだったんだ。なんとなく、喋っている姿もアイツだと勘違いしてしまって……だから、つい突き飛ばしてしまって……」
由希は黙って俺を見つめていた。
「さ、三人目、ばらばらにしたんだ。のこぎりとハンマーで、胴体と四肢を、何度も、何度も、ああ……」
思い出して、思わず胃の中の物が込み上げてくる。
だが、目の前の勇人を見てそれは収まった。恐怖が勝ってしまったんだ。この期に及んでなお、俺は自分が可愛いのか。
「俺、お前のことも殺そうとしてた。お前まで、俺は……」
「気にしないで。尊くんのことちゃんと支えられなかった私にも責任があるの」
由希は跪いて俺の背中に手を置くと、笑って言った。
「それに、一人も三人も一緒だよ!」
いつもと変わらない笑顔だった。覚悟の色さえ見えない、深淵の闇のような真っ黒な瞳だった。
大丈夫だとか、どれだけ殺しても一緒だとか、そんなはずがないのに。でも、お前が言うととそんな気がしてきた。本当に大丈夫なのかもしれないと。
恐怖と罪悪感に穢された俺と違って、由希の目はただ真っ直ぐな、俺への愛情に満ちている。
その異常さがただ恐ろしく、腹立たしく、そして頼もしかった。
他愛のないように、由希は立ち上がる。心の弱い俺はもはや彼女の狂気に頼るほかない。
「さっさと埋めちゃおっか」
暮れなずむ夕日が山に影を生む。
明かりをつけることさえ後ろめたかった俺たちは、日が沈むよりも先に死体を埋め直した。
山に埋めた親友がデッカくなって帰ってきた。 泡森なつ @awamori
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