第7話

ぶひひのもとに集まりし、使徒プッシー、パウロ、ジョンはわるるの配下が減った事で人助けに専念していた。

東京都は外れの町「ひなたヶ丘」。知る人ぞ知る小さな運送屋がある。

神外魔境ぶひひ宅急便

軽トラ3台、運転手3人、事務員なし。

だが、その実態は―

「使徒、ぶひひ様・巡回布教部隊『プッシーズ』じゃ!」

「その言い方はやめろっつってるでしょ!」

パウロがツッコんだのは、運送屋のユニフォームを着たプッシー。

助手席では、ジョンが荷物を抱えていた。

「……なあ、『特別配送』って』なんだっけ?」

「神像を運ぶんじゃよ」

「ほあ?」

パウロがトラックの荷台を指差す。

そこには、黄金のクレート。書かれた文字は、

《重要:神像のカケラ/取扱注意/絶対振るな》

「なんでこんなもん、わらわ達が運んでんの!?」

「聞くな。依頼主様から回された『お布施特急便』ですよ」

彼らの仕事はただ一つ。この『神像のカケラ』を、北関東にある秘境の村「タマゴヶ原」まで、24時間以内に届けること。


ただし――


「わるるからの妨害があると思われる」

「マジかよ!」

「わるるも地に落ちたね。て、元々地獄じゃ、地に落ちたもなにもないか。でも本当に邪魔すんの? サタンと2人だけじゃん」

「新たな配下の魔人が入ったようじゃ」

「うぜ〜」

静かに語るジョンの背後で、プッシーがハンドルを握りしめた。

「さぁ、エンジン全開じゃ。神像を運ぶぞ!」

一方そのころ、わるるは『魔界アクマゾン配送センター(第666倉庫)』にて、不穏な作戦を進めていた。

「我が名はわるる……かつて魔界を統べし王……」

「でも今は『ブラック倉庫の倉庫長』なんでしょ?」

部下の魔人バイト・サタン(時給1100円)が冷たくツッコむ。

「その呼び方やめてくれんかね!?」

わるるは、コーヒーを飲みながら魔法陣で荷物追跡を開始していた。

「神像のカケラ……それさえ手に入れば、ぶひひなど粉々にできる。だからこそ、やつらのトラックを止めねばならん!」

魔王が放った刺客は、運送界のならず者たち。

「新たに我配下となりし魔人よ! 妨害しにいけ!」

・信号をすべて赤にする魔女『赤信号婆レッドオクトーバー

・交通誘導でドライバーを永遠に迷わせる男「グルグル汁粉汁しるこじる男」

・そして、走るだけで周囲を渋滞させる『究極の軽自動車』その名も【チンタラ号】

「運送屋など、遅れれば価値はゼロ……勝ったな」

わるるは、コーヒーにシナモンを入れすぎてむせた。



「ぬおおお、信号が全然青にならん!」

出発地から10km地点。全信号が3分おきに赤になっていた。

「これは……魔人『赤信号婆レッドオクトーバー』!」

パウロがトラックの上に仁王立ちし、十字を切った。

「おぬしら、運送屋をなめるなよ!」

カチャ――

取り出したのは、ぶひひの秘宝『青信号ステッカー(市販)』!

ジョンが慌てて叫ぶ。

「それ信号機に貼っていいの!? 道交法に触れない!?」

「知らん! 神像を運ぶためじゃ!」

ステッカーを貼った瞬間、信号機が光り輝き、すべて青になった。

「神ぃぃぃぃぃぃいいい!!」

まさかの『ステッカーで信号突破』という奇跡により突破した。

続いては国道17号・迂回地帯。

「おい、地図がグルグルして読めないぞ!」

ジョンがナビを見ると、道案内がすべて回転寿司のように回っていた。

「やつか……グルグル汁粉汁しるこじる……!」

「汁粉汁って何だよ!」

プッシーは車を止め、ハンドルを握り直した。

「この道は……わらわの『運送勘』で切り抜ける!」

「なにそれ、ただの野生のカーナビ!?」

しかし、彼は確かに嗅ぎ分けていた。

『荷物を待つ人の気配』を!

「――右じゃ!」

「いやいや、左の看板に“タマゴヶ原”って書いてある!」

「看板など信じるな! 荷物は、心で運ぶんじゃ!」

…そして彼らは左に曲がった。結果的に。

残り10km。突如、目の前に軽自動車が現れた。

「うぉ……なにあれ……時速8kmで走ってる……」

「農道じゃあるまいし……」

その車体にはでかでかと【チンタラ号】と書かれている。

運転席にはサングラスの老人風魔人が。

「急ぐな若者よ……人生は、ゆっくり……あああああ!! いまカーナビ触ったら間違えて逆走になったぁああ! これでは道を妨害するのに、、、」

【チンタラ号】はあぶなかっしい運転となった。

「パウロ、どうする!? 追い越しはできんぞ!」

「裏道よ!」

プッシーは脇道に入り、ガタガタ道を爆走。ジョンは荷物を抱えて苦労していた。

「神像がッ! 神像のカケラがッ! 割れるうぅぅう!」

「もう……わたしが抱きしめて運ぶよ!」

ジョンが荷台に飛び乗り、神の箱を抱きしめた。

「神像と心中する気かお前は!?」

だが、プッシーは道を切り開いた!

「見ろ、あれがタマゴヶ原村じゃ!」

夕陽の中、最後の坂道を駆け上がる!


ぶおおおおおおおおおん!!


トラックが村の中心に滑り込んだ瞬間、村人たちが拍手で迎えた。


「やっと来た……」

「この神像のカケラがないと、明日の祭りが始まらんのじゃ……!」

プッシーが荷物をそっと渡す。

「……重くなかったかい?」

ジョンが微笑んで言った。

「うん。むしろ、あたたかかったよ。中で……笑ってた」

村長が箱を開ける。


中から現れたのは――


巨大な、しゃべる「たまご焼き神像」。

「ワシが『オムタマ大神』じゃあああああッ!」

村人一同、「うおおおおおおお!」と拝み始める。

パウロがつぶやいた。

「……こんなもん、神として認める宗教、やっぱおかしいよね」

「わらわたちが運ぶものだからな……」


その背後――


魔王わるるが山の上から悔しそうに見下ろしていた。

「……くっ、またしても敗れたか……」

サタンが言う。

「まぁ、大した妨害もできない魔人でしたし、、、魔人というか暇人集めても

、、、」



⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

夜、三人は事務所に戻ってきた。

ちゃぶ台には、インスタント味噌汁とコンビニのおにぎり。

「今日は荷物と神像を運んだな」

「明日は……冷蔵便だったよね」

「うむ。『幸福のバター大福』を冷やしてお届けじゃ!」

冷蔵仕様の車はない。明日は海を超えて行かねばならない。

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熱笑 ぶひひ教 石神井川弟子南 @oikyu

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