オランダウサギの弁当箱

白川津 中々

◾️

新しいお弁当箱を買った。


印刷されたオランダウサギのキャラクターが実に愛らしい。冷凍食品を詰めただけだが美味しさ三割増し。殺伐とした会社での時間が癒され定時までの地獄が緩和される。救いだ。




「おつかれやっしたー!」




そうして十八時丁度。退勤ダッシュによりストレスゲージぎりぎりでハッピー帰宅ができるってわけ。俺以外は残業だけどしるかそんなもん。ケチな時間外労働費稼いでろって。




今日は飲んじゃお。




華金でもないが浮かれ気分。ランチ代の浮いた金で花唄上々。楽しい毎日に喜んでいるその時だった。




「いぃぃぃぃぃぃやっはぁぁぁぁぁぁぁ!」




奇声。即座に衝撃。熱と痛み。何が起こったのか判断できないが苦しい事だけは分かる。




「な、なに……」


「俺はイカれた社会不適合者だぁぉぉぉぁぁむしゃくしゃしたからストレス発散させてもらうぜぇぇぇぇぇぇ!」




イカれた社会不適合者のスタンプ攻撃によりオランダウサギの弁当が粉砕。言葉なく、息が漏れる。



「おっさんがファンシーな弁当箱持ってんじゃねーよバーカあばよ!」




去っていくイカれた社会不適合者。俺は砕かれた弁当箱を見て咽び泣いた。おっさんは可愛いものもっちゃいかんのか、ファンシーに浸っちゃいかんのか。悔しさと絶望で胸が苦しい。



「チクショウ……チクショウ!」



慟哭。虚しく響き寂寞。弁当箱を回収し、帰宅。暗い部屋には誰もいない。一緒にいたオランダウサギも先程死んだ。孤独な中年の寂しい夜。殴られた箇所よりも心がしくしくと痛んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

オランダウサギの弁当箱 白川津 中々 @taka1212384

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ