第2話 『ランダム設定』ガチャは成功?失敗?

「はぁ~、結局昨日はログインしないで寝ちゃったなぁ……」


 アバター作成をした昨日から日を跨いで時刻はAM9:00。VR機器を装着してベッドに横になる。電源を入れてIDとパスワードを入力してギアクロの世界にログインする。


『鈴木様、ようこそギア・クロニクル・ファンタジアへ。』


 昨日聞いた女性の声が聞こえ、自身が作成したアバターが現れる。そしてそこには『ランダム設定』によって作成されたステータスが表示されている。


―――――――――――――――――――――――


 Name :ベルウッド

 Level:1

 Rank :F

 種族 :闇精人種ダークエルフ

 役職 :魔物使い



 【ステータス】


  HP :42

  MP :57


  ATK:6

  DEF:6

  INT:25

  MGR:17

  AGL:7

  LUK:20



 【パッシブスキル】


  ・確率上昇 Lv.Ⅰ

  ・LUK上昇 Lv.Ⅰ



 【スキル】


  ・眷属術 Lv.Ⅰ

  ・闇属性魔術 Lv.Ⅰ

  ・躁術 Lv.Ⅰ


―――――――――――――――――――――――


「おいおいおい!なんだよこれ!」


 自身のステータスの内容を見た時、翔はついといった感じで叫んでしまう。それもそのはず、ステータスに表示された内容はとんでもないことになっていた。


 まず種族の闇精人種ダークエルフは、ギアクロの世界観設定としてに割り振られている種族であり、でもある。この時点で『ランダム設定』の出鱈目さが現れている。ダークエルフの設定はギアクロのホームページにある種族一覧に掲載されており、そこには


闇精人種ダークエルフは世界樹に見放された精人種エルフの末路であり、見放された地である『死の森デスフォレスト』に生息している。種族的に闇属性に傾倒しており、精人種エルフを忌み嫌っている。』


 と、記載されている。


 次に役職の『魔物使い』についてだが、これはギアクロの世界において”最弱”と呼ばれる不遇職にあたるものだった。その名の通り、魔物を使役して戦う職なのだが、肝心の魔物を使役するための戦闘に必要な戦闘スキルが少なく強い魔物を使役するための条件も曖昧なため選ぶ人はほとんどおらず、経験値稼ぎの手も少ないために最弱職と呼ばれてしまっていた。ホームページにも掲示板サイトにも最低限の情報しか載っていないため今後の発展もあまり期待されていなかった。


「こんなんリセット一択だろ~……って、え?」


 視線を下に向け、スキル欄を見ると驚愕の内容が書かれていた。


「【パッシブスキル】が2つに【スキル】が3つ?!しかも見たことないスキルもある……これはもしかして大当たりなのか?」


 【パッシブスキル】は所持しているだけで効果を発揮するスキルなのだがそれが2つもある。1つは『成功確率上昇』というもので、確率で成功判定が発生するものに対してその確率を上昇させるものだ。持っていて損のないスキルだが、初期スキルとして手に入れることができないものだった。そして派生前のスキルこそがもう1つの『LUK上昇』だ。こちらは初期スキルとして手に入るもので、その名の通りステータス値のLUKを上昇させるものだ。


 そして本命の【スキル】には気になるものが2つもある。


 まずは種族スキルツリーから取得できる初期スキルの『闇魔術』は闇精人種ダークエルフが傾倒している闇属性を扱う魔術となっており、主にデバフを取り扱う魔術形態になっている。


 そして本命のうちの1つである『眷属術』のスキル。掲示板にも載っていなかったスキルでありにあたるスキルであった。初期スキルから派生したスキルのことを”第1派生”、そこからさらに派生したことで”第2派生”と呼ばれるスキルになる。およそゲーム開始初期に得られるスキルではなく、現在のプレイヤーの中でも最前線を走る”攻略組”と呼ばれる者達が半年の歳月をかけてようやく手に入れられたという情報が掲示板に載っていた。そんなものがまさか初期スキルで手に入るとは思っておらず、翔は職業スキルツリーを見て驚愕していた。初期スキルである『魔物使役術』、そこからの第1派生スキルである『召喚術』、そこからさらに第2派生スキルとして現れる『眷属術』が、今回手に入ったスキルだった。


 さらにもう1つのスキルである『躁術』。これに関してはかなり特殊な状態となっており、通常スキルツリーでは初期スキルから順々に派生していき強い上位スキルに繋がっていくが、極稀にその理から外れるスキルがある。それは存在自体は初期スキルであるものの、条件を達成しなければ取得ができない””なるものが存在しているのだ。現在公表されている特殊条件スキルはたったの3つしかなく、もちろん公表されていない個人の秘密や奥の手として隠されているものもあるだろうが、少なくともそういったものがあることはプレイヤー達にも暗黙の了解のような形で知れ渡っていた。そんな代物がまさか『ランダム設定』で手に入るとは思ってもみなかった翔は、穴が開くほどステータス画面を見つめていた。


「こ…れは、とんでもないな。魔物使いだってことを差し引いてもあまりあるお釣りが手に入るな。」


 思いもよらぬぼた餅に身体を震わし興奮した面持ちで画面下部の《確定》ボタンを押す。すると、


『一度初期ステータス確定されると二度と変更はできません。よろしいですか? 《はい/いいえ》 』


 という画面が現れる。翔は悩むことなく《はい》を選択する。すると一瞬の光のあと、翔は暗闇に立っていた。アバターでありながら生身と変わらない五感が働いているのを感じ、自分が何処にいるのかが段々と分かってきた。


「ここは…洞窟?なんだってこんな場所に出たんだ……?」


 初期リスポーン地点として設定されるのはギアクロの世界に存在する4大国のうち選択した国家の領土内にて適当な街にスポーンする。最低でも村にスポーンするはずなのだが……


「いや、そう見ても街とか村には見えないし……?」


 翔が居る場所は間違いなく洞窟だ。ごつごつとした岩肌の壁や天井に、湿り気のある石混じりの土の地面、そして草の匂いを孕んだ微かな風が向かい側から吹いてくる。到底ゲーム内での体験とは思えないあまりにもリアルな体感に翔はえもいわれぬ興奮を覚えた。だがすぐに興奮は冷め、自身に起きたことを確認するためにメニュー欄からマップを選択し現在地を確認する。マップに表示されたのは少しの土色とマップいっぱいに広がる緑だった。そして現在地のピンの上にはこの洞窟のある座標と、名前が表示されている。


「『死の森デスフォレスト』って確か……そうだ!ダークエルフの説明文に書いてあった所か!」


 翔は予備知識としてギアクロのホームページにも1通り目を通しており、その中にある闇精人種ダークエルフの紹介ページに『死の森デスフォレスト』の記載があったことを思い出した。ギアクロのホームページにゲームの情報が書かれるためには一定数のプレイヤーがその存在を認知するか、掲示板のような情報サイトにてプレイヤー自らが公表したことによって開示されていく。実績解除に近いものだと考えられるだろう。


「でもホームページには死の森デスフォレストに関しての記述は無かったような……ダークエルフは載ってたんだから死の森に関して載っててもおかしくないと思うんだけどなぁ……」


 死の森デスフォレスト内に生息している闇精人種ダークエルフ。順序で言えば死の森デスフォレストを発見してから闇精人種ダークエルフを見つける筈なのだが、ホームページには闇精人種ダークエルフのみが記載されている。それはつまり闇精人種ダークエルフだけが見つかっていて死の森デスフォレストのことは見つけていないか、場所のことは公表せず闇精人種ダークエルフだけをプレイヤーが公表した可能性があるということだ。


「いずれにしても周りに街があるとか村があるとかじゃ無さそうだな……」


 翔はマップを閉じ、自身のステータス画面を表示する。何はともあれ自分が何をできるのかを考えるため詳しいスキルの内容を確認することから始める。


「とりあえずスキルを……」


 翔は自身のステータス画面からスキルを選択し、詳細表示した。


『眷属術 Lv.Ⅰ』

・魔物を確率によって従えることができる。(0~30%)

・【眷属化】(Lv.Ⅰ)

 相手の了承を得ることができれば対象を『眷属』とすることができる。

・【眷属成長】

 『眷属』となった相手の成長を選択することができる。


『闇属性魔術 Lv.Ⅰ』

・闇属性の魔術を使用できる。

・【盲目付与ブラインドネス】(lv.Ⅰ)

 指定対象に確率で盲目のデバフを付与する。

・【闇玉ダークボール】(Lv.Ⅰ)

 拳大の大きさの闇属性魔力玉を発射する。威力はINT依存。


『躁術 Lv.Ⅰ』

・無属性に当たる魔術系スキル。

・触れた物体を自在に操ることができる。

・【物体操作】(Lv.Ⅰ)

 無機物に魔力を注ぎ込み自在に操る。

・【浮遊】(Lv.Ⅰ)

 自身を空中に浮かび上がらせる。


「うぉおお!?めちゃめちゃ強いな!てか【浮遊】?!空飛べるの俺?!」


 スキルの内容を確認した翔はその内容に浮足立つ。翔はそもそもゲーム自体の経験はかなり多く、フルダイブ型が初というだけで自由度の高いファンタジーゲームは経験が多い。そのためスキルの内容を見た際にある程度使い方を想像できるのだ。


「これなら物騒な名前のこの森も何とかなるかもな……ククッ」


 にやりと笑みを浮かべる翔。その姿は闇精人種ダークエルフの特徴である暗褐色の肌にも相まって完全に悪者のようだった。

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不遇と言われた『魔物使い』で真のラスボスになります 阿吽 @aunnkunn

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