不遇と言われた『魔物使い』で真のラスボスになります

阿吽

第1話 ログイン!からの運試し!

 『ギア・クロニクル・ファンタジア』


日本国内で開発され、発売当初から全世界で人気爆発となったフルダイブ型VRMMOファンタジーゲームである。フルダイブ型ということで、自身にそっくりのアバターを操作し、ゲーム内の世界を楽しむことができる。また、舞台はファンタジー世界となっているため、現実世界では味わえないさまざまな体験が待ち受けている。


そんな世界へ今日、また新たに旅立つ者が1人。


「これが“ギアクロ”!」


鈴木 翔すずき かけるは、身につけた機械に興奮していた。バイトを続け、ようやく手に入れることができた『ギア・クロニクル・ファンタジア』、略して“ギアクロ”の世界を楽しむ準備が整い、今まさに起動するところだった。


「えっと、確か……『起動アクティベート』!」


説明書に書いてあった起動式を唱えると、目の前の真っ暗な空間が徐々に白く光り始め、翔の意識はVRの中へと落ちていく。


『ようこそ、鈴木様。この度はギア・クロニクル・ファンタジアの世界への切符を手に取っていただき、誠にありがとうございます。』


翔の前に半透明の板が現れ、女性の声で板に書かれた文章が聴き取りやすく話される。VR機器に登録した名前で呼ばれ、ギアクロをプレイするにあたっての注意事項や同意確認などが行われる。そして、壮大なファンファーレと共に『ギア・クロニクル・ファンタジア』のタイトルが大きく表示され、翔の前に文章の書かれた板とは別の板が表示された。


『これより、鈴木様のギア・クロニクル・ファンタジアにおけるアバター作成を行っていただきます。アバター名、種族、役職、ステータス値、初期スキル、スタート地点をお決めになられましたら、《確認》のボタンに触れてください。』


翔の前に現れた一際大きな板には、今現在の翔の全身を映したものと、数値が羅列されたステータス欄があった。


「すっげぇ……マジで俺そっくりだ。ここからいろいろ決めていってギアクロの世界で冒険できるのか……」


実は翔がギアクロを始めるのは、ギアクロが発売されてから約半年が経過した頃だった。バイト代を貯めて買おうとしていたが予想よりも時間がかかってしまい、この遅れができてしまったということだった。だが悪いことばかりではなく、ギアクロをすでに始めていたプレイヤーたちからの情報共有などを目的とした掲示板サイトがすでにネット上には立ち上がっており、バイトに励んでいた頃から翔はサイトを読み漁りながらお金を頑張って貯めていた。


「そんで、これがあの噂の『』か……」


翔がサイトを見ていた時に得た情報の中で、「アバター作成時における“割り振りポイント”の裏技」というものがあった。ギアクロで新たにアバターを作成する際には、全員一律でステータス値の上昇や初期スキル獲得のための50ポイントが与えられる。だが、50ポイントを割り振っているとどうしてもスキル取得とステータス値の上昇で天秤にはかることとなってしまい、思うように割り振ることができないことが多いとサイトに寄せられていた。


だが、そんな中である意味“裏技”とでも呼べるものが発見されていた。それは、とあるゲーム実況配信者による投稿によって発見された。


『ランダム設定』


板の中にある「ポイント残量」と書かれた部分の下にある『ランダム設定』と書かれたボタンに触れると、本来自身で決めるべき項目がすべてされてしまうというものだ。


一見得のない機能に見えるが、発見したゲーム実況配信者のゲーム開始ステータスは最終的に50していたのだ。


初期ステータス値は種族によって差異があり、役職によって得られるスキルにも違いがある。最初のポイント割り振りでは、自身の選んだ種族、役職に合ったステータスとスキルを手に入れなければならない。


だが『ランダム設定』では、自身で選択すべき種族も役職もランダムに決められてしまい、その後のステータス振りやスキル取得も種族、役職の範囲内でランダムに決まってしまう。ただその代わりに、初期ポイントの50ポイントを超えたステータスを手に入れることができるというものだった。


「これの本当にすごいところはステータス値じゃなくて、ってとこなんだよな。」


ゲーム実況者が投稿した動画で発見されたこの裏技だが、真の魅力は初期値を超えたステータスの取得ではなく、で手に入るスキルというところだ。


ギアクロにおける【スキル】は、取得した経験値をスキルに注ぎ込みレベルを上げていく仕様となっており、スキルによってレベル上限が設けられている。また【スキル】には、種族スキルツリー・役職スキルツリー・汎用スキルツリーの三種類があり、経験値を消費してスキルを取得することができる。ツリー形態となっている以上、最初に手に入れられる初期スキル群から枝分かれ状にスキルが派生している。また、その特性上、より強いスキルを手に入れるためには、その前提となるスキルやステータス値、条件が設定されておりリリースから半年がたった今でも判明しているスキルは全体の10%にも満たないのではないかと言われている。


だが、それを覆すのが『ランダム設定』なのだ。件の投稿された動画には、『ランダム設定』で決定したステータスが映されていた。


これがそのステータスだが、


―――――――――――――――――――――――


 Name :ふぁるなー

 Level:1

 Rank :F

 種族 :人種ヒト

 役職 :魔術師


【ステータス】


  ATK:4

  DEF:6

  INT:37

  MGR:20

  AGL:8

  LUK:6


【パッシブスキル】


  ・INT上昇 Lv.Ⅰ


【スキル】


  ・風魔術 Lv.Ⅰ

  ・火炎魔術 Lv.Ⅰ


―――――――――――――――――――――――


種族や役職、ステータスには問題はないが、ただ一点【スキル】欄においてありえないスキルが存在していた。最初のアバター作成において取得できるのは、どのスキルツリーにおいても初期スキルのみが選択できる決まりとなっている。例えばこのステータスの役職である『魔術師』に合わせて言えば、取得できるのは初期の魔術系統スキルと、それに付随するパッシブスキルのみだ。『魔術師』はINTとMGRに高い補正を持ち、逆にATKとDEFは成長しにくいといったステータス値特徴をもっており、初期スキルとして火、水、風、岩の四種類の魔術スキルが取得可能となっている。が、投稿者のスキル欄にあるのは『風魔術』と『』だ。そう、『魔術』。『火魔術』スキルの上位互換として位置するスキルが取得されていたのだ。


 これこそが『ランダム設定』が多くのギアクロプレイヤーに広まった理由だった。初期の時点で派生スキルを手に入れているというのは途轍もない強みとなり、レベル上げや今後必要となる経験値量に明確に差が生まれる、投稿者であるふぁるなー氏もこの強みを生かし今ではプレイヤーランキングに入るほどに強くなっていた。


 これからギアクロを始めるというところでこの動画を見た翔は、天啓を得た!といわんばかりに同じことをしようとしていた。


「うなれ俺のリアルラック!!!」


 勢いよく『ランダム設定』のボタンを押す翔。ピコンという軽快な音が鳴ったのと同時に翔のステータスが更新されていく。そんなとき、視界の右上隅に電話のアイコンが表示された。


「はーい翔です。ん?母さん……ってやば!もうこんな時間なのか!ごめん!今行くからちょっと待って!」


 電話をかけてきたのは翔の母親で、もともと約束をしていた用事の時間が迫っていることを告げるために電話をかけてくれてたのだった。


 翔は急ぎログアウトをして、部屋着から外出用の服に着替える。部屋の電気を消して急いで部屋から出ていく。そんなときにふと最後に見たギアクロでの自分のステータスを思い出す。


「役職が……『魔物使い』だった、よな?」

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