押し入れの中のエルゴパスク。
葱猫舞々
押し入れの中のエルゴパスク。
7畳の和室。元々は俺の子供部屋として使われていた部屋だ。
部屋に入ると右側に窓があり、その反対に……落書きやシールで汚れた押し入れの戸。これが不思議な世界、エルゴパスクへの入り口。
押し入れの先に広がる不思議な世界はまるでピーター・パンのネバーランドの様に未知や愉快に
幼馴染み4人を誘ってこの世界に入り浸っていた。
そして俺たちがエルゴパスクを探検してすぐの事だ。鮮明な赤色の髪の毛をした同じ位の歳の女の子と出会った。髪と同じ色をした鮮明な赤い大きな目を物珍しさにじっと彼女を見ていた覚えがある。それがエルゴパスクの住人、ミヤビだった。
俺たちはすぐに仲良くなった。ミヤビの紹介で他の住人とも仲良くなり親睦を深めていって川で泳いだり海でバーベキューしたり森で虫取りしたり。洞窟を見つけて冒険したりと多くのことを経験した。
それにいつも会うたびに何かしらミヤビにちょっかいをかけ、顔を合わせるたびにケンカばかりしていた気がする。気恥ずかしいけど好意の裏返しだったんだろうと思う。好きな子にちょっかいかける奴。相手にしてほしかったんだ。
でもその感情を理解する前に別れの時が来てしまった……
「
別れは唐突に訪れた。俺たちはずっとこのエルゴパスクが秘密基地で、遊び場で……ミヤビと当たり前の様に会って他の住人たちと一緒に泳いだり冒険したりバカ話して一緒にいれるものと思ってた。
「
あの時の光景は目に焼き付いていた。押し入れはいつもの物置になっていて。
ミヤビと最後に会ったときもいつものようにケンカ別れしたが帰る間際、あいつ言ったんだ……『またね』って。
***
「またねって言葉だけでここまで来るなんて……なんてロマンティックなんでしょう!」
「そのロマンティックな妄想に付き合わされる身にもなれ」
「と言いつつ一番協力惜しまなかったの秋也じゃない?照れなくてもいいんだぞぉ?」
「……んんぅ、ま、まぁあれだ。僕もこの理論を解明したくてだなっ!」
「でも……ようやく、ようやくここまで来たんだね」
俺たちの前にはあの押し入れがあり、俺たちは大きくなりこの部屋も皆入ると大分狭く感じる。
エルゴパスク……不思議な世界と言い当て妙で、実際は
そしてそれを繋ぐ装置は完成し、起動している。
しかし、繋いだ先は本当にエルゴパスクなのか、時間流れがどうなっているかそういった不安がよぎってしまうがここまで来た。後は押し入れを開くまで結果は分からない。
だがその前に、今まで俺に付き合ってくれた仲間に礼を伝えたい。
「正直、俺のクッソみたいな妄想の為に金を出してくれた
「いいのよ!いいのよ!代わりに私たち名義の特許として頂いたのだから投資した分はすぐ回収できると踏んでるし。……私だって彼女と会いたいわ」
そう言ってブロンドの髪をかき上げる。さすが会長の孫娘。金関係には感謝し尽くせない。
「
「なんだいきなり気持ち悪いな……まぁ一つの区切りだ、付き合ってやる。あれはあくまで君の姿が癪に障っただけだ。君ができないのであれば僕がやったまで。……だが、君が居たからこそ僕も張り合いを持ったままここまでこれた。そこは感謝する」
ほんとうにお前は最高のツンデレだ。
「
「ちょっ!!!ちょっと待って!!なんであたしだけいきなり振られる流れになるわけっ!?なんか恨みあるの!?」
「まぁまぁ、1番こじれてたのは葉月ちゃんだったじゃない」
「だってあんなにケンカしてた癖にいざ居なくなったらあんな落ち込んでさ。ムカつくでしょ」
「っだそうだ。鈍感色男」
「……んんぅ、ま、まぁそうだな、俺に最初のエンジンをかけてくれたのが葉月で、そのおかげで今日があるって事で……」
「ふぅん、まだあきらめてないんだけど?第2ラウンド始める気あるけど?」
「これ以上勘弁してくれ」
あの時言われた『またねの約束を破る気、このゴミ虫!』って言葉、マジで刺さった。だからこそ熱意と執念が生まれて今があるわけなんだから。マジでイイ女なんだがなぁ……俺にはもったいない位に。……ゴミ虫は余計だったろって今でも思ってる。
「あ、あの。もしかして自分忘れられてる?」
そう言って会話に入ってくる
「そんなわけないだろ。お前が機械を覚えてくれたおかげでこの装置が完成できたし。それに完璧に動いてくれてる。良い仕事をした証拠だろ?」
「そうだぞ。俺たちが理論を、設計と構築を君が行ってくれたおかげだ。」
「う、うん、本当に役に立てて良かったよ」
「あぁ、お前は最高のエンジニアで俺たちの最高の仲間だ」
そう言うと
「み”んな……み”んなぞろっでよがったぁ……」
そうだな。あのときを境に皆散り散りになって、またエルゴパスクをきっかけに集まった。
「もぉ~、
「あ、ありがと”」
なんか雰囲気が完全にぶちこわれてしまったが、まぁそれも俺たちらしい
「よし、そろそろ行くか」
俺は押し入れの取っ手に手をかける。
「そだねっ!」
「だな」
「えぇ」
「うんっ!」
――そして、俺たちはまたあの世界を求め、押し入れを開けた。
***
今日も今日とて私は大忙しだ。
どこぞの科学者コンビや財閥令嬢、スーパーエンジニアと違い私は普通に働いているOLなのだ。
「
「はーい」
「
「はーい」
「
「佐々木課長、奥さん居ませんでしたっけ?お疲れ様でーす」
いろんな雑務が降り注ぎ高速に処理しないと間に合わない。
うちの会社、なんでこんなに多いんだろ~?ブラック企業かなぁ~?
色々と業務が波のようにやってきて、それらをこなしようやく休憩を取ることができたのは16時を回っての事だ。
あと1時間で定時。もうこれは帰ってもいいのではないだろうか?
スマホを見るとメッセージアプリで
『今日会える?』
まぁ、定時で上がる理由ができるからそれはそれでいい。
・・・
休憩終了した瞬間にお先に失礼。我ながら神風のような素晴らしい段取りだった。
私に気づいた琴音は私に向かって手を振る。
端から見て優雅なお嬢様って感じがする。
カウンターでブラックなアメリカーノを注文して彼女の向かいの席に座る。
「おまたせ」
「うぅん、私もさっき来たところだから」
相変わらず笑顔を崩さないところがすごい。
「それで、なにかあったの?」
「
あぁ、あっちにか。
「そうだねぇ、最近滅茶苦茶忙しかったりするのよねぇ~」
「えぇ!?そうなんだ!あの会社うちの末端企業のハズだけど……
笑顔の中に黒いオーラをまといつつなにやら物騒な事をつぶやきつつスマホを操作する姿にうちの会社の危機を感じた。
「えっちょっと待って、嘘、嘘だから、自分で進んで仕事をとりに行って忙しいアピールしてました!」
「そうなの?」
「いやだってさ、あのアツアツの新婚どもを見ているとなんかこう自分が惨めになった気が……」
「第2ラウンド……圧倒的に負けちゃったもんね」
「やめて!思い出させないでっ!」
小さい頃はケンカばっかやって最後までそれで締めたはずの2人が久しぶりに再会したらなんかこう『約束を果たしに来た……』とか『会いに来てくれたとか』でちょっとロミジュリ感じちゃって燃え上がって素直になっちゃって会うたびに固有結界「
「ふふっ、やっぱり
「人をお笑い枠みたいにしないでよね……」
「そんなことないよぉ~。それに、ほら」
そう言って琴音が1枚の写真を取り出す。スマホでの写真ではなく普通の写真ってのは珍しい。
そこに映っているのは綺麗になったミヤビと
ただ……バックが酷い……一升瓶がいくつも転がっている所で飲んでる
「この写真、実はお蔵入りなんだって」
「ま、まぁ分かるかも……」
「だってこの写真に、
「……」
予想外の言葉に返事を忘れてしまった。
「
「まぁそこまで言われたら仕方がないなぁ、ちょくちょく顔見せてやるかぁっ!」
「うんうん、それでこそ
はぁ、あいつらもう大人のくせしてあたしが居ないと羽目外しまくるからストッパーとしてやっぱりあたしが居なきゃダメね。
「それじゃ、今から行く?」
「さすが
さて、またしばらくまたあの押し入れにお世話になりますかね。
押し入れの中のエルゴパスク。 葱猫舞々 @y-chan001
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