第9話 クライブ様

「人間になっただと?アーロンはどうした!?」


「……百年ほど前、処刑されたと聞いています」


「は?」


ぶわっと魔力があふれでたのを感じる。

慌てて結界を張ったけれど、何この威圧感。

こんなの普通の人間に耐えられるわけない!

処刑されたこと、言わなきゃよかった……。


「クライブ様!何してんですか!?」


また大きな音がしてドアから飛び込んできたのはラディだった。


「うるさい、ラディ!それどころではない!」


「いや、ここ本宮じゃないんですよ!

 使用人たちが使い物にならなくなるでしょう!?

 またハンスに叱られますよ!」


「……わかった」


わかったといいながら、落ち着くまで時間が必要だったようだ。

何度も目を閉じて落ち着かせようとしているのがわかる。


少ししてから、あの威圧感が消えた。

ほっとして結界を解く。


「リディ、大丈夫か?」


「うん、びっくりしたけど、大丈夫よ」


「そうか……驚いたよな。このクライブ様が竜王様だ」


「え?」


え?この竜人が竜王様?

会う予定ではあったけれど、

一人で会いに来るなんて思うわけない。

驚いていたら、竜王様はラディへと話しかける。


「ラディ、この娘はアーロンの子孫だそうだ」


「は?え?……ホントですか?」


「やはり知らないで連れてきたのか」


「そんなの知らないですよ。

 この魔力の多さは竜族かもしれないとは思ってましたけど。

 まさか……リディがアーロン様の子孫だとは」


竜族……あぁ、そうか。竜人の子孫ってことは竜族なんだ。


「リディと言ったか、さっきは急に悪かった」


「いえ、かまいません。私の発言が原因でしょうから」


きっとアーロンが処刑されたって言ったからだ。

こんなに竜王様を動揺させるとは思ってなかった。


「アーロンは私の弟だ」


「え?」


竜王様の弟!?言われてみれば、同じ銀髪に紫目。

顔立ちはクレアに似ている気もする。


さっきアーロンが竜人をやめたことを驚いていたけど、

家族にも言わないで人間になったってことなんだ。


どうしよう。よけいなことを言ってしまった。

番のせいだと責められたらどうしよう。

身構えていたけれど、竜王様が考えていたのはまったく違った。


「ルディ、リディは私の養女にする」


「ええ?」「え?」


「クライヴ様、養女ってリディは竜人じゃないですよ?」


「いや、数年のうちに竜化するはずだ。

 でなければ、これほどの魔力はないし、

 俺の本気の竜気を浴びた状態で魔術なんて使えるわけがない」


「クライヴ様の竜気の中で結界を張ったのですか……。

 リディ、自分が竜族だってわかっていたか?」


確認するようにラディに聞かれて、首を横に振る。


「私がアーロンという竜人の子孫だというのは知ってたけど、

 それが竜族だってこと思いつかなかったの」


「そっか……アーロン様の子孫って本当なんだな」


「うん、それは間違いないよ。

 アーロンの二番目の娘の子孫なの。

 でも、竜化するって……私も竜になるの?」


「クライヴ様がそういうのなら、そうだと思う。

 竜人の養子は竜人だけって決まっているんだ。

 だから無理だと思ったんだけど、

 リディが竜化するというのなら俺は反対しない。

 竜王国にいるのなら、クライヴ様の保護下にいるのが一番安全だから」


「そうなんだ……」


まだこの国をよく知らないけど、

辺境の国から来た私にとって安全ではないのかもしれない。

でも、竜王様の養女って……いいのかな。

血縁者だから保護してくれるってことなんだろうけど。


もう何が何だかわからない。

アーロンが竜王様の弟だったり、私が竜になるとか言われても。

どれから考えていいのかわからないほど混乱している。


「ですが、クライヴ様。

 竜化する前に養女にするのは無理だと思いますし、

 公表するのも止めた方がいいと思います」


「どうしてだ?」


「まだリディは竜族でしかありません。

 竜化する前に襲われたら危険です。

 クライヴ様の養女になると公表すれば、狙うやつが出てくるでしょう。

 竜化した後で養女にすると公表すれば問題ありません」


「そうか。だが、竜化する前は誰が守るのだ。

 お前はまた他国を回るのだろう?」


「俺も竜王国にいる間は守りますけど、

 ルークをつけるのはどうですか?」


ルークというのも竜人なのかな。

私を守るための話し合いだというのはわかるので、口は挟まない。

もう、悩むのは後でクレアに相談してからにしよう。


「ルークか。わかった。詳しい話は後日にしよう。

 リディは本宮に部屋を用意するように。

 なるべく、俺の近くにしろ」


「わかりました。では、執務室に戻ってください。

 ハンスが怒ってましたよ」


「……わかった。リディ、先ほどの話は、また聞かせてほしい。

 冷静に聞けるようになったら」


「ええ、わかりました」


まだアーロンが亡くなったことを受け止めきれていないのか、

竜王様は眉間にしわを寄せたまま部屋から出て行った。


後に残ったラディは大きく息を吐いてソファに座る。


「だー。焦ったわー。

 執務室でリディのこと説明してたら飛んで行ってしまったんだ。

 直接会った方が早いって言ってさぁ。

 追いつくのに時間かかって、遅くなって悪かったよ」


「うん、私も焦った。急に部屋に入ってくるから。

 まさか竜王様だとは思ってなかったし」


「だよなぁ。でも、そうか。

 リディはアーロン様の子孫なのか。

 知られたら大変な騒ぎになりそうだなぁ……。

 名前、リディにしてよかったのか?」


「うん、名前は気に入ってるから、

 このままリディでいこうと思ってる」


「わかった。

 じゃあ、クライヴ様の許可が出たし部屋に案内しよう」


「うん、ありがとう」




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残念ですが、生贄になりたくないので逃げますね? gacchi @gacchi_two

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