あのねわたしね

心沢 みうら

🤍

 物心ついたときから、あたしの隣には肉塊ちゃんがいたように思います。

 少し紫や青が混じったピンク色で、グロテスクで、吐きそうになるほどかわいいです。多分ブルベ冬だと思う。チワワと同じぐらいの大きさで、あたしにはまだ抱っこができません。


 肉塊ちゃんは暖かいです。少しねちゃねちゃしていて、床を動き回ったらお掃除が大変。


 肉塊ちゃんには目が一つだけあります。耳と口はあたしのとは全然違って、ただの小さな穴です、それに耳は一個しかないです。

 肉塊ちゃんは喋らないしあたしが話しかけても反応しないので、もしかしたら聞こえていないのかもしれないとそう思っていた。


 でも違うことが最近わかりました、肉塊ちゃんはちっちゃな声で時々喋るんです。あたしみたいに。

 初めて聞いた時、肉塊ちゃんは

「あのね」

 と言っていたので、それ以来あたしは肉塊ちゃんをあのねちゃんと呼ぶようになりました。


 そのひ、あのねちゃんは全く動きませんでした。死んだのかなって思ってつつくと、ねばっとした液が出てきたので生きているとわかりました。

「ねえ、あのねちゃん」

「……」

「どうしたの、あのねちゃん」


 あのねちゃんは、いっつもみたいに小さな声でこう言いました。


「あのねわたしね、あなたのおかあさん」


 ああ、だめだ。だめだだめだだめだ。

 あたしはあのねちゃんを引きずって、ベランダに連れて行きました。あたしの住む部屋はマンションの七階にあります。


 あのねちゃんは、をしました。


「あのね、わたしはあなたのね」

「そっか」


 人はときに、信じられないほど強い力を出せると漫画で読んだことがある。あたしはあのねちゃんを抱っこして、それから頭上へ持ち上げました。


「わるいこ」


 あたしがあのねちゃんを投げ落とすと、地面に赤と黄色の汁が飛びました。

 

🤍


「ねえあのねちゃん」

 あのねちゃんは潰れていました。

「ねえってば」

 あのねちゃんは喋らなかったです。

「拗ねてるの?」

 ねばりとした汁があたりに広がっていて、異臭を放っていました。

「ねえもう帰るよ」

 あたしは凍えていて、おなかも空いていました。


 あたしはあのねちゃんを引きずって、おうちに帰った。あのねちゃんはあれから喋りません。信用をなくしちゃったのかもしれないです。


「ねえあのねちゃん、また話してね」

 そっとぐちゃぐちゃになった肉塊を撫でると、少しだけ声が聞こえたような気がしました。


 あたしは自然と微笑んでいました。


「あのねちゃん、あのねあたしね、あなたをお世話するあたしが大好き」


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あのねわたしね 心沢 みうら @01_MIURA

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