俺達の、三時間の格闘

不定形

三十分間の戦い 〜邂逅、看破〜

登場人物紹介


下田克樹しもだ かつき

このお話は、コイツの視点で進みます。

山峰秋やまみね あき

このお話の舞台となる部屋の主。


この二人は、幼稚園、小学校、中学と一緒であり、高校は別である。


和泉蓮わいずみ はす

ゲーム機を持って来て、いち早くソレの存在に気付いた男。


中学で上二人と知り合い仲良くなった。小学以下は違う所に通っていた。高校は別。



 それでは、お楽しみください

————————————————————————————


 高校2年の夏。進路の事で悩んだり、彼女作ってデートしたり、文化祭のことで奔走したり………とにかく、忙しいはずの時期。


「おら!不確定コンボ!」

「不確定自分から言ってどうすんだよ」

「フェアプレイだよ馬鹿野郎!」


 俺たち三人は、パーティ格闘ゲームをしていた。(山峰は開始早々自爆した)


「おら、しっ!?」

「油断したなアホゥめ!」

「なにぃぃぃぃい!?」


「やかましい奴らやな」


 トドメの一撃を放つも、パリィを使われ、一気に即死コンボを決められた。


「なん…だと…」

「とあるキャラはこう言った…『相手が勝ち誇った時、そいつはすでに敗北している』と…」

「くそぉぉぉおお!」


 膝をつき、手をつき悔しみの絶叫をする。

 慢心確信が、結果に敗北として現れた…ということか…


「んじゃ次何するー?」

「「何しよかー」」


 かれこれ二時間ほどしていたため、飽きやすい俺らは次のゲームを探し始める。


「良いの無いしトランプでもするか?」


 俺が鞄からカードセット(トランプ四種入り)を出しながら、二人の方を見ながら尋ねる。

 すると、まるで命に迫る謎解きをしている探偵が、何か重要なものを掴みかけているかのような表情で和泉が固まっていた。


「?おい、どうした?」


 尋ねると、和泉は眠れる獅子の前に居るかのように、慎重に口を動かした。


「………この部屋、羽虫いね………?」

「なんだって…?!」


 その言葉に、この部屋の主である山峰が目を見開き、驚愕で表情を造った。


 そして、誰が言わずとも、息を殺し、動きを止める。

 すると、微かに、確実に、その"音"が鳴り響いた。


『プ〜〜………ン』


「居るじゃねえか…!確実に…!」

「嘘だろ…?いつ、入ってきたんだ…?」

「お、お前ら落ち着け!先ずは、正体を見破ろうじゃないか!」


 た、確かにそうだ…今は夏、そしてあの音は、最悪『蚊』の可能性もある!


「お前ら!痒い所はあるか!」

「俺はない!」

「俺もだ!和泉、お前は?」

「俺も無い」


 もし、あの"音"の主が長時間居たならば、『蚊』の可能性は限りなくゼロ…いや、ないと言って良いだろう。だが…


「お前ら、楽観視はやめろよ?常に最悪の想定をして動け…!」


「ああ、わかってるぜ下田!」

「とりあえず、向かい合って座るぞ」


 互いが互いの背後を警戒し、見落として血を吸われてもすぐさま気付けるように…そう山峰が語った。


「よし、先ずは状況を整理しよう」


 "音"の主について、現状わかっていることの確認から行う。


1.アイツの正体は羽虫で間違いがない

2.『蚊』の可能性があるが、誰も刺されていない為可能性として低い

3.可能性は低いが、侵入時刻が明確になっていないため否定はできない


「このくらいか?」

「くそっ…現在わかってる情報が少なすぎるっ!!」

「仕方ねぇ、ついさっき気付いたばかりなんだからな…」


 ここから、俺たちにできるのは、『蚊』なのかどうかを特定するくらいしかできない。特定に至る方法が何も浮かばない…何をしても千日手になる。

 ど、どうすれば…!


「くそ…!そもそも、いつからいたんだ!」

「お前らのどっちかが連れてきたんじゃ無いだろうな…?」

「おい、よせ!ここで仲間割れしても『相手』に良いようにされるだけだ!それに、多分だが窓を開けたあの時だ」

「その心は」

窓を開けるソレより前に、何度も静かな時があった。なのに、聞こえていない…これが、偶然飛んでなかっただけか?もし仮にそうなら、俺らはもうどうすることもできない。だろ?」


 もし、もしもだ。そんな偶然を引き起こせるような…暗殺者のような奴だったら、勝手に出て行くことを祈るしか無い。


「油断していたとはいえ、俺らの誰も気づけないほどのステルス能力を持ってるんだ。終わりなんだよ、俺らは」

「た、確かに…」

「そう考えると、あの時、窓を開けたあの少しの時間で入ってきたって事か」


 俺達は、仲が良いからこその悪ノリってのがある。窓が開いてるときに少し騒ぐなんてデフォルトなんだ。……山峰部屋の主が一番うるさかったのは意味不明なんだけどな。


「俺らの習性が仇となったのか」

「これは、羽虫の方が一枚上手だったな」

「……一つだけ、この状況をなんとかできるかもしれない手がある」

「「な、なんだって…!?」」

「しかし、これは諸刃の剣だ。新たな刺客が入ってくるかもしれねぇ」

「ま、まさか!」

「ああ!窓を開けるぞ!」


 山峰が、宣言する。

 しかし、本当にいいのか?確かに、勝手に入ってきたなら勝手に出て行く可能性がある。しかし、それは同時に更に勝手に入ってくる可能性もある。まさに諸刃の剣。


「やるのか…!本当に…!!」

「ああ!このまま、停滞して後手に回るより、ワンチャンに賭ける方が良い!!」


 お、漢だ…漢がいる…!!!


「行くぞ…《オープン・ザ・ウィンド———

「待て!」

「ど、どうした!?」

「止めるな!!もう賭けるしか……」

「ふ、ふは…ふはははは!落ち着け、お前ら。大丈夫だ、まだ時間は沢山ある」


 和泉が突然、まるで可笑しいかのように笑い出した。


「!?ま、まさかお前」

「ああ、そのまさかだぜ山峰」

「そ、そうなのか…?そうなんだな?!」

「ああそうだ!侵入してきた羽虫は…『小バエ』だ!!」


 高らかに和泉はそう言った。

 俺と山峰は目を見開いて数秒固まる。そして……


「「なーんだ、ハエかよぉ〜」」


 気の緩んだ声が上がった。


「たくよー紛らわしいよなほんまー」

「あんだよハエかよー」

「ほな、どうやって追い出すか考えるか」


 蚊ならブッコロ案件だが、ハエなら殺すまでもねぇよ。

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