4 鳥ヶ峰の戦い
8月26日 明け方
月番家老の多羅尾は馬に乗って鳥ヶ峰に
長柄に出征中の城代家老に代わって、部隊を視察するためである。
彼は黒の羽織に馬乗り
彼が鳥ヶ峰の陣地に着くと、高取藩士が出迎えた。
戦国時代と変わらぬ甲冑姿だった。
植村家の家紋が入った黒い胴鎧、腕には籠手を着けている。
甲冑など下級武士が買えるものではない。藩から貸し出したものである。
多羅尾は
「敵の動きは?」
「敵は
鳥ヶ峰には天幕を張った大砲陣地が築かれていた。
この陣地にはボートホイッスル砲2門と西洋ダライバス砲2門を
ダライバス砲は安政6年に町人から寄贈されたものだという。
福田耕平曰く、ダライバスの由来はオランダ語から来ておるそうだ。自在砲や旋回砲といった意味らしい。
砲の後ろに黒い陣笠を被った20人の足軽鉄砲隊が整列していた。
先込めの洋式銃と和銃が入れ混じっている。
雷管式ゲベール銃が5挺あり、残りは4匁の火縄銃であった。
「玉は入れたか?」
「大砲小銃共に入れております」
天誅組は森村にある細い道を行軍している。
鐘太鼓や法螺貝の勇ましい音が領内に鳴り響く。
戦国時代さながらの甲冑を着たものもおり、
指揮官らしい人物が馬上に数人いる。
多羅尾儀八は馬上から声を張り上げて、味方を
「
鳥ヶ峰でも法螺貝の音が鳴り響いた。
1番手、2番手共に大砲の発射準備をする。
2番隊の号令をとっているのは軍正の多羅尾太郎だ。
「砲の火蓋を切れ。敵は1列縦隊だ」
「うて!」
藩士が口火に導き
まるで天を切り裂くような
放たれた砲弾は天誅組の頭上を通り越し、かなり後方の稲田で爆発したようだ。
「鉄砲隊! 銃を構えよ!」
20人の銃隊に命令が下る。
一斉に銃の引金に手をかける藩士たち。
銃から白煙が上がると、丸い鉛玉が放たれた。
「銃隊は下がれ。防ぎ矢を放て」
後方に下がった銃隊に代わって弓隊が前進する。
彼らは弓矢を一斉に放った。
防ぎ矢は銃隊が弾を込めるまでの時間を稼ぐためにある。
その頃、銃隊は銃口に黒色火薬を流し込んでいた。
銃口に3
火薬を火皿を入れ、火縄を火挟に挟み、火ぶたを切って発射準備完了だ。
銃隊が2度目の射撃を行う。
1番手が放ったライフルカノン砲が天誅組を直撃。
榴弾が1人に直撃し、2人が巻き添えを食らった。
「施条砲は狙いが正確だな。こちらも散弾を放て」 と太郎が言う。
ボート砲にブリッキドース(ブリキドース弾)を装填し、細長い込め矢で奥に押し込む。
口火に導き棹をつけると散弾が放たれる。
発射の衝撃で鉄製砲車が少し後ろに下がる。
天誅組も負けじと火縄銃を
だが、距離が遠いので届かない。
砲隊が二度目の発射を
ダライバス砲が放った百目の砲弾が敵の兜に当たった。
敵は地面に倒れたがすぐに起き上がる。
大砲と銃の激しい音が天誅組の行軍を
戦いは2時間近く続き、天誅組には逃げ出すものが現れた。
槍や刀を投げ捨て、我先にと逃げ出そうとする。
鎧までも投げ捨て、田んぼやあぜ道に逃げ去った。
高取藩の藩士は一斉に鬨の声を上げた。勝どきの声である。
天誅組も負けじと鬨の声を張り上げる。
※安政6年は1859年
幕末短編集 阿野ミナト @RAM06
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