3 藩の方針が決まった

 8月22日

 中山忠光一行の使者が俵屋本陣を訪れた。

 天誅組が高取藩を訪れるのはこれで二度目である。

「多羅尾殿、池内蔵太いけくらたと申すものから文が届きました」

「文には何と書いてある。見せろ」


 多羅尾は藩士の手から書を受け取った。

 一筆啓上致しそうろう

 中山前侍従殿より那須信吾を以て差し立てられ候御趣意、ご感服の上、武器並びに米百石分借用の段ご許容の趣、満足致され候、早々五条政所までご運送御手首尾下さるべき候


 藩士は続けて言った

「早々に五条政所まで米の運搬を手配してほしいとあります」

「米の催促さいそくとはな。書は林伝八郎はやしでんはちろう殿に渡すように」


 多羅尾は文を折りたたみ、藩士に渡す。

「五条から来た使者が米の催促さいそくをしています。何と返事いたしましょうか?」

「百石の米は調達中と返答しておけ」




   ☆



 8月23日 昼

 多羅尾は高取藩の屋敷に参った。紋付のはかま姿である。

 内藤伊織、棚橋伊左衛門、林伝八郎、中谷栄二郎はすでに集まっていた。


 上座に座る藩主植村家保は多羅尾に苦言をもらした。

 多羅尾はかしこまった態度で頭を下げる。

「多羅尾、遅いぞ。他の重臣はそろっている」

「ちと遅れました」


 軍学師範の福田耕平ふくだこうへい、剣術師範の杉野楢助すぎのならすけ、槍術師範の浦野七兵衛うらのしちべえも同席している。


 植村家保は、黒い紋付羽織袴を正しながら顔を上げた。

「では中山一行への対処を決める」


 進行役の多羅尾は単刀直入に話を切り出した。

「昨日、南都奉行所からも文が届きまして。自宜じきによっては加勢を頼むこともあるから心得置くようにと」


 城代家老中谷が口を開いた。

「多羅尾。京都所司代から郡山藩にも通達があったと聞いているが。して文面は?」

「早々に人を差し向けて召し捕れ、手に余るようでは切り捨てろとありますな」

「所司代は鎮圧しろと言っているのだな」


 たちまちに座がざわつき、重臣たちが口々に喋りだした。

「中山前侍従を討ち取れと言うのか」

「15歳以上の男を募って兵を集めているが、皆怖がって出てこんのだ」

「敵の勢力も分からぬと言うのに」 


 藩主が「私も谷三山から教えを受けたものだ。勤王の志は理解できるが五条代官所を襲ったのは悪手であろう」と発言した。



 再び、城代家老の中谷が口を開いた。

「藩の方針を決定しよう。忠光一行が藩を攻撃するなら対決も辞さない。斥候を放ち動向を監視せよ」


 藩の方針は満場一致で賛成となった。

 藩では蔵から古い武具を取り出し、下級武士や足軽に貸し出すことにした。


 多羅尾が事前の打ち合わせ通りに発言する。

 数日前、彼は家屋敷で福田耕平と対策を練っていた。

福田師範曰いわく頼みは新式のボートホイッスル砲だけとのこと」


 中谷が扇子を福田に向けた。

「福田師範。そなたの考えを遠慮なく述べてみよ」


 福田耕平は軽く一礼して考えを述べた。

「はっ! おそらく敵は森村から高取へ侵入するでしょう。そこを大砲7門で迎え撃ちます。棒火矢や大筒など、使えるものは何でも使う所存でございます」

「それは頼もしいな。期待しておる」


 剣術師範が「白兵戦になればこの杉山を筆頭に切り込む所存である」と発言した。

 城代中谷は「頼もしい限り」とこぼす。


 藩論は一つにまとまりつつあった。

 各自が意見や考えを述べ、天誅組に立ち向かおうとしている。








 


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