悲しいかな。

 人生はずっと後になってから、真相に気づくことがとても多い。


 心の痛みは鈍くなる半面、深く慢性化していくが、こういうことにかけては徐々に洞察力が研ぎ澄まされることで、確かに時間が解決していく。

 たとえ一見それとは全く無関係な生活を送っていたとしても。

 むしろ、その中にいるより、距離を取った方がきちんと見えるといったこともあるのだろう。


 僕とソウタは、教育実習前は一切面識がなかった。

 多分、ソウタが家庭教師をしていて勉強の合間の雑談で、彼女の口から僕の名前が出たに違いない。彼も彼女を想っていたとしたら、僕を彼女から遠ざけようとしたことと符合する。

 彼が純粋に僕のことを心配して、彼女から手を引けと世話を焼くのが不自然だとしたら、そういう憶測がますます現実じみてくる。


 その自惚れ混じりの憶測をさらに進めるなら、彼女が僕の話題を出したことで彼の嫉妬心を強く喚起したのかもしれない。

 さらにその僕が実習中に、キヨコとユミの好意も集めているという状況を目にしたら、苛立ちもするだろう。

 その矛先が僕に向いたのなら、あることないこと言ってでも陰で僕に潰しを掛けてきた可能性を、今なら感じ取ることができる。


 彼は僕と似て物静かな方で、良くも悪くも大声を上げて騒いだりするタイプではなかった。

 その代わり、陰を感じさせる表情に乏しい、彼の鬱々とした青白い横顔が、20年を経た今も、僕の目と胸にしっかりと焼き付いている。


 結局、僕は実習後も彼女を想う気持ちに変わりがなかったが、それから約半年近くものあいだ彼女と一緒に働きながらも、深く関わるのを避けてしまった。

 そして春となり彼女は高校卒業を迎え、進学に伴い転居することになった。


「クロノさん、私、バイト、今日が最後なんですよう。寂しくなりますね」


 カウンター越しに、身を乗り出すようにしてそう言った彼女はたしかに、目を赤く腫らしていた。


 そう言われて自分は何と返しただろうか。

 まるで覚えていない。





(了)

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