恋人が異世界転移しましたが、年に一回、電話できるので定期報告しあっています

だいたい日陰

恋人が異世界転移しましたが、年に一回、電話できるので定期報告しあっています

 あなたが消えてから一年が経った。

 もしかしたら、なにもなかったかのように、川辺にたたずんでいるんじゃないかと思って、同じ時間に、同じ場所へやってきた。

 とつぜん電話が鳴る。

 出てみると、どこかのんびりとした、変わらぬあなたの声が聞こえた。


 もしもし。

 こちらはひどい有様だよ。変な動物がやってきては人を傷つけていくんだ。

 まずい。親子が襲われそうだ。助けないと。

 また電話する。


 その日から、毎年、同じ時間、同じ場所で電話をすることが、わたしたちの約束となった。


 もしもし。

 そうなんだ。ぼくのスマホはバッテリーがなくならないんだよ。不思議だよね。

 不思議といえば、このまえ、勇者という人が現れて、このあたりの危険な動物を倒してくれたんだ。

 巨大な剣をふるっていたんだけど、魔法のような力も使っていた。

 こちらは、そちらとだいぶ違うみたいだ。

 またね。身体に気をつけて。


 もしもし。

 世界は平和になって、この村もだいぶ大きくなったよ。

 ぼくも仕事をもらった。鍛冶屋の見習いなんだ。

 以前は武器ばかり作っていたけど、いまは農器具を作っている。

 それが嬉しいって、親方が酔っ払ったときに泣いていたな。

 きみも就職おめでとう。

 お仕事がんばって。


 もしもし。

 ぼくがこちらに来たあの日、きみに別れを告げられた日のことをいまも考える。

 ぼくは、ぼくのことに一生懸命で、きみの気持ちを汲み取ることができなかった。

 だけどたぶん、きみも同じだったんだと思う。

 だから、ぼくたちは似たもの同士だったね。

 うん。そう。

 ぼくは結婚するよ。

 最初に電話がつながった日。あのとき、助けた親子と家族になる。


 もしもし。

 子供は大きくなったよ。そろそろ、そちらでいう小学生だ。

 習い事をはじめてね。

 剣の修練なんだけど、勇者と一緒に世界を救ったという人が教えてくれている。

 まだ小さい娘は魔法に興味があるみたいだ。

 きみも結婚おめでとう。

 ぼくは会うことはできないけど、きっと、いい人だろうね。

 お幸せに。

 怒らないで聞いてほしいんだけど。

 正直……ちょっとだけ、胸が痛いよ。


 もしもし。

 街が焼かれた。

 魔王軍という連中が襲ってきたんだ。

 ぼくは無事だ。息子と娘が助けてくれた。

 だけど、これからどこに行けばいいんだろう。勇者はもういない。

 謝らなくていい。ぼくもきみを助けることができないんだから。

 お子さん、残念だった。

 泣かないで。

 また来年、話せるように頑張るから。

 きみも頑張って。


 もしもし。

 この世界はとてもひどいことになっている。

 ぼくも歳をとった。

 ははっ。きっと、きみはおばあちゃんになっても素敵だよ。

 うん。

 また来年。


 もしもし。

 魔王軍をついに撃退した。

 ぼくの子供たちも帰ってくるはずだ。噂によると、だいぶ活躍したらしい。

 妻は……魔王軍が襲撃してきた日に殺されてしまったんだ。

 ありがとう。

 つらいことが多すぎる。

 きっと、きみもそうだろう。

 また来年。元気で。


 もしもし。

 たぶん、今年で最後かな。

 もう、あまり身体が動かないんだ。ほとんど寝てばかりいる。

 孫たちは元気に走り回っているよ。

 振り返ってみれば幸せな人生だった気がする。

 だけど、きみと別れたあの日のことが忘れられない。

 一生かけて煮詰めた未練だから、すこし吐き出させてほしい。

 あのとき、あんなことを言わなければ。いや、あのとき、あの言葉を口にしていれば。

 もしかしたら、ぼくはいまでも、きみの横に立っていられたのかもしれない。

 うん。とても子供や孫には聞かせられないな。

 きみのおかげで、ぼくは、なんとかこの世界で生き延びることができた。

 ありがとう。きみと出会えてよかった。

 さようなら。

 またいつか。


 ありがとう。

 あなたのおかげで、わたしは、なんとかこの世界で生き延びることができた。

 あなたと出会えてよかった。

 さようなら。

 また、いつか。

 どこかで。

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恋人が異世界転移しましたが、年に一回、電話できるので定期報告しあっています だいたい日陰 @daitaihikage

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