空手の花 (番外編1) 電光石火の夜。
kuzi-chan
空手の花 (番外編1) 電光石火の夜。
<始まり>
わたしは。
ほんとに…つかれていて。バスの(ゆれ)が気にならなかった。
でも。ときどき。うつらうつら…目を開けるとね。
カーテンの(すきま)から。
きれいな三日月が。遠くに小さく見えて。その下は…田んぼかな?
見えてた……。
でも…つかれてたから。寝よう。
ほんとに。ねむくて。ねむくて………。
<電光石火の夜>
夜行バスは走る。眠ってるのに走る。
眠りながら。すこしだけ足が痛い。
……ひざ?
右の(ひざ)が。すこしだけ…痛いんです。
きたえぬかれた私の体。
闘うために。いくらだって。いくらだって…がまんしてきた私の体。
強さは勝負の(わかれめ)。勝負は時の運。時の運は私の味方。
今まで。
いくつ…天の(運)に助けられたか。
ね?
お父さん。お母さん。見てるでしょ?…私を。
ね?
わたしは。野花(のはな)は。今もこうして…旅をしています。
ひとりで。こすれて。色が…にじんじゃった荷物ひとつで。
わたしは。旅をしています。
いまは。
だいぶ……。なれてきたのかな?
つらくはないです。
苦しくも…ないです。
ただ。
ただね。
ときどき…つかれた時なんか。すこしだけ…ちょっとだけね。
むねが。息が。つまる時があります。
でも。泣くなんてことは…ありません。
泣いたって。涙みせたって。そんなの…いいよ。もお。
……だれも。彼らには勝てない。
……私しか。たおせない。
お父さんとお母さんを(あんな目に)してっ。
よってたかって(袋叩き)にしてっ。
だから。だから事故で死んだのは…あの人達のせえだ。
かわいそすぎる。
ゆるせない。ほんとうに…ゆるせません。
ルール無視。反則なんて…ぜんぜん無視。何でもあり。
そんな。ひきょうで汚い(ケンカ空手)は…認めません。
そんな。勝つためだけの(ケンカ空手)なんか…大っキライです。
……私の敵は。(闇の流派)武闘流裏カラテ。
お父さんとお母さん。
生きてる時…いつも。わたしに。言って聞かせてくれたことが…あります。
それは………。
******
勝てば…それでいい。
問答無用のケンカ空手。決闘のための集団カラテ。それが…(裏カラテ)。
そんな。
裏カラテの集団を。(武闘流裏カラテ)と言う。
その存在は確実に広がっていて……。
全国に(闇の門下生)が散らばっては。
(正統派空手)の道場を。圧倒的なチカラで叩きつぶし…無理やりうばってしまう。
そうして。
(闇の組織)に興味のある人間を。
(チカラとカネ)に興味のある人間を。
着実に。確実に。(とりこ)にしてしまう。
そうして。
心を(しばり)…逃がさない。組織から…のがれられない。
やがて。組織の言いなり。……服従。
(正統派空手)の対極にある(負のカラテ)。
(真の空手)の対極にある(闇のカラテ)。
闘いに勝つための(集団カラテ)。
その。実戦の形。
それが。闇の流派…武闘流裏カラテだ。
******
……ハッキリ言います。私はキライです。
空手は武器ではありません。手段でも…ありません。
空手は(武道)です。
目の前につづく(自分の道)です。
言われて(ゆく)も…いいでしょう。
押されて(ゆく)のも…いいでしょう。
泣いて(ゆく)のだって…いいと思う。
歩く道。走る道。立ちどまる道。話す道。悩む道。笑う道。
そして。いろんな道たちが…あって。
そして。そんな…いろんな道たちだって。わたしの道です。
道は交差します。
交差したら…その時に考えます。
道は分かれます。
分かれたら…その時に考えます。
……武道とは。(ただの道)です。
ただの道だから。人が(ゆく)道だから。
なんでもできるんです。
なんでもです。
やっちゃいけないことは…ただひとつ。
……人の道を。(はずれる)ことです。
だから。そのまま。(ゆけ)ばいいんです。
ただの道を。(ゆけ)ばいいんです。
それが空手なら(空手の道)です。
ただの道は…空手の道になり。やがて。空手の道は(武道)になります。
武道って。自分の。自分だけの。(ただの道)なんです。
ただの道だから。誰でも行けるんです。
子供の私でも…大人でも。誰でもです。
一緒にならんで行ってもいいし。一人で行ってもいいし。
(人の道)さへ…はずれなければ。あとは(ゆく)だけです。
……それだけです。
夜行バスは走る。眠ってるのに走る。
うす暗いバスの中は…大人の人でいっぱいでした。
日曜の夜。つかれて眠い夜。三日月さんが青白く光る…静かな夜でした。
夜行バスのシートはね。
12歳の小さな私を。ゆったり…どっしり…はこんでくれます。
ありがとうございます。
夜が明ければ。
また…次の町へ行き。また…別の学校です。
もう。ひとりで行く転校は…慣れました。慣れっ子です。
でも……。
(慣れっ子すぎ)は…ダメです。いちばんダメです。
ハッ…としないから。気づかないから。
(あたりまえ)なんだと…かってに決めちゃうから。
(決めつけ)って…こわいです。
私も時々ね。
意地をはって。聞かないで。ガンコに…強く言っちゃう時があって。
いけないこと。
突然。カァーッ…となって。
闘いの中で…相手にね。投げつけることがあります…きたない言葉っ。
わかってます。いけないことって。
でも。でも。言っちゃう……。
相手の。その人の歴史も知らないくせに。
かってにね。今の(見た目)だけで点数つけちゃう。
そんな(決めつけ)が。慣れっ子になってる…今のわたし。
気をつけます。
……わたしは12歳。小6です。
闘う日々で。闘うことで。
つい…(おとな慣れ)した私は。やっぱり…ちがう。まわりと違う。
普通じゃないし。気をはって。気をはって…闘ってるし。
いつ…たおれるか。
いつ…たおされるのか…わからない。
このからだ。このわたし。このおもい。このチカラ……。
わたし。じぶんでも…こわいんです。じぶんのチカラが。
てきがいるから…やれる。
てきだから…つかえる…このチカラ。
もし。いっさい。このチカラを…とじこめたら?
わたし。ふつうに…なれる?
わたし。ふつうに…いきていける?
わたし。ふつうに…もどれる?
ねえ。野花っ。(あなたよっ)
ふつうにもどって…いいの?
野花?(どうなの?)
ふつうに…なりたいの?
野花?(ねえ。どうなのよっ?)
……いいえ。
わたしは。わたしは。空手の女の子です。
ひとりで旅をする…空手家です。
両親の。(真の空手)を受けつぎ。
両親から(さずかった)この空手を…信じきり。
わたしは。わたしは。自分のチカラを信じたい。信じよう。
そして…自分を出そう。かくさず…出そう。
そして。
恐れない。堂々とする。泣かない。言うことは言う。下を見ない。
……でしょっ。野花っ?
わたしなら…できる。いえ。わたしだから…できる。はずっ。
いえ。やらなきゃ。やってやるっ。
両親を死なせた裏カラテを。総師範の(裏の十段)を。
いつの日か。いつの日か。かならず。
闇の組織を…闇の流派を。武闘流裏カラテを。
……たおしてみせる。
わたしには。
彼らが恐れるチカラがあります。誰にもマネのできない…チカラがあります。
たとえ。
どんな大男でも。無敵を(じまん)する格闘家でも。裏カラテの達人でも。
どんな相手であっても。
チャンスさへあれば。いえ。チャンスをつくって。
一発で(しとめる)。一発で(たおせる)チカラが…私にはあります。
……それが。空手の極意…一撃必殺の(決め技)です。
この。わたしの。一撃必殺の決め技…大技こそ。
敵の彼らが…もっとも恐れる。もっとも…あびたくない。私の必殺技です。
私にしかできません。
誰にもマネなど…できません。
小さくて軽い私だから…できる。
バネのある瞬発力と。
驚異的な(ジャンプ力)がある私だからこそ…できる。
空手の大技…空中技です。
誰もかなわない。誰もやぶれない。誰も逃げられない。
全身全霊の決め技…必殺技です。
両親から受けつぎ。一人で改良し進化させた…この必殺技こそ。
……うなりをあげる。無限・飛びヒザ蹴りです‼︎
ヨモ…フケテキタ……………………………。
青白い月光…三日月。
飛ばすハイウェイ。つきぬける夜景。深く眠る…わたし。
……お父さぁん。お母さぁん。
……おとうさあん。おかあさあん。
父「野花あ。よく見るんだっ」「これが空手か?……」「真の空手なのかっ⁉︎」
母「のはな?」「いーいっ。よく見るのよ?」「やぶれる私達を…見なさいっ」
父「これが試合か?…ええ?」「10対2だぞっ。ケンカじゃないかっ……」
母「ひきょうな空手。勝てばいいだけの空手」「こんなの。こんなの空手じゃないっ」
父「野花あ。聞くんだあ。二人の…うめき声をっ……ぅぅ……」
母「のはな。見なさいっ。私達の…ボロボロの体を……ぁぁ……」
父「野花あぁ。野花ああ……っ………」
母「のはなぁ。のはな…のは…なぁ……っ……」
……そこは。(袋叩き)の道場は。白い照明と…白い壁でした。
そして…自動車事故。病室。
動かない父と母は。また。白い…白い…光の中でした。
……死んじゃった。
9歳でした。ひとりでした。外は。どしゃ降りの…嵐でした。
生きるしか。
ただ。生きるしか…ありませんでした。
……空手の意味。
わかりません。
でもね。
空手を夢中でやってると。おちつくんです。楽しいんです。
一人の練習はキツイ。痛いし…苦しいし。
でも。いいんです…これで。いいんです。
空手をやってると。
空手だけを…やってると。
あのね。
会えるんです。お父さんと…お母さんに。
ほんとです。
ほんとですよ。ふふ。へんですか?
……裏の十段。
一度だけ。施設で闘ったことがある…闇の空手家。
両親を死に向かわせた…にくい相手。
闇の流派(武闘流裏カラテ)のトップ…闇の師範。
しはん?…師範って。つまり…先生です。
せんせえ?
おかしくない?…おかしいでしょう。悪いヤツに(先生)なんてっ。
でも彼らは。ニヤリと笑って。裏の十段を…そう呼ぶんです。
裏の十段先生…って。
……深夜の裏街。ゴチャついた通りに…4人。
男A「先生は。こわいお人だ。さからえない」
男B「武闘流は。非情が…おきて」「先生の指令は絶対命令」
男C「さあ…お嬢さん。どうするっ」「かこまれたぞ?」
男A「先生の命令だ。お前をたたく……」
男B「たたきのめす。空手のできない体にする……」
男C「お前が。負けを認めれば。ゆるしてやろう……」
……わたしは。
裏街の。うす暗い通りには。
シャッターのおりた商店や…ひと気のないコンビニ。
そして。古い。2〜3階だての雑居ビルが…いくつかあった。
青白い三日月が。小さく…絵のように…夜空にあった。
3人のゴツい男達に囲まれて。小さな私は立っていた。
夏の終わりの。深夜の歩道に立っていた。
……わたしは。ザッ‼︎
男A「どうした。どーした。……ええ?」
男B「手をついて…あやまれ。証拠の動画をとるっ」
男C「先生に送ろう。よろこぶぞ。空手野花が…土下座したとっ」
……わたしは。ザザッ‼︎
闇の武闘流を。裏の十段を。あなたたちを。
確実に。ひとり残さず。全身全霊…チカラの限りをつくして。
……たおすっ‼︎
この世の…はてに。この世の…終わりに。
この世の地平線が切れ。この世が暗闇におおわれて。
地獄の谷で。地獄の滝が…ゴーゴーと鳴り。
たとえ。地獄行きの門が…見えたとしても。
たとえ。落ちては上がれぬ。地獄の釜が煮えたぐり…待ちかまえていても。
……わたしは。わたしはっ。
あなたたちを。ゆるさないっ。
ぜったいに。ぜったいに。ゆるさないっ‼︎
あの日。嵐の夜っ。
ゴミのように踏みつけられ。ゴミのように捨てられ。ゴミのように忘れられた。
だいじな。だいじな。お父さんとお母さんの…くやしさを。
白くなった。冷たくなった。お父さんとお母さんの…くやしさを。
この私が。娘の私が。はらしてみせるっ‼︎
私の(決意)と(チカラ)を。全力でぶつけて。
彼らを…裏カラテを。かならず。かならず。たおしてみせるっ‼︎
……敵は3人。
ゴツい男たち。
黒い道着を着た…空手家だ。強いっ。わかってる。
雑居ビルの。ザラザラした。コンクリートの壁を背にした…わたし。
逃げられない。
夜中の裏街は誰もいない。アイツらの…やりたいほうだいでしょう。
車も通らない。
ここで叩きのめされても。
小さな私は。ただの…ゴミのかたまり。
小さな。小さな。ただの…かたまりです。
……ふふ。ふふふ。笑っちゃうね。
男A「おい。見ろよ。笑ってるぞ……」
男B「だまされるな。先生の(うで)を折ったヤツだ……」
男C「おい。かこまれたぞっ。どうする?」「……お嬢さん?」
……時間をかけては勝ち目がない。
わたしの小さな体で。大人の男3人は…ぜったい無理です。体力が続きません。
どうする?
どうするっ⁉︎
えいっ‼︎…ひとりに集中すれば。一気に決めれば。
わたしの…今のチカラなら。
……いける。
わたしは。
背にした雑居ビルにある。暗い非常階段を。ダッシュで…かけ上がった。
身軽な私は…アッというまです。タタタタッ…と。
一階の(おどり場)。そして。二階の(おどり場)まで。
一気に。飛ぶように…かけ上がってから。敵が下から来るのを…待ってた。
すると。ゴツい男が…2人でね。
野太い声をガンガン出しながら。バタバタバタッ…と。
階段を上がってきたのが…見えたの。
ほらねっ…思ったとおり。1人は下で…(ようす見)。待機してる。
ふうん。よゆう?…それとも。安全策かしら?
だめ。
それが命取り。おもうツボです。
……飛んで火に入る夏の虫。
わたしは。
決めたアイデアどおりに。
今いる。(ニ階と三階の間)の(おどり場)から。
バッ‼︎…と。勢いよく(飛びおりジャンプ)して。
やっぱり…こわい顔で階段を上がってきた。
黒い道着のゴツい男たち…2人の頭上をね。
サァーーッ…と。ビューーン…と。
そう。わたし。忍者のように…かるがる飛びこえ。
髪を(なびかせ)ながら。
ストン……っと。
二階の。非常階段の。せまいスペースに…着地した。
2人の男が。
えっ?…っと。下に飛んだ…着地した私のほうに顔を向けた時には。
ほら。もう。わたしは…いません。
わたしは。
ダダダダダッ…と。階段を猛ダッシュで(かけ下りる)と。
やっぱりね。
ビルの前では。上の(ようす)を。(シブい顔)で見ていた残りの男が…ひとり。
黒帯に両手をひっかけ。日焼けにギョロ目で…(仁王立ち)してた。
あきらかに。
まちがいなく。
(受け身)の体勢では…ありませんでした。
……よし。今だっ。電光石火‼︎
速攻…迷わない。一気に決める。
非常階段の前で私は。一段…二段。ギアを上げたっ。
目の前の敵へ…猛ダッシュ。
…と。見えない。こげ臭い(におい)が…しました。
スポーツカーの。
F1(エフワン)レースの。スタートのようにダッシュした…私のスニーカー。
(くつ底)が。ギャアッ…と泣いて。強く(こすれて)しまって。
その。ゴムの焼けた(におい)がしたんです。
路面との摩擦で。ギュン…っと…下から音もしました。
わたしは。
私のダッシュ力…瞬発力には自信があります。今までの経験もあります。
ダッシュの時は。(瞬時の判断)と(思いっきりの良さ)が大切です。
もう一度いいます。
わたしには経験があります。
12歳の女子でも。普通の大人よりも。時に…命を(かけた)闘いをしてきました。
その経験は。はかりしれません。
私の血となり肉となり…頭脳となっています。
まちがいありません。
わたしは。3〜4メートル先…前に立つ。
ギョロ目の男に向かって。光の(てんめつ)に近い…猛ダッシュを(しかけ)ました。
敵の男は。
まだ。(仁王立ち)をしていました。
……信じられません。
私が。どんな闘い方を…してくるのか。いつ。速攻を(しかけて)くるのか。
ちゃんと。前もって。予想をしてなくちゃ…だめなんです。
それを。この男は。敵は。なんにも…していない。
ゆだん。あわれな自信。みくびり。おごり。ふかく………?
いえ。それは…(弱さ)です。
本物の(強さ)とは。
いつか自分は。自分よりも強いヤツに出会うかもしれない。
闘って負けるかもしれない。
だから。だから。もっと(臆病)になって…(慎重)になって。
(用心深く)ならなきゃ…だめなんです。それが本当の(強さ)です。
……あなたは弱い。あなたの負けです。
わたしは。
絶対零度のリニアのように。磁石に猛反発した金属のように。
一瞬で。目の前の。ゴツい男の(足元)に…(胸元)に。飛びこんだっ。
一瞬です。
男の目線は…ほとんど動きません。
まだ。私の。ダッシュした(コース)…移動した(路面)を見ていました。
それぐらい速い。超速攻でした。
……あとは。(飛ぶだけ)です。
超絶技巧。瞬殺技巧。なんとでも言ってください。
ほめる言葉は。ちっとも欲しくありません。求めもしません。
わたしは。
好きで飛ぶんじゃないんです。
わたしは。
必死だから飛ぶんです。それだけです。
ほんとうに。それだけです……。
男の目線が。一瞬おくれて…私に照準を合わせる前に。
私はすばやく。
(垂直ジャンプ)にベストな体勢をとって。
カウントダウンへの…スタンバイをした。
そして。
細いけど…きたえぬかれた両足にチカラをこめ。
(こし)を落とし…息を切り。
わたしは。(決め技)への…決着への…カウントダウン。秒読みです。
……そして。ステップ動作に…はいった‼︎
私の後ろには。
おそいっ。やっと今ごろです。
非常階段をバタバタと…かけ下りてきた。仲間の男が2人っ。
子供の私に。女の子の私に。
(怒鳴り声)を…あげていたんです。汚い言葉で…後ろからっ。
野太い声ガラガラ声で…どなってた。意味がない。はずかしい。
……そんなの。むだです。
……だって。もう。まにあわない。
ゴツい日焼けした男が。たった今。自分自身の足元で。
低姿勢でステップ動作に入った私に。
すばやく。意識を…視線を…向けた時でした。
わたしの体は…感覚は。
まったく。地球の重力を感じませんでした。
あたりまえです。
わたしは。
おさない…よちよち歩きの頃から。
なんども。なんども。なんどでも。
飛んで。飛んで。飛んだんですっ。
あなたたちが。武闘流が。裏カラテが。なんだと言うんですかっ。
その強さが。世界最強だと…言うんですかっ。
あなたたちは…わかってない。井の中のカワズです。
自分の強さなんて。自分より強い相手には通用しません。
あたりまえの事です。
ちょっとぐらい…空手が出来るからって。うまいからって。
集団を作り…大声だして…いばって見せるなんて。
そんなの。そんなの。空手じゃない。
そんな空手なんて。空手じゃないよっ。真の空手じゃないっ。
ねえ?
お父さん。お母さん。そうでしょ?
それで…いいよね?
わたし。まちがって…ないよね?……ねっ?
おとうさん‼︎
おかあさん‼︎
わたしを。わたしをっ。見守ってください。おねがいっ‼︎
……決めてやるっ。
わたしは。
ハガネの両足で強く地面を蹴って。
垂直に…飛んだ。
誰にも止められない。私だけの必殺技。
両親の(かたみ)の必殺技。
うなりをあげる。無限飛びヒザ蹴り。
(いけえええーーーーーーーーーーーっっ‼︎)
地を(はう)無言の抵抗は…終わりの叫び。
バッドエンド。……完敗。
あなたの…負けです。
私の。驚異の垂直ジャンプ…垂直上昇は。ほぼ。瞬間移動に近いんです。
そして。
なんの苦もなく男の足元から。
1,5メートルから2メートル。空中(高く)…垂直に飛んだ私の体は。
その男の頭上…やや(ななめ)上空に。無重力の宇宙空間で浮くように。
ポッカリと…一瞬だけ。静かに止まった。
深夜の夜空には。
私の小さな体と…白い三日月が。(二つ)だけ…ありました。
わたしは。
もう。連戦錬磨…自然に。
空中で。(飛びヒザ)のフォーム…(弓なり)の形をとりました。
そこから…わずか0,2秒です‼︎
(弓なり)から(ヒザ蹴り)に…動作移動をします。シュッ…と。
ヒザ蹴りを(キメる)時のスピードは。
つまり。
(弓なり)姿勢から。(ヒザ蹴り)姿勢への(反動)の動きは…すさまじくて。
まるで。
(押されて縮んだバネ)が…一瞬でっ。
ビュンと。飛び出し…飛びはねる…猛反発するように。
わたしの(ヒザ蹴り)に。驚異的な反発力を…あたえました。
この。
(弓なり)からの…驚異的な反発力こそが。
わたしの…空中での(飛びヒザ蹴り)に。
無限のパワーを秘めた…極限のチカラを。
そう。そうです。
すべてを蹴散らす。爆発的な破壊力を…あたえたんです。
この。小さな体…軽い体でも。できるんです。やれるんです。
……ただ。わたしのね。
……小さくて。軽い体の欠点…弱点だって。もちろん…あります。
それは。
重くて…ズシンとくる。(パンチ)と(キック)が出せないことでした。
しょうがないこと。まだ子供です。小さい女子です。
でも。でもね。その欠点…弱点を。
この。(弓なり)のフォームが…カバーしてくれたんです。ほんとうに。
あの時……。
あの時間。あの日々。あの…児童養護施設での約3年間が。
この。究極の大技に…命を吹きこみました。
だから。あの3年間の日々は。
私にとって。けっして。ムダな日々では…ありませんでした。
……そして。今っ‼︎
敵は。男は。
頭上の私に。まだ…目線を向けてこない。
私が(ここに)いることに…気づいていない。
そうでしょう。
あなたは。強くないから理解できないんです。私が今…(ここに)いることを。
それでも。いちおう…空手家です。
コンマ数秒で。なんかを。感じたのかな?
目線を。一瞬(上目使い)にした。下にいる…男でしたが。
でもね。
……もう。むだです。
……あわてて。ガードしよう…ったって。
……おそい。もう。おそいよぉ。
そして。
鋼鉄のハンマーにも匹敵する。
きたえぬかれた。私の空手のヒザが。私の…右のヒザ蹴りが。
照準…OK。
………シュッ…………………………………‼︎
と…命中した。
男の。左側頭部に。
……グシャ‼︎
月夜の…ごちゃつく街。ひと気の無い深夜の通り。雑居ビルの前。
大きなスイカを落とし。無理やり…ボコッと割れた時の。
あの。(にぶい)音に…にていた。
着地体勢のまま。
わたしは。チラッと…後ろにいる男達を確認すると。
無言で(くずれ落ちる)仲間を見て。二人のゴツい男達は。かわいそうなくらい。
ほら。あせってるように…見えました。
もう。ただの…普通の。腕力だけのね。アマチュアの男達に…なっていました。
もっと。ちゃんとやれば…いいのに。
もっと冷静に。もっと…ちゃんと。仲間と手を組んでやれば…いいのに。
(だいの大人)が2人もいて……。
でも。もう。終わっていたの。
男達の。その目を見れば…わかります。おびえてる?
男達の。その。カサカサの指先を見れば…わかります。かじかんでる?
……もう。やめたら?
いえ。
そうはいかない。いきません。
ゆるすもんですか。
逃がすもんですか。
あの日の。あの夜の光景を。あの時のくやしさを…忘れるもんですか。
ぜったい。ぜったいぜったい。忘れるなんて…できない。
だから……。
たたくっ。確実にっ‼︎
目の前の敵を。あなたたちをっ‼︎
……(甘い汁)は。すわせません。
……手加減無用。再度…電光石火。
ねえ?
そっちから来ないなら。私から…いくだけです。
二人の男に(はさまれる)前に…やってやる。
先手必勝。
それも…あります。でも。私の場合は…少し違います。
わたしは12歳。小さな女の子です。
大人の敵に。ちょっとでも。パンチを…キックを…打撃を受けたら。
私の体は…どうなると思いますか?
私の肉体は。このまま。ダメージ無しで…いられますか?
いいえっ。だめでしょう。
そうです。間違いなく。(こっぱみじん)になって…吹っ飛んでしまいます。
生きてはいないでしょう。
(大けが)だけじゃ…すまない。命取りに…なりかねない。
だから。
だからっ。大事なことは…たった(ひとつ)です。
……攻撃を受けずに攻撃する。
できる限りです。
これが。私の闘い方の…基本中の基本です。あくまでも基本です。
でも。なかなか。そうならないことが…多いです。
でも。やるしかありません。百戦錬磨でいくしか…ないのです。
……わたしの進む道は。いまは。闘いの道だけです。
わたしは。
後ろの2人に…(わざと)目を合わせてから。
(さあ。来なさいっ?)…みたいなジェスチャーをしてから。
好スタートを切りました。
その場をね。(逃げるように?)して。車道を走って…横切ったの。
人も車も…いっさい通らない今は。ここは。(月夜の道場)となっていました。
自由に動けるし。ほんとに…そう。
いくらでも。好きなように…思うぞんぶん。
わたしは今っ。
この…自分の小さな体を。おもっきり動かせるし…使えるんです。
今の私は。
ひかえめに言って。無敵です……。
二人の男はね。
私が。走って逃げた?…と見て。あわてて追ってきました。走ってねっ。
ふふ。おもうツボでした。
向かいの古いオフィスビルは…絶好のアタック。絶好の…タイミングでした。
……まず。(ひとり)を…たおす。
……三角飛び。
古いオフィスビルの…灰色の壁が近づくと。
走ってる私は。追ってくる…後ろの2人を感じつつ。
ちょっとだけ。
後ろをふり向いて。必死でやって来る男達に…言葉を投げた。
(来なさいっ。あなたたちに。私はたおせないっ)…と。
敵からすれば。
相手は子供です。小さな女の子です。
対決の前に…対決の最中でも。
闘うことが(仕事)の彼らでも。
私に対して。
闘う熱意。闘う意欲に…(きぶん)にね。
(むらっ気)が出ない相手は…いないでしょうし。
中途半端にね。自分のチカラを…(おおざっぱ)に出してしまう。
きらいな言葉ですが。
子供の私をバカにしてる。そういう感じがします。
どっちにしても。
わたしは感じます。思います。
(中途半端な強さ)は…(頭の悪さ)に比例します。
この2人の敵も…そうでした。
ゆっくり攻めれば。
あせらずに。考えて。戦法を組み立てれば勝てるのに…です。
まず。手前の男が(小走り)で来た。
もはや。完全な(わな)に……かかれ‼︎
わたしは。
少し助走をつけて。えいっ…と。
(1,5メートル先)の古い壁に向かって。(片足)で…飛んだ。
私のジャンプ力は何度も言いましたね。わたしの。最大の武器です。
壁に向かって。約45度の角度で飛んだ私は。
路面から…地面から。2メートルの高さまでジャンプすると。
勢いよく。目の前の古い壁に…(直撃寸前)になった。
そこで私は。自信をもって。
後ろに(せまって)来た…(先に攻めてくる男)に向かって。
今度は(両足)で。
その。垂直に立ったビルの壁を。高さ2メートルの位置から。
全力で。バネを(はずませ)て。飛びこんだ加速のままに。
私は強く。最高出力で。せまって来ていた敵にめがけて。
バァーーン‼︎っと…蹴りあげた。
壁を。両足で…強力に蹴りあげた(反作用)によって。
私の軽い体は…ジェット噴射のように。一気に前方へ飛ばされ。
と…同時に私は。
両足をのばし…そろえて。きたえぬかれた(空手の両カカト)を突き出した。
向かうは。
前方にいる。先に走ってきた。2人目の…ゴツい男っ。
……これこそ。わたしの得意技。
……絵にかいたような(三角飛び)です。
男は突然。目の前にね。(この私)が飛んで来たので。
えっ?…と。一瞬っ…感じたのか?
身を(かがめ)て。サッ…と。
自分に向かって飛んでくる(三角飛び)から…逃げる体勢をとろうにも。
時……。すでにおそし。
男は。私の(三角飛び)を。この流れの中では…予想できなかった。
……それが。すべてでした。
ジェットスピードで。ビューーン‼︎…っと飛んでいった。
私の。のばした両足の…(空手のカカト)が。
直線的に。ノーガードで…無抵抗のまま。
えぐったっ‼︎
男の(のど元)深くを…えぐった。
ゴツい男は。
うぐうっ‼︎……ううっ‼︎……うぇ……っと。
呼吸を止められ。苦渋の顔で。
そのまま。前のめりに。くずれるように…たおれていった。
……その場で(うずくまる)。2人目の男でした。
……あと。ひとり。
三日月は。……消えていました。
いえ。
あやしい。もやもやの黒い雲に。
(ぶ厚く)目隠しをされて…消えちゃっていました。
もしも。ここが。森の奥の洞窟ならね。
私たちを(よそ者)あつかいして。ビックリさせるために。
黒いコウモリ隊が…ドバァーッと。
バタバタ…バタバタ。四方八方。舞い飛ぶに…ちがいありません。
あの…フランケンシュタインが。
あの…ドラキュラ伯爵が。
あの…ジキル博士とハイド氏が。
もしも。今…目の前に。本当に出てくるならっ?
こんな。深い深い。(眠りの森)に落ちた…暗ぁ〜〜い夜かも…しれません。
月が隠れた夜は。
何かが…おこり。ダレモタスケテワクレマセン。オダブツ。
……さあ。次は。あなたの番よっ。
うぐうぐ…うええ…っと。
息が苦しそうに(もがいてる)。地面に丸まった男。
その…敗れて丸まった男の後ろで。
もう。すでに。
自分は勝てないかもしれない。
自分は負けるかもしれない。
そんな(ふんいき)を出して。今…どうしたらいいか。わからない。
自分の(立ち位置)が…不安でしょうがない。
(化けの皮)がはがれ。中身の弱さが出てきてしまった。
根性の(かけら)もない。最後の(ひとり)の男が。
ただ。……ただ。
浮いたように…つっ立っていました。
オドオドして。オロオロして。プロなのに…みっともない。
空手家の…格闘家の。あの。(突き刺す)ような目では…ありませんでした。
どう見たって。だれが見たって。
この私を怖がってる。あきらかに…恐れてる。
そんな目でした。
くずれそうな内面を写した…ふるえる目。
それは。間違いなく。(敗者の目)でした。
……帰ったら。仲間に言いなさい。
……空手野花は。鬼だとっ。
わたしは。
なんにもこわくはなかった。
かれがかわいそうなくらいにさえおもえた。
でもたたかわなくてはだめ。
こころをきめてたたかうんだ。
わたしは。
いまあるものを。いまもってるものを。ぜんぶだしてたたかいます。
ぜんりょくでいきます。だしおしみなんてしません。
あいてにしつれいです。
わたしは。
たたかうひびとこころにきめて。
ひとり。たびにでました。たたかいのたびです。
なんのため?
てきのかれらをたおすため。ちちとははのくやしさをはらすため。
そして。しんのからてをまもるため。
だから。
こころをきめておにになる。おにになれ。
あすはどうなるかわかりません。
でも。いまは。それでいいです。
わたしは。からてのおんなのこ。
わたしのなまえは。
……からて。のはな‼︎
さあ。一撃必殺で決着です。決めてやる。
わたしは。
うずくまってる男を飛びこえ。すかさず。男のもとへ猛ダッシュした。
目の前の男は。まちがいなく。迷うヒマなんて…あるわけがない。
猛ダッシュして近づいてくる私に…無意識にでしょう。
男は…少し口を開いてね。
習いたての。初心者のようなファイティングポーズをとっていました。
中途半端な……。
気迫のない。(および腰)の。その…戦うための(かまえ)は。
……(大人の)男の人には。見えませんでした。
これから…どうなるんだろう?
どう闘えば。どう動けば。どうすればいいんだろう?
わからない……。
(土の中の虫)を手にしたら。ぐにゅぐにゅ動いて叫んでる?
そんな。どうにもならない。お湯の中に入れられる時の?
生きてる(エビ)や(カニ)のように。(無情の身震い)をして。
わたしの突進を…必死に受けとめようとして。
不安そうな(かまえ)に。チカラを入れて立っていました。
ふるえる子羊…かな?
悩める子羊…かなあ?
……でも。悩むんなら。あした悩みなさい。
今の(あなたの仕事)は。私と闘うこと。
そして…敗れること。
確実にです。だから。悩んでるヒマはありません。
……(ヒザ蹴り)という(蹴り技)は。接近戦が条件です。
わたしは12歳。小さな体です。
相手と(間合い)を取りすぎると。相手との距離を取りすぎると。
わたしの(ヒザ蹴り)は当たりません。
子供の足の短さでは。
(ふところの深い)大人の相手には…とどきません。
理路整然。簡単明瞭。単純正解。当たり前のことです。
だから私は。敵の(間合い)深くに(もぐる)のです。
だから私は。敵の(足元へ)。相手の(胸元へ)…(ふところ)へ。
ぐいっ…と。深く深く入りこみ。
(打ち合い)で。めった打ちになる覚悟で。
また…男達の。太くて長い(うで)で…(つかまれて)しまう覚悟で。
敵との。相手との距離を。ギリギリ(ちぢめて)から。
わたしは。フィニッシュに(かける)のです。
……フィニッシュとは。
……もちろん。無限飛びヒザ蹴りです。
わたしは。
(ふるえる子羊)の一歩手前で。スッと…シャドーストップ。
(迷える子羊)の視界には。(私の影)だけを残して…飛びました。
(私の影)だけを。(子羊)の視界に入れました。
そうです。
もう。彼の目の前には…私はいません。
もう。そこには。いないんです。
彼が見ている私の姿は。
わたしの。ただの。シャドーです。
流れて急上昇する…(影の流線)です。
わたしの動きが…あまりに速くて。
私の(飛びヒザ)へのスタンバイも。ステップ動作も。
彼の。プライドうすい。ただの…ハードル無き闘争心では。
まったく見えないし…感じることができません。
もちろん。
わたしの。極限に近いスピードで飛ぶ…垂直ジャンプなんて。
彼のオドオドした目でなんか…追えるわけがありません。
同じことを何度でも言います。
しつこく言います。
わたしの垂直上昇は一瞬です。瞬間移動に近いのです。
絶対に。目では。かんたんには追えないのです。
それくらい。驚異の超速上昇なんです。
……その時。黒い雲が切れ。白い三日月が…あらわれました。
三日月に向かって飛んだ…私の体が。
夏の終わりの。
まだ。がんばって残っていた。(しめった)空気のツブに衝撃をあたえ。
強く散らしながら…蒸発させて。
私の通った(垂直上昇の道)を。大気の(透明な道)を。
白く…こまかく。モヤモヤした。水蒸気に変えていました。
彼の目には。
一度も経験したことのない。
異次元の(白い世界)にしか…見えてないでしょう。
……だから。もう。終わりにします。
垂直ジャンプした時の。
(空気を切る音)がしたので。
男は反射的に。ほら。(うわ目)で…上を気にしていたけど。
……おそすぎます。
ほんとうに。反応がおそすぎます。
かわいそうだけど。
ごめんなさい。覚悟してください。あなたの負けです。
もう二度と。けっして。
わたしと対決しないでください。
わたしも。
おんなじ人を。二度も。たおしたくは…ありません。
おねがいします。
わたしは。(弓なり)の頭上から。
照準…OK。
狙うは…左側頭部。0,2秒で…キメる。
さあ。覚悟してください‼︎
うなりをあげる。無限飛びヒザ蹴り‼︎
………シュッ…………………………………‼︎
電光石火の夜は。
………グシャッ。
3人目の男が。
(くずれる)ように。前のめりになって…たおれて終わりました。
ひと気のない深夜の街。誰もいない古いオフィスビル。
その前には。たおされて丸まった男が…3人いました。
今は苦しいけど…安心してください。
あなたたち。死ぬことはないから。
夜が明けるまで。もう少し。ここで眠っててください。
良かったね?
私が子供で…女の子で。
もしも。大人の男の…重量級の(飛びヒザ)なら。
あなたたち。今頃どうなってたか…わかりません。
ほんとうですよ……。
……ああ。おわった。
ほら?
また。白い三日月が…消されてしまった。
黒っぽい雲に…かくされて。
お父さん。お母さん。見ててくれた?
野花は。また。闘いました。
少しだけ…つかれました。ねむいです。
もう。ねむくて。ねむくて………。
……ん?
車内の照明が。ポワッ…とついた。
今のってる夜行バス。一度だけ…途中で止まるんだっけ?
トイレに出る人もいたけど。わたしは。眠くて…眠くて。
だから。うすい(ひざ掛け)に。丸く小さく…くるまりながら。
私は…わたしの世界で。また。目を…つむります。
……ああ。夢だった。
わたし。
夢の中でも…真剣勝負。
なんでだろ。なんでだろっ。なんで?
出発時刻になって。
車内の明かりが消されると。
外の街灯の光や。車のライトの光。そして……。
夢と現実の…(三日月さん)の白い光が。
あわく。やさしく。ほんのりと。カーテンごしに…もれてきて。
眠りに落ちそうな私の横顔を。遠慮がちに…なでてくれました。
その時ね。
ああ。夏も終わりだなあ…って。思ったの。
……おやすみなさい。
……また。あした。
12歳で旅をする。
わたしは空手の女の子。
わたしの名前は…空手野花。
<おわり>
<空手の花(番外編1)。電光石火の夜>
空手の花 (番外編1) 電光石火の夜。 kuzi-chan @kuzi-chan
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