炙りカルビ 薄切りタレ漬け 特選 6人前

長尾たぐい

★☆☆☆☆

「老若男女どなた様にもおススメ」とあったから買ったのに、期待外れ。

 大体、相応の金を払ったのだから、私が子供時分に食うに困って庭に二羽いた鶏を潰したのやら、近所の池にいた親鴨おやがも子鴨こがも子孫鴨こまごがも、果ては親亀おやがめ子亀こがめ子孫亀こまごがめをどうにかして捌いたのよりははるかに上等な味を期待していたというのに。この商品は知人の勧めで買ったが、あそこの寿司は少し酢がききすぎてるだなんて馬鹿舌のいう事は信じるもじゃないと痛感。ちゃんと酢が聞いてこその江戸前寿司だ。今、これを書いていて思い出したことだが、そいつと同じことを言う奴は他にもいた。行きつけの小料理屋で馴染みの隣の席の客はよく牡蛎食う客、特に生牡蛎を好むよう奴で空になった牡蛎殻を小山のように積み上げながらそうご高説を垂れていたが、京の生ダラ、奈良生マナガツオ、生米生麦生玉子、この中で食べて必ず旨いと言えるのは生卵とくらいのもので、そもそも生で食べる価値があるものとは限られている。玉子の他は刺身に向いた魚と、あと馬。話に聞いたところではラバだかロバだか、ロバだかラバだか分からないが、ともかくどちらかは生でもいけるらしいと聞く。生半可なことをなんだかんだと無責任に記したくないので、これ以上の言及は止める。この話は歌唄いが来て歌唄えと言うが、歌唄いくらい歌うまければ歌唄うが、歌唄いくらい歌うまくないので歌唄わぬ、そういったところに過ぎない。

 ともかく私自身、慇懃に言いに行きなさいと言われることがよくあるので、ここでは最大限丁寧に炙りカルビに対する不満を述べているつもりである。以前、和菓子屋のレビューで「ここの練りきりはこれっきりだ」とはっきり述べたところ、その店舗で購入するたびについていた青巻紙赤巻紙黄巻紙包みの落雁が頂けなくなったという反省に基づくものである。その代わり、日本の各地を仕事で飛び回って肥えさせたこの舌に嘘をつかせることは忍びない。空虚な九州空港で究極高級航空機に乗ったことや、新進シャンソン歌手総出演の新春シャンソンショーに招かれたことを自慢するつもりはないが、この点については駒込のわがまま者とそしられようと譲れない。

 梨の芯と茄子の芯は、茄子の芯と梨の芯だけ違い、茄子の芯と梨の芯は梨の芯と茄子の芯だけ違うという話は知っているだろうか。食材において捨てるべき場所と珍重すべき場所は似て非なるものだという考え方だ。このショップはそこの考えが十分でない。以前購入したシシシリーズの七種中の四種、シシ汁・シシ鍋・シシ丼 ・シシシチューのいずれも某料理勝負番組の審査員試食済みだというだけあってこの新案猪シシ食も楽しみにしていたので、本当に残念。


この竹垣に竹立てかけたのは竹立てかけたかったから竹立てかけた 60代/男性


   *


「店長、また例の竹垣さんです。今度は前回と違って――いやノリは全く変わらないです、ある意味スゴイっすよね――☆1レビューなので容赦なく友達ダチに上塗りレビュー依頼すればいいっすかね?」

「うんよろしく」

「了解っす」


〈了〉

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炙りカルビ 薄切りタレ漬け 特選 6人前 長尾たぐい @220ttng284

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