異世界になんて絶対行かないからな!行かすなよ!絶対に行かすなよ!!

ほぼお湯の水

第1話 もののあはれ

キキーッ!バアン…


残業明けの街、朦朧とする意識の中、最後に私が聞いた音。

直後、全身に走る強烈な痛み…


「うぅ…」


目を開けると、そこにいたのは見知らぬ神だった。


「お目覚めですか、田中様。」

「あ、あんた…あんたもしかして、神でしょ!!」

「え?ま、まあそうですが…。理解が早いななんだコイツ」

「ちょっ、ちょっとあんたねぇ…私が目覚めて秒で状況理解したからって、むざむざ転生される軽い女だなんて思わないでよねッ!転生先は、中世ヨーロッパ風な世界観の乙女ゲー内悪役令嬢(美少女)で勘弁してやるんだから!!ほれ、さっさと転送してくんろ!!」

「おいこら女!勝手に話を進めるなッ!」


古代ギリシャ風衣装に身を包んだいかにも神的な男は、業を煮やして頭のかんむり的なものを床にたたきつけた。


「たま~に来るんだよなあ、こういういかにも『待ってました!!』的アホがよぉ…。ホンット、萎えるわマジでよぉ…ってかお前どうせアレだろ、『いつか残業明けで意識朦朧と歩ってる中、うっかりトラックに跳ねられちゃってそのまま悪役令嬢にでもなれねーかなあ~うへへへへっ』とか、鼻の下伸ばして生きてきたんだろぉ!!」

「なっ…なんだお前!なんだお前!…なんだお前っ!!」

「お前ホンモンのアホだろぉ!!」


神らしき男と私は謎の空間でハァハァ息を整え、互いの出方を待った。先に口火を切ったのは、私だ。


「うっせぇーよ…こちとら大方死んじゃった演出喰らってて、少々ハートブレイクらぶずっきゅんなんだわさ……。」


額の汗をぬぐっていると、神らしき男(略して神男とする)はスチャッとメガネをかけなおし(そうそうメガネをかけていた)、バインダーらしきものをこれ見よがしに広げてみせる。


「田中なこ、26歳独身!都内在住ブラック企業勤務!金なし趣味なし男なし!!これで合ってるな??」

「うっせぇ!夢はあるわ!!」

「どうせ転生だろ!!」

「ウグッ」


神男はおおげさに溜息をつき、ふたたびメガネをかけ直す。


「本来ならば、お前の言ってたお望み通り『中世ヨーロッパ風な世界観の乙女ゲー内悪役令嬢(美少女)』に転生ルートだったんだが…。お前みたいな調子良いヤツがノコノコまかり通っちゃうとなると、こっちの世界もややこしくなってくんのよ。というかまあ、こっちも残業続きで、少々イラついてるもんでねぇ……というわけで、このままお前が態度を改めないなら、誠に残念☆ストレートお亡くなりルートとなりますが~…」

「まっっってまって神様。お神様。ちょっとお話しましょうよぉ~~ね、ちょっとだけ!ね!!っていうか誠に申し訳ございませんでした。」



流れるように土下座した私に、神男はケッと言い放つと、バインダーで私の頭をバコンと叩いた。


「痛ッ!」

「そもそもなあ、うっすら『あっこれ転生前のアレかも?このあと転生できるヤツかも??』てなって、なんで食い気味にツンデレヒロインかましてくんだよ。『悪役令嬢なんかでいいんだからねっ』とか言われてホイホイ転生さすか、このバカタレが。あ~気分悪ぃ~~~」


バコンバコン、と残業続きの神男による私への八つ当たりはつづく。


「イテ、イテテッ…それはすいませんて…、だって…真正面から転生さしてください!っていうよりか、『転生さすなよ?絶対さすなよ??』ってきたほうが、突き落とす方も突き落としやすいっていうか、ねぇ…。」

「ねぇ…じゃねーーーわ。知るかそんな謎の文化。」

「いや、『謎の文化』て…。いわずと知れたフリとオチですやん!!ジャパニーズカルチャーの、もののあはれを感じ取りなはれや!!」

「ハァァ!?『あはれ』か『なはれ』どっちかにしろや!!!分かりづらいんじゃそもそも!」


だって、ほんとに転生したかったからあ…と言いかけると、神男はチッと言いながら遠い目をした。



「『転生したい』とか言われれば言われるほど、普通に逝かせてやりたくなんだよなあ~~~………」



私はヒュッ、と息をのんだ。やばいやばいやばい、言ったらあかんやつ言うとこだったがや。


「ほ、ほぉーん…なかなか一筋縄ではいきませぬなあ……ところで、神様。相当お疲れのようですが…良ければ肩でもお揉みしましょうか??」

「あ゛ぁ??」

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異世界になんて絶対行かないからな!行かすなよ!絶対に行かすなよ!! ほぼお湯の水 @hobooyunomizu

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