暗闇の光
『E』と書かれた鉄の扉は、銀行の金庫のように厚く、中には光や風などの外的な力が及ばないようになっていた。
この中に収容されているEは、何年もの時間をかけて、少しずつその時を伺っていたのだ。
そしてその時は来た…
たった1人で世界のバランスを狂わす力を持つものが収容されているこの施設。
Eもまた、とてつもない力を持っている。
彼の力は外部のエネルギーを自身に蓄え、それを衝撃波のように放出し、周囲に壊滅的なダメージを与える力を持つ。
エネルギーと呼べるものは風圧、水圧など多岐にわたる。
「この部屋には欠陥がある…」
白く長く伸びた髪の毛に、色白の引き締まった長身のEは、赤い瞳を輝かせ、その時を待った。
少しずつ少しずつ、この部屋に入る隙間風をエネルギーに変換し、長年蓄積させてきた。
「この無に近い部屋も今日で終わりだ。」
「俺を止められるやつなんかいやしない…」
エネルギーと共に溜まった憎悪の塊を、今夜放出するのだ。
同時間帯
『D』と書かれた扉の中には、壁こそ窓は無いものの、天窓があり、星々と月明かりが部屋を照らしていた。
天窓の真下にある古いソファに腰かけて、Dは月を眺めていた。
彼は自分の力を嫌い、自らこの収容所に入ってきたため、部屋は他より緩い作りだった。
骨と皮のような灰色がかった肌の長い指を、読みかけのページにはさみ、ため息を付き目をつぶった。
生まれてから人の暖かさを物理的にも精神的にも感じられずに生きてきたD。
深い孤独には慣れた。
彼には、収容される前に一度だけ人の温度に触れる事ができた。
ただ、長い間生きてきた記憶の中で、夢だったかもしれない事実も拭えなかった。
森の中にある、大きな湖の前にあるベンチに腰掛けていた少女…
雨上がりの晴天の爽やかな空気の中…
日が湖面や木々についた雨粒に反射して眩しいくらいのその景色…
そんな記憶がDにはあった。
収容を名乗り出たのだ、今更外に未練は…ない。
「…僕はなんのために生まれたんだろ?」
長身痩躯のDは立ち上がり本をテーブルに置いた。
外の憧れを抱いたまま眠るのは慣れた。
今日も何もない日が終わるはずだった。
突然轟音が響き、Dの扉と壁は半壊した。
びっくりして起き上がるD。
砂煙が舞う中、サイレンが鳴り響いた。
「AtoZ収容所にて爆発を確認、セキュリティは収容者の鎮圧と確認を!」
館内に鳴り響くアナウンス。
やがてあちこちから銃声と怒号が聞こえ始めた。
Dは自体が飲み込めず、取り敢えずソファの上に座り込んだ。
そこに人影が現れた。
少年のような幼い顔と30代半ばくらいの男がDの部屋のもう意味をなさない半壊した扉から顔を出した。
「お?ここにもいた!な、あんた!一緒に外の世界に行かねぇか?」
男の方が声をかけてきた。
「いや、僕はここにいるよ。あなた達も部屋に戻った方がいい。」
Dは座りながら答えた。
「外の世界に興味はないか?広い世界もしかしたら俺たちを受け入れてくれる世界があるかもだぜ?」
「外の世界へ興味…」
Dは自ら収容されたが毎日頭を過ぎるあの景色を確かめたいとは思った。
「時間ねーんだよ!奴らが来ちまう!行かねぇなら俺たちだけで行くぞ?」
ずっと黙っていた少年の方が口を開いた。
「えっと…D…さん?あなたのその綺麗な景色…僕も見てみたいな。きっとその世界はあると思うよ。」
Dは目を丸くした。
「えっ?」
「おい!もう行くぞ!」
男はDに手を伸ばした。
「わかった、でも僕には触らないで。」
立ち上がったDに男は思わずデカっ!っとつぶやいた。
セキュリティがDの部屋にきた後はもう姿がなかった。
「最悪だ…よりによってDが…」
「た、たしかエージェントが今日は来ていたよな?至急応援要請をかけよう!」
静かな夜に燃え盛る炎と響くサイレン。
その炎を吸収して自分を止めにきたセキュリティを吹き飛ばしていくE…
「もう誰も、俺は止められん…」
自由を手にしたEは、破壊の限りを尽くす為市街地へと向かう…
身体にエネルギーを吸収し、発光するEの身体は暗闇に光っていた。
AtoZ そーや @soya-soranooto
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