後半

 誰もいない別校舎の階段。ちょうど日陰になっていて涼しい。

 そこで食べる昼ご飯と読むラノベは格別だ。他の人はやっていないことをしている特別感で少しくすぶられる厨二心。この時間がたまらなく好きだ。

 次の日は忘れず弁当を持って行った。それによってお昼休みすぐ、ここにくることができた。

 ラノベはいい。ラノベを読んでいると「いやいや、こんな美少女周りにいねぇよ乙」と思うことはないだろうか。俺はあった。数年前まで思っていた。なんなら今でも半分は思っている。だが、少し周りを見てみると半分はそんなことない。

 俺の席は主人公席ではなかったが、容姿端麗の妹がいる。美少女の幼馴染はいないが、両親が家を空けることが多い。周りをよく見ると類似部分が見えてくるものだ。それを知ってから俺は本を読むのが好きになった。類似点が1つでもあれば主人公は俺なのだ。

 でもまあ、ハーレムになって追いかけられるのは嫌だかな。この本やいま中庭を全力で逃げ回って俺の視界を汚すクソ男のように。なにがどうなったら全裸で学校の中庭を走り回ることになるんだよ。5~6人の女の子から逃げることになるんだよ。こいつと俺には生物という類似点以外ない。決してない。俺の娯楽時間を邪魔しやがってそのまま捕まって死ね。


「にいに」


 中庭にゴミを見るような目線を向けていると羽音うとが俺を呼ぶ声が聞こえた。


「ここにいたんだね」

「この時期はここが1番過ごしやすいからな」

「動物みたい」

「そうだな、いま人間を辞めたところだ」

「?」


 不思議そうに首を傾げたので中庭を指さした。


「へ、変態!にいにの変態!」

「俺かよ!」


 羽音うとの顔が一気に真っ赤になった。初心なところかわいいな。


「先生に伝えてくる!」

「いってら~」

「にいにも来るの!」

「えー」


 首根っこを掴まれて連れてかれた。


「失礼します」

「失礼しやーす」


 俺たちが行ったのは職員室。先生に伝えるには確実だよね。


「先生、お昼中すみません。今よろしいでしょうか?」

「ん、逢妻兄妹か。兄のほうは珍しいな。いいぞ、どうしたんだ?」

「単刀直入に申し上げますと、中庭で生徒が全裸で走り回っています」

「……は?」


 先生は「なにを言っているんだ」と言わんばかりの声が出ていた。

 そりゃ、俺がなにも知らない状態で言われても同じ反応するだろうよ。


「逢妻妹が言うなら、嘘ではないだろうが……」

「はい、兄が初め見つけて私もこの目で確認しております」


 先生の目線が俺に移った。羽音うとが俺の脇腹を肘で優しくコツンと合図のように叩いた。


「え、ええ。全裸で走り回っていましたよ。5人くらいの女の子から逃げるようにして」

「わかった。見てくるわ」


 場所は戻って別校舎の階段。階段から中庭を見下ろすと全裸とその集団が先生に捕まって怒られている。クソざまぁ。


「にいに、解決してよかったね」

「まあ、そうだな。俺の至福の時間を視覚で奪っていたしな」


 そう、解決してよかった。よかったのだが――。


羽音うと

「なに?」

「俺、行く必要あったか?」


 絶対に俺が行く必要なかったよな。俺、返答したこと以外置物だったし。

 すると羽音うとはいたずらっ子な顔をした。


「ない」

「俺の時間を返せこのやろー!」

「いひゃいいひゃい!にひにいひゃい!」


 俺は羽音うとの頬っぺたを引っ張った。恨みつらみを込めて引っ張った。


「俺の至福の時間を奪いやがって、俺がなんのために学校に来ていると思っているんだ」

「勉強のためでしょ」

「正論を言うな」


 引っ張りを辞めて文句を言うと正論を羽音うとに返されてしまった。

 兄に勝る妹はここにいました。


「なんで俺を連れて行ったんだ?」

「だってにいに、私だけ行ったらこの場から離れて別の場所に行くでしょ……」

「そうだな」


 面倒ごとに巻き込まれる可能性が0ではないのは事実だ。何か見ていたか、最悪同じグループとして扱われ、処罰を受ける可能性も0ではない。そのことを考慮すると移動するのは間違いないな。


「そうしたら、私がぼっち飯になる。そんなの寂しくて死んじゃう……」


 あ、スイッチ入ってしまった。最近こいつ学校でも人目がないとヘラるな。涙腺ぶっ壊れているんじゃないかってくらいヘラるとすぐ泣く。


「にいにに裏切られたと思って死にたくなる……。どうせめんどくさい妹で幻滅しているんでしょ……。ラノベや漫画やアニメみたいな理想の妹みたいじゃなくて幻滅しているんでしょ……」

「あーうんー違うよー」

「雑くない!?」


 だって実際めんどくさいし。口が裂けても言えないけど。


「思っているんだぁぁあああ!!!」

「え、なんで分かったの?」

「女の子の勘、舐めないでええええ!!!」


 凄いな女の子の勘。俺の考え筒抜けじゃん。気を付けよ。


「ごめんごめんて、お詫びと言ったらあれだけど、俺にできることならなんでもやるから」

「ぐずっ、なんでも?」

「できる範囲でな」


 羽音うとは涙は一瞬で止まり、一瞬で顔の距離を詰め、太陽のような輝く顔で答えた。


「にいにと一緒にデートしたい!」


 デートって兄妹でできるものなのか?まあ、普通にお出かけってイメージか。

 

羽音うとって俺のこと好きなの?」

「ん、好きだよ?」

「異性として」

「いや、ないよ」


 真顔にマジトーンで否定されちゃった。滅茶苦茶恥ずかしいじゃん俺。

 

「私はにいにのいもうとの羽音うとちゃんだよ!」


 逢妻羽音あいづまうと勉強もできてスポーツも万能でそのうえ面倒見も良いため、男女問わず人気があり、教師からも一目置かれている。情緒不安定で感情の起伏が激しいうえ寂しがり屋、面倒がよくかかる。逢妻凰斗あいづまおとの可愛い妹だ。

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いもうとうとちゃん 源 源 @minamoto_gen

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