いもうとうとちゃん

源 源

前半

「あ、弁当忘れた」


 とある日のお昼休み、ご飯を食べようと思ったら弁当箱がないことに気づいた。

 朝、弁当をカバンに入れ忘れてしまったか。しょうがない、痛い出費ではあるが、購買にご飯を買いに行くか。


「失礼します。逢妻凰斗あいづまおとさんはいらっしゃいますか?」

 

 購買にご飯を買いに行こうと思い、カバンの中から財布を探していると、俺が在籍している2年9組の教室の後ろの扉から妹の声が聞こえた。

 逢妻羽音あいづまうと、俺と同じ高校に通う高校1年生だ。勉強もできてスポーツも万能でそのうえ面倒見も良いため、男女問わず人気があり、教師からも一目置かれている。容姿端麗清楚なルックスからの清楚にふさわしいロングヘアに魅惑のボディにの持ち主。妹には密かに憧れている男子生徒も多いのでよく告白されているところを見る。そんな妹は自分でも兄妹なのか疑ってしまうほど、俺とかけ離れている。

 羽音は俺の席の方を見て俺が居るのを確認すると、一礼して教室の中に入ってきた。


「にいに、弁当忘れてたよ」

「ああ、ありがとう」

「スマホの電源切っていた?」

「そりゃ切るだろ。校則だし」

「生徒会所属の私が言うのもあれだけど、普通は切らないよ」

「いいんだよ俺は。面倒ごとは事前に防ぐのがポリシーだから」

「にいにらしいな。はいこれ弁当。気を付けてよね」


 俺は羽音うとから弁当を貰った。

 とてもかわいい弁当袋が羽音の趣味を表している。こいつ清楚な見た目のわりに可愛いもの好きだよな。

 

「じゃあ、私戻るから」

「一緒に飯食うか?」

「生徒会の仕事があるから」

「昼休みを削ってまでよくやるな」

「私がやりたくてやっているの」

「そか」

「じゃあ、行ってくるね」


 我ながらできた妹だ。勉強も人付き合いも全てほどほどの俺からしたら心から尊敬する。

 先ほどから物凄く俺に視線を感じる。確かに学校でも有名なできた妹が他学年の教室に来て出ていったら俺に視線が集まるわな。「何度見ても逢妻妹かわいい」と声が聞こえるし。実の妹が褒められて悪い気はしないな。お兄ちゃん嬉しいよ。

 きまづいから教室から出よう。


「わかりました。では、再来週までに学校紹介の記事のプロットを生徒会でまとめます。去年のスケジュールをみる限りでは問題はないかと」

「よろしくな」

「はい」


 逃げるように教室から出て、渡り廊下で別校舎に移動するために1年生の教室がある階へ移動すると、色んな生徒が駄弁っている廊下で先生と羽音が話し合っていた。

 どうやら学校の広報の話のようだ。


「広報の仕事か?」

「にいに」


 先生が立ち去った後、俺は羽音に話しかけた。


「うん、HPの記事の件で。にいにはぼっち飯?」

「なんてことを言うんだ。ぼっち飯はお互い様だろ」

「確かにそうだけど……。学校の私ってそんなに近づきづらいのかな」

「まあ、完璧すぎて近づきづらいな」


 こいつと兄妹じゃない場合を考えた時、俺が羽音に話しかけるかって聞かれると話しかけないな。


「1年生の生徒会庶務なのに生徒会長より生徒会長していて先生に慕われてるもんな」

「むー、生徒会のみんなも頑張っているよー!」

「悪い悪い」


 他愛のない話をしていると、廊下の奥から「逢妻さーん」と羽音を呼ぶ声が聞こえた。


「にいに、呼ばれているよ」

「学校で人に呼ばれることの、もはや『逢妻くんいたの!?ごめんね!』って空気みたいだと言われた兄への嫌味か?」

「なにそれ、おっも」

「ごめんて」

「そんなんじゃなくて、さっきの仕返し。じゃあ、行ってくるねー」

「がんばれよー」


 本当に頑張っているな、あいつはいつご飯を食べるのだろうか。

 俺も早く食べなければ。

 

 ☆ ★ ☆ ★ ☆ 


「ただいまー」


 家に帰ると誰もいない家に向かって挨拶をした。俺の家は両親が共働きかつ家を離れることが多い仕事なので、俺と羽音うとの2人きりの生活を送っている。

 帰宅後に手洗いなど、やるべきことをして夕ご飯の準備までにやることがないので、ソファーに座ってスマホを触り時間を潰すことにした。……某有名チャットSNSの通知が99件。うん、後で見よう。

 最近のアニメやラノベや漫画をチェックし、今度の土日にどれを観ようか読もうか確認しよう。

 おお、このラノベいいじゃないか。今度読もう。そのためにもいま積み上げているラノベを消費するか。

 先ほどからさらに通知が来ているがラノベを読むんだ。少し待っていてくれ。


「にいにいいいいいいいいい!!!」

「ぐえっ」


 リビングのドアがバンっと強く開かれると、羽音の叫びと共に羽音はリビングのソファーに寝転がっている俺にダイブしてきた。

 相当な衝撃に変な声が出てしまった。


「なんでスマホ見ないのおおお!!!」

「ちょ、待てって」

「連絡したのにいいいいい!!!」

「あとで見ようと思たんだよ」

「絶対嘘だあああああ!!!そんなことより、聞いてよぉおおおおおおお!!!」

「そんなことよりって、お前が言い始めたことじゃないか。羽音うと、とりあえず制服脱げ」

「えっ///」

「そういうエロい意味じゃねぇよ。制服にシワがつくだろうが」

「し、知っていたけど!」


 羽音うとが自分の部屋へ着替えに行った。

 することもないし、飲み物でも用意してやるか。


「あ、にいに。飲み物用意してくれたんだね。ありがと~」

「せっかくだしな」


 机に飲み物を用意し、俺たちは向かい合いながら座った。

 制服を脱いで中学時代の体操服を着ており、体操服が悲鳴を上げている。

 中学生時代の体操服って高校生になると部屋着になるよね。

 

「で、どうしたんだ」

「……うん。今日、学校でね」

「うん」

「クラスの子が私の見て居るアニメの原作の話をしていたの……」

「……うん」

「でね、私の旦那さん、原作では他の女とくっ付いたんだって……」

「……」

「グッズも買って、婚姻届も用意して、これからにいにと3人で暮らそうと思って……」

「え」

「話を聞いた時から死にたくなって、なんのために生きているんだろうって……」

「……」

「にいにはメッセージ無視するし、そこからの授業が上の空だったし……」

「……」

「もう、無理。ダメ……」


 そう、外ではできた妹だが、内ではとてもめんどくさい妹なのだ。

 情緒不安定なところが非常にめんどくさい。

 俺以外の人目がある場所では絶対ヘラったりすることないのが凄い。


「にいには、裏切らないよね?」


 おっも。

 こんなにも嫌な上目遣いがあるだろうか。


「いまのところ彼女作る予定はねぇよ」


 その一言を聞いて羽音うとはニパァッ!と明るい笑顔になった。

 この笑顔、お前のことを好きな人な学校の人に向けてやれよ。泣いて喜ぶぞ。


「なら良かった!あんなクソ男は私からお断りだよ!」


 おい、お前の旦那さんだろ。さっきまでの愛はどこへ行ったんだよ。


「にいに、一緒にポ〇モンやろ!」

「一緒にやるもんじゃないぞ」

「いいの!一緒に対戦しながら考えよ!」


 俺、部屋に戻ってラノベ読みたかったんだけどなぁ。まあ、可愛い妹のお願いを断れないのは兄の宿命か。


「いいよ、やろうか」

「やりぃ!」


 ソファに俺が座り、足の合間に羽音うとが挟まってきた。

 ゲーム機の電源を付けると、羽音うとの様子が変わった。


「……今日さ」

「うん」

「みんな放課後カラオケ行くんだって……」

「うん」


 ホーム画面のカラオケを見て思い出したのだろうか。

 なんてものを開発しているんだ!


「私ってそんなに誘いにくいのかな……」

「自分から混ぜてって言えばいいじゃん」

「言っても断られるに決まっているよ!私やっぱり人との距離感とかおかしいし避けられているんだよぉ!うっへへぇ!」


 きっとクラスメイトは忙しいし孤高の花は呼べないとでも思っているんだろうな。そんで、それを伝えてもこいつは自己肯定感低いから否定するに違いない。あと「うっへへぇ!」ってどんな泣き方だ。


「まあ、友達は数じゃなくて質だと思うしな。お兄ちゃんを見てみろ、親友と呼べる人間なんていないぞ。クラスメイトと喋る日なんてある方が珍しい」

「にいに、慰め方下手」

「うるさい」


 さっきまで和気あいあいしていたのにいきなりお通夜の雰囲気になってしまった。


「ゲーム辞めるか?」

「……やる」


 この後、5タテ食らってまた羽音うとがヘラった。

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