古の種族と色彩の神話

魔法図書館で、ノエルとルナは「古の種族と色彩の神話」を開いた。その重厚なページには、時を越え語り継がれてきた十色の伝説が綴られていた。


十色の時代――それは、世界が10の種族に分かれていた時代のこと。それぞれの種族は異なる髪色を持ち、その色が力の象徴であり、彼らの役割や使命を示していた。ノエルとルナは、その色ごとに異なる魔法の力と運命に魅了されながら、読み進めていく。


「太陽の民は金色、月の民は紫、そして海底都市ニライを守る青の民。やっぱり私とレイラさんの髪はこの青の血統だったんだね」ルナがつぶやく。


「うん。水の力を持ち、夢と現実を越えて旅する能力を授かってたんだって」ノエルも深く頷き、次のページへと目を移す。


その後のページに詳細がまとめられていた。



1. 金色の民 - 太陽の守護者

太陽の力を司り、光と繁栄をもたらす民。


特徴:昼間に最大の力を発揮し、農業や文明の発展を支えた。



2. 紫色の民 - 月と夢の管理者

夜を司り、人々に夢を与える魔法を使う。


特徴:人の心に安らぎをもたらし、眠りの神秘を操る。



3. 青色の民 - 海底の守護者(ニライの民)

水を操り、夢と現実の狭間を行き来する。


特徴:ニライの海底都市に住み、純粋な青の髪は強力な魔力の象徴。



4. 緑色の民 - 大地と植物の管理者

自然を育み、大地の恵みを司る民。


特徴:森林を守護し、豊かな農地を提供。



5. 赤色の民 - 炎と戦いの象徴

戦士として、戦争時代の中核を担った民。


特徴:戦闘に特化した魔法を操り、炎を自在に使う。



6. 銀色の民 - 天空の神託者

空と時間を司り、神々に近い存在。


特徴:時の魔法を操り、未来の予兆を知る者。



7. 砂色の民 - 砂漠の旅人

砂と風を操る力を持ち、砂漠での生存を支えた。


特徴:風の流れを微かに操る特殊な魔法を使う。



8. 黒色の民 - 地下の守護者

地下深くに住み、鉱石と闇を支配する力を持つ。


特徴:隠された財宝を守り、地下から世界を支える。



9. 茶色の民 - 渓谷の導き手

渓谷の風と大地の狭間で生きる民。


特徴:音と振動を操り、道を照らす力を持つ。



「やっぱり私の髪も、何か特別な意味を持ってるんだね…まるでエレシアの住民よう」ノエルはそっと自分の銀髪を指で巻きながら言った。


だが、その特別さが同時に彼女の心に一抹の不安を残していた。ページをめくるたびに、彼女たちは世界の調和がどう崩れ、戦争が起きたのかを知る。長い戦いの末、種族は和解し、髪色は混ざり合っていった。結果、ほとんどの人が黒に近い色を持つようになり、純血の色を残す者はごくわずかとなったのだ。


「ねえ、ルナこの本にここに書いてる種族って9つしかないよね」


「たしかに...」


そう言いながら読み進めていきノエルが次のページを開いたとき、不思議な節が現れた。



「影色の民――彼らは記録から消された者たち」


その文字は、ページの隅に小さく記されており、まるで本来記述されるべきではない秘密を匂わせるようだった。


「影色の民?」ルナが眉をひそめ、ページを覗き込む。


「他の種族から色を奪い、その力を自分のものにする者たちだって……」


ノエルが読む声が少し震えた。


「彼らは他の民を支配しようとして、世界から追放されたんだって。」


「存在しないってこと?」ルナが不思議そうに訊く。


「ううん。封印された…とある。でも、どこに封印されているのか、どう封じられたのかは書かれてない。誰もその封印を見たことがないみたい」ノエルはページの最後の一行を指でなぞった。


「影色の民は、今も影の中に潜むのかもしれない――決して姿を現さず、ただ静かにこの世界を見守っているだけで」


その一文は、ただの空想の産物とも思えるが、どこか現実味を持ってノエルとルナの心を揺さぶった。


伝説によると、影色の民は十色の戦いと呼ばれる最終戦争の末、消え去ったとされている。


「彼らは闇そのもの。力を吸収し、すべてを同化する存在。」


本に記されたその一節を読んだノエルは、小さく息を飲んだ。


影の民の目的は、十色の民の力をすべて奪い、世界を支配することにあった。その中心にいたのが「ナハシュ」という名の王である。彼は影の力を極限まで高め、世界そのものを闇で覆い尽くそうとした。


十色の民の中でも特に力を持つ英雄たち、太陽の英雄サルディスと炎の英雄アストリアは、影の民との最終決戦に挑むことを決意する。彼らは全ての種族の協力を得て、影の民に立ち向かったが、その戦いは凄惨を極めた。ナハシュの力は強大で、どの種族も単独では太刀打ちできなかった。戦いの末、サルディスとアストリアは自らの命を賭け、最後の力を絞って影の民を封じ込めた。


「ノエル、これはただの伝説だと思う?かなり現実味を帯びているように思えて...」


「完全なおとぎ話ってわけではなさそうだね」


ノエルはページをめくりながら考え込んだ。「英雄サルディスとアストリアが協力して影の民を封印したみたいだけど…何かもっと複雑な理由がありそう。」



次のページには、興味深い一節が書かれていた。「この戦いは影の民の勝ちである」2人は思わず息を呑んだ。


影の王ナハシュの大規模魔法により、ほとんどの人が色と力を奪われてしまった。その中でも特定の条件を満たしたものがその魔法を逃れ、2人の英雄が命を賭け、影の王ナハシュとその庇護下にある民をの封印に成功した、しかし、色を奪われた種族の髪色は黒に染まった。


ルナは真剣な表情で本を見つめた。

「だから、今はほとんどの人が黒い髪を持ってるんだね。影の民が消えたことで、普通の人たちにもその色が伝わったってことかも。」


「でも、街歩いてると意外とカラフルな髪の人も多いよね。」


「んー、やっぱりはるか昔の伝説だし、私たちみたいに受け継がれてきた過程で増えていったのかなって。まあ、中にはおしゃれで染めてる人もいるだろうけどね」


「そっか。たしかに最近は髪染め流行ってるしね」


「ノエルは魔法に詳しかったよね。ここに大規模魔法って書かれてるけどこれって何?」


「私も、あまり詳しくないけど、大規模魔法は古代魔法の一種で世界を飲み込む範囲での魔法だよ」


「世界を!?」


「喫茶店常連のおじいさんから聞いた話だけど今では禁じられた魔法として過去の遺物になってるから国単位での実験が禁止されてるし、そもそも現代の技術じゃ不可能とされてる魔法だから古代魔法がいかにすごいかを思い知らされるんだけどね」


「国単位で禁止されてるなら個人で研究する分にはいいの?」


「深くは言及されてないけど、禁止はされていないはずだよ。でも、国ができないことを個人の力だけで行うのはかなり無理があるし、国からの資金援助もないだろうから莫大な資金と魔法知識が求められるけどね」


「私には無理か...」


「ル、ルナが世界を未曾有の危機に陥れようとしてた..」


「冗談だって」

重い空気を吹き飛ばすようルナが微笑んだ。


そして2人は本の最後のページを指でなぞった。


そのページにはこう書かれていた。「十色の力が再び集結する日、封じられた影は再び目を覚ますだろう。だが、それは世界の破滅を意味するのか、それとも新たな時代の幕開けか――それは、9つの色の戦士と影の存在がどのような選択するのかに委ねられる。」


本を閉じた二人は、図書館の静けさの中でしばし言葉を失った。影の民の存在、そして自分たちの血統が持つ意味。それらがただの神話にとどまらず、今の自分たちの人生にも影響を及ぼしていることに気づいた。


「さあ、帰ろっか。」ノエルが立ち上がり、ペンダントを握りしめながら微笑んだ。「いつか、この本に書かれていることの真実を見つけるために。」


ルナも微笑んで立ち上がり、二人は静かに図書館を後にした。彼女たちの冒険は、まだ始まったばかりだった。

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