第13話 結果報告
「うえええ、仕事したくないーー……。」
会社のデスクに向かい報告書を書いていたわたしは、誰もいない夕方のオフィスで1人叫んでいた。
「アルバイトにこんな仕事させんなー!」
そう言いつつもわたしの手は律儀に報告書を制作している。
「なによ、勤労の喜び知りなさいな。」
不意に声をかけられた。
見上げれば案の定、サングラス姿のわたしがいる(髪型も違うけど)。
「たまにはあんただって、こんな面倒な案件対応しなさいよー。」
サングラス姿のわたしこと課長に文句を言う。
他の人がいる時は敬語で話すようにしているが、誰もいなければわたし達は姉妹で同一人物。
同じ体細胞から造られた実験用クローンで、外見年齢が違うのはその時の実験の影響。
他にも最低4人は
閑話休題。
ともかくわたしは今回の件の報告をすることにした。
結果から言えば双方同意の元、同じ駆体の中で人格が同居することになった。
普通なら不可能な話だが、元が同じ人格であるため可能なことであった。
ただ、2人分の人格を載せるには通常の駆体のハード要領は少ない。
そこで近々KAGURAの資金でハード増設手術が行われることになった。
その交渉のお膳立てまでが、わたしの今回の仕事になった。
だから仕事したくない。
そんなわたしの話しを課長は静かに聞いていた。
まあ、課長からしたら想定内なのだろうからわたしからも質問しておこう。
「ねえ。 今回の件って『特殊情報法』絡みだからわたしに回したんじゃないの?」
特殊情報法とは、簡単に言えば災厄で失われた情報や技術にまつわる法律だ。
復興したとは言え災厄以前の反映から見ればまだまだな状況だ。
突如として、災厄以前の超技術が世に蔓延すれば大混乱となるし、最悪の場合は災厄の再発生だってありうる。
そのためにそれらの情報を独占できないように、取り扱いの法律があるのだ。
もっともザル法もいいところなので、抜け道も多い。
今回のように調査側と交渉側が別人であり、交渉側が詳しい情報を知らずに遺失技術の情報をやりとりした場合はお咎めなしになる。
そのため、わたしはよく『またもの何も知らない回天堂さん』状態になってしまうのだ。
それが嫌で、働きたくないのもある。
「いええ。 単純に電話対応したあなたを先方が気に入っていたからよ。」
……サラリと斜め上の回答を返してくる。
「それじゃあ、わたしが動く必要なんてなかったじゃない!」
怒りが頂点に達して、頭の上から蒸気が吹き上がる気分だった。
「あら、お得意さんができるのは良いことじゃない?」
あくまで笑みを絶やさずに答える課長。
同じ顔だけにムカつく言い方ーー!!
「名前、名乗ってないんだからお得意さんも何もあるかー!!」
二人しかいないオフィスにわたしの叫び声が虚しく響き渡った。
ヨカゲシノブの事情 サイノメ @DICE-ROLL
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