千載の呪、煉獄より出たる琴の音は充ちる。

秋の陽だまりの中、男はひとり空虚な心を
持て余す。何か、大切なものを何処かに
忘れている。そんな気がしてならないと。

神社の鳥居を潜ると、其処には不思議と
温かく安らかな琴の音色が響き渡り…。

  そのひとは、名を 琴音 と言った。

薄暗い神社の宝物殿の片隅に、女はひとり
空虚な心を持て余す。古琴の雅器としての
己の生を、正体を明かしてはならなかった
その筈が。

千載の刻を経ても尚、想いは変わらず。
一千年の時空を何度も行き来して尚、恰も
呪の様に繰り返す、出逢い。

永劫の煉獄より出たる琴の音は、空虚な
心を満たして消える。

 秋の陽だまりの、樹々の葉を揺らして。